奔走―前編―〜矛盾だらけの蓮心(レンゴコロ)〜
少し書き方を変えてみました。読みやすくなってるでしょうか?
「ふぁ…」
蓮斗は人目をはばからずにおおきな欠伸をした。
今は昼。昼食を取り終わり自由時間の真っ最中である。珍しく今は1人の蓮斗は、特にやることもなく自分の部屋で音楽を聞いていた。隣では南貴が仲間(あえて友達とは呼ばない)と共に何かを話していた。
イヤホンをしている蓮斗には会話の内容は聞こえないが、悪いことを考えている時特有の嫌らしい笑い方をしていることから、ろくなことじゃないことは確かだった。
ため息をついてプレーヤーのスイッチを切る。同時に、南貴達の声が耳に入ってくる。巻き込まれたくはなかったのでその場から去ろうとする直前、気になる言葉が蓮斗の耳に入ってきた。
「蓮斗には教えるなよ。あいつは見かけに寄らず厄介だ」
少しだけ、足を止める。しかしすぐにまた歩き始めた。
どうせたいした事ではないと、たかをくくったからだ。
だがしかし、蓮斗が思っているよりも、遥かに問題は大きかった。それも、蓮斗にとっては余計に。
夕食を食べ終わり、ふと思う。そういえば、朝以来恋を見ていない。今まで気付かなかったのが不思議な位に、1人の時間は自然なものだった。
「よくよく考えれば、これが普通だったんだよな」
恋が転校してくるまではほとんど独りで過ごしていた蓮斗。しかし、そんな日常は恋によっていとも簡単にぶち壊された。代わりに、独りでいるよりも2人でいることの方が日常になっていった。
3ヶ月経って、簡単に俺の隣、というポジションに溶け込んだ彼女は、それでいて蓮斗には自分の事を話さなかった。別に聞かなかったし、知ろうとも蓮斗は思わなかった。ただ平穏が欲しいだけ。平和なら、それでいい。そう思っていた。
(あれ?)
でも、蓮斗は気付いた。今の、1人でいるときの方がよっぽど平和な事に。
ならなぜ、自分はあの時ああ言ったのだろう。
なぜ、自分の傍に彼女を置くような事をしたのだろう。
気付いてしまえば、簡単な事だった。
平穏を望む自分。
戦いを望む彼女。
今の状況は、お互いにとってデメリットしかない。
恋が帰って来たら、解放してやろう。
彼女が望むなら、適当に勝負してやればいい。
「そうだな。それがいいや」
独り言を呟きながら、自分の部屋に向かう。
急に冷めてしまったような自分の心に少しだけ違和感を感じつつも、蓮斗は思う。
あぁ、何故今まで気付かなかったのだろう、と。
しかし、恋はいつまで経っても帰ってこない。
時計を見れば日付が変わる10分前。
「遅いな…」
就寝時間を過ぎても、恋なら昨日のように自分を抱きまくらとするために部屋にくるだろう、と思って起きていた蓮斗だったが、いつまで経っても恋は来ない。
「南貴もいないし…」
ただ1人のルームメイトである南貴(皆他の部屋に行っていない)も、何故か帰ってきていない。
「ま、いいか」
帰ってこないものはしょうがない。蓮斗はそう思い、ベッドに寝転がる。目を閉じるが…。
「…無理だ」
眠れない。ただ単に慣れないベッドでは眠れない、とかそんな理由ではなかった。
何かが胸に突っ掛かっている。
何か、とは恋の事。なぜか傍にいないと落ち着かない。部屋に戻ってからずっとだった。
「しょうがない」
そのうちじっとしていられなくなり、起き上がる。少し歩けば気も紛れるだろう、と思ったからだ。
玄関前まで来た蓮斗は、そこであるものを見付けた。
「これは…外出届け?」
それは、外出する際に書く名簿のようなものだった。何時から何時まで、それぞれ外に出た時間と戻ってきた時間を記してある。
「恋の名前は…っと。あれ?」
疑問。恋の名は確かにあるのだが、帰ってきた時刻が記されていない。
「まだ帰ってきてないのか?」
そこで、更に蓮斗は不思議なものを見付けた。恋のすぐ下に、南貴の名が記されている。こちらもまだ、帰ってきていない。しかも、その更に下には、ずらっと帰ってきていない奴が5、6人。
「そういや…」
蓮斗は、南貴が宿泊研修に来てからの言動を思い返す。
『な、それよりもさ、恋ちゃんって今フリーなのか?』
『マジ!?じゃあ俺にもチャンスはあるって事だな!っしゃあ!!』
『いいか?ここだけの話…恋ちゃんに勝負仕掛けて勝てば、なんでも言う事を聞いてくれるらしいぜ!』
『蓮斗には教えるなよ。あいつは見かけに寄らず厄介だ』
「まさか…」
蓮斗の頭の中で一連の流れが出来上がる。
「まさか!」
気がつけば、蓮斗は外に飛び出していた。あてもなくただ走った。
蓮斗は思う。自分の行動は矛盾だらけだと。
数時間前までは突き放すつもりでいたのに、今は助ける為に走っている。
そうだという証拠もなしに、ただ『そうかもしれない』という可能性だけで見知らぬ土地を走っている。
蓮斗は、走りながら叫んだ。
「どうせ…矛盾だらけだよ俺はぁ!!」
叫ぶと共に、見えた男の集団に突撃をかけた。