朝の出来事〜いきなりの急接近!?〜
くっつきまくりです。主旨がずれてますが、たまにはありということで。
「ん…」
朝の日差しが瞼ごしに蓮斗の目に突き刺さる。毎度のことながら、慣れないベッドではなかなか寝付けないものだ、と蓮斗は思った。
起き上がろうとして、体を起こす。が、右半身がやけに重たく起き上がれなかった。目を擦りながら、ふと蓮斗は思った。
(なーんか、前にも同じような事があったような……)
何だったっけ、と覚醒しきらない頭で考える。
「あ、起きたんだ」
耳元で恋の声。
「!」
即、覚醒。
そう。右半身の重みの正体は、恋が蓮斗の身体に引っ付いていたからだった。もはや右腕とかそんなレベルではない。完全に蓮斗の身体は恋の抱きまくらと化していた。
蓮斗は叫び出したくなるのをすんでのところで堪え、恋をひきはがす。
「なんで…!?」
問い詰めようとする蓮斗だが、
「しー…。皆が起きちゃうよ。いいの?」
その言葉で黙り込む。ズルイ顔で笑う恋が少し本気で憎らしい。
「…なんでここで…てか俺のベッドで寝てんだよ」
今度は小声で。すると、恋は少し顔を赤くして、ズルイ笑みから悪戯っぽい笑みに変わった。
「実は私、……その、なんか抱いてないと眠れなくて…けど、抱きまくらは荷物になるし…だから」
つまりは、蓮斗は抱きまくらがわりにされたのだろう。
「でも、宿泊研修の間はどうすんだよ。あと3日あるんだぞ?まさかとは思うが…」
「……ダメ?」
「ダメ?って…お前なぁ」
「んん…?どしたぁ、蓮斗…」
「「!!!!」」
突然、隣のベッドがもぞりと動いた。隣は確か南貴だったかな…と蓮斗は思い返す。
マズイ…南貴はマズイ。そういえば恋を狙ってる発言をしてたような気もする。
「っ、我慢しろよ」
「へ?きゃっ…」
「よう、起きたか南貴」
「おぅ…って、なんだよそれ」
南貴は蓮斗の布団を指差してそう言った。やけに不自然に膨らんでいる。
「…太ったか?」
「寝ぼけてんじゃねぇよ」
「じゃあ何だよ」
「抱きまくらだよ。悪いか。これないと寝れないんだよ」
「ふーん…」
「いいから鏡見てこい。頬っぺたに『馬鹿』ってかいてあるぞ」
「マジ!?くっそぉ、俺の顔が台なしだぁ!」
南貴はそう叫びながら部屋を飛び出して行った。ちなみに今は午前5時半。うるさいことこのうえない。
「…いいぞ、恋」
蓮斗がそう言うと、ぷはっと息を吐いて恋が出てくる。
「ふぅ〜。苦しかったぁ」
「そ、そうか?この布団結構厚いから…」
「そうじゃなくて!…その、強いんだもん。力が」
「う…」
ばつが悪そうに目を逸らす蓮斗。南貴に指摘された布団の膨らみは、当然の如く恋だった。恋を覆うように抱きしめて、何とか抱きまくらでごまかしたのだ。
「…悪かったよ」
そういった後に、自分達がかなりの至近距離で会話していることに気付いた蓮斗は、パッと腕を解く。
「ふふ、やっと気付いたんだ」
実は抱きしめている感覚が心地よくて離せなかった、とは言えない蓮斗だった。
恋は立ち上がり、部屋の入口に向かって行った。自分の部屋に戻るのだろうか、と蓮斗は思ったが、直後にガチャリ、と音が聞こえてくる。
「…?何を…」
蓮斗が喋り終わる前に、恋は駆け足で戻って、そのまますっぽりと蓮斗の懐に入り込む。
「えへへ…」
いきならの事に蓮斗の体温は急上昇。
「なっ、な、なにを…」
さっきまで同じようなことをしていたのに、と蓮斗は思ったが、やはり自分からするのとされるのとは訳が違う。しかも今度はしっかりと顔が見える分余計に緊張、心拍数は朝とは思えないほど高ぶっている。耐え切れずに目を閉じると、今度は首に腕が絡み付いてくる。身体の密着度はかなりの高さ。高密度である。
目を閉じて他の神経に気を向ければ、恋の規則正しい吐息が顔に薄くかかっている事がわかる。
「っ!からかうのもいい加減に…」
覚悟を決めて(我慢が出来なくなって)目を開く。が、そこにはからかってるような恋の笑顔はなく、目をとろんとさせて、何か安心しきってるような顔をした恋がいた。
「……なに?」
「…なんでもない。好きにしろ」
蓮斗は自然とそう答えていた。こんな幸せそうな顔を見て、今更突き放すのは流石に良心が痛む。
恋の頭を撫でてやると、恋は嬉しそうな表情のまま目を閉じた。
(喧嘩してる時とは大違いだ。いつもこうならいいんだけどな)
そう思いながら、部屋の時計に目をやる。今は6時。――後1時間は、このままでもいいか。
そう思い、蓮斗も目を閉じた。
「あれ?鍵しまってら。オーイ、蓮斗ー?開けてくれー!」