恋景・威実〜仕草は心の鏡とも〜
そろそろ、サブタイトルの形式を変えようかな、とか考えています。
「じゃあ、また」
「はい……。ぜひ、また」
若干顔を赤らめて、保健室から出る蓮斗を見送る栗実。それに対して蓮斗も珍しく照れ、顔を見られないよう、振り向きはしないで後ろ手を振った。
「参った……。反則だよな、アレ」
頭を掻きながら呟く蓮斗。
「……げっ、授業始まってんじゃん。……出る気もなかったけど」
朝からあの2人に巻き込まれていたのだ。気が付けば時間は過ぎていて、昼休みすら終わってしまっていた。
「…………」
ガラガラ、と教室に入る音が響き、それなりにざわざわとしていたはずの生徒達は皆一瞬黙り込む。
蓮斗は別段気にせずに、無表情で自分の席に向かった。
――いつものことだ。
蓮斗が教室に入れば、まるで電源を切った様にざわつきは消え去る。それが、逆に静寂という名の音として蓮斗に襲い掛かるのだが、もはや教師にすら注意されない蓮斗には、かえって気楽な気もしていた。
隣を見れば、恋は真っ直ぐに前を向いている。
まるで、蓮斗には気が付いていないように。
蓮斗にはすぐに分かった。恋が、自分を無視していることに。
「……ふぅ……」
居心地の悪さを感じ、思わず溜め息をもらす蓮斗。
その拍子に、景の姿が目に入った。
景は、寸前まで蓮斗の事を見ていた様で、ばっちり2人は目が合う。慌てて目を逸らしたのは、景だった。
あの展望台での出来事から、2人はあまり話していない。
話してもどこか他人行儀で、以前のような親しさは皆無。
まるで、別れた後の恋人のような、そんな関係。
ここでも居心地の悪さを感じ、蓮斗は視線を外に移した。
窓際の席に座る威吹は手の包帯をくるくると巻いたり外したりして遊んでいた。
蓮斗の視線に気が付いて、無邪気に笑顔を漏らす。
小さく手を振るその仕草は、蓮斗を少しだけ楽にさせた。
――寝よう。
少し椅子を引いて、1番寝やすいポジションを作る。
机に腕を載せ、更に頭を乗せる。後は目をつぶれば、眠気が徐々に意識を侵食していってくれる。
のだが、蓮斗はそこで栗実の事を思い出してしまった。
身体には、抱きしめたあの感触が生々しく残って落ち着かず。
頭では、栗実の過去が思い返されて、色々と考えさせられてしまう。
そのまま、居心地の悪さと落ち着かなさは解消されずに、授業は終わりを告げていた。
放課後。皆は思い思いに帰りの準備を済ませ、次々と帰宅するために教室を後にしていく。
蓮斗もまた、帰るために鞄に勉強道具を詰め込んでいた。
と、その時に、隣からドサリ、と何かが倒れる音が。
「………っ」
「恋?どうした!」
恋が、椅子から落ちる音だった。蓮斗は鞄をほうり出し、恋を抱き上げる。
「お前…、ちゃんと寝てるか?クマがひどいぞ」
蓮斗の言う通り、恋の目の下には、ハッキリとわかるクマが出来ていた。誰の目から見ても、睡眠不足は一目瞭然だ。
「今、保健室に――」
とにかく、眠らせなければ。
そう思い恋を抱き上げようとする蓮斗。だが。
「っ、やめて!」
恋は、蓮斗を突き飛ばした。
蓮斗は予想外の反応に驚き、そのまま尻餅をついてしまうが、恋はそれに目もくれずに立ち上がり、ふらつく足取りで教室を出ていく。
そこで、ハッと蓮斗は我に返った。
直ぐに立ち上がり、恋を追いつき肩を掴む。
「馬鹿、そんなので帰ったら事故ったっておかしくないぞ!せめて休んで」
「うるさい!私に命令しないで!」
蓮斗の声を遮る、恋の怒声。
一瞬ビクリと蓮斗は動きを止めてしまうが、それでも蓮斗は恋の肩を離さず、力任せに振り向かせる。
そして言い返そうとした寸前。
電池が切れた人形のように、恋は倒れた。