表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/95

栗実―前編―〜過去の語り部〜

栗実編です。

「普通じゃない……ねぇ」

「? ど、どうしたんですか?」


何気なく呟いた蓮斗に、栗実が返す。

蓮斗はそれに、何でもない、とだけ返すと、ベッドに寝転んだ。



威吹の相手をして、蓮斗は何となく保健室に訪れていた。

形は違うとはいえ、同じような精神状況をしている栗実がいるから蓮斗は来たのかもしれない。


栗実は立場上、教育実習生という立場にいるが、それは偽りの仮面に過ぎない。本当は、秋奈の患者であり、いつでもカウンセリングが受けられるように、と教育実習生を『演じている』だけである。

そして、普段は全くと言っていいほどに人が来ないこの保健室に配属(?)されているのだが……。


「あの人って、何者なんだ……?」

「……さぁ」


栗実がサラリと答えるということは、蓮斗が言いたいことも直ぐにわかったのだろう。


なにをどうしたら、一介の教師が自分の患者を教育実習生、という面目で学校に配属させる事が出来るのか。

出来るとしても、全く他の教師陣から文句が出ないのはどういうことなのか。


「……止めた。考えるだけ無駄だ」

「はい。そう……思います」


コーヒーを煎れながら、若干控えめに答えた栗実。

その後ろ姿を見て蓮斗は、少し疑問に思った。


栗実は、蓮斗と同じく、2つの人格を持っている。種類はかなり違うものの、基本的には同じだ。


蓮斗は、喧嘩の際、相手に対しての怒りが限界を超える、もしくは予想外のダメージが蓮斗自身に与えられれば、2つめの人格が顔を出す。それはこの上ない程好戦的で、極めて攻撃的な人格といえる。


しかし栗実の『2つめ』は、いうなればタイプが違った。

蓮斗の『2つめ』が《怒》であるとすれば、栗実の『2つめ』は《哀》に属する。


栗実は決定的にショックやダメージに弱い。主に、心の面で。

秋奈によれば、栗実は喜怒哀楽の哀、つまり哀しみの割合が多く、少しのことで悲観的な考えしか出来なくなってしまうらしい。


そんなことを続けていくうちに、『2つめ』が生まれた。

心がダメージを受け、それを溜め込まないように。

感情の爆発を起こし、少しでも楽になるように。


つまり、2つめの人格が出れば、栗実はどうしようもなく泣きじゃくるしかなくなる。自身の感情とは関係なく、叫び、泣く。


それはどうしようもなく、痛々しいものだった。


「…どうぞ」

「ありがとう。栗実さん」

素直にコーヒーを受け取り、1口飲む。

それを、栗実は嬉しそうに見ていた。


「なぁ、栗実さん?」

「はい。なんでしょう」


緊張も解れたのか、栗実はスムーズに受け答えをする。

栗実は不思議と蓮斗にはあまり固くならない。

理由を聞いても、顔を赤くしてしばらく口を開かなくなるので、蓮斗は今は聞くのはやめた。

それよりも、先に聞きたい事があるからだ。


コーヒーを目の前にあった棚に起き、栗実と向き合う。

それを見た栗実は、佇まいを直した。


「俺って、異常なのかな」

「……?」


蓮斗の言葉を聞いて、不思議そうに栗実は首を傾げた。


「あーっと…、質問を変えよう。……えっと、『普通』って、なんだと思う?」

「…蓮斗さん?」

「あ、いや、さっきさ、ある奴から『普通じゃない』って言われたからさ。じゃあ、普通ってなんだ?って思って」


頭を描きながら恥ずかしそうに視線を逸らす蓮斗。

それを見た栗実はクスッと笑い、椅子から立ち上がった。


「?」


そして、蓮斗の隣にちょこんと座る。

栗実は、複雑な笑顔で、こう言った。


「私の、過去を、聞いてくれますか……?」


そんな顔をされては、男としては断れるはずもなく。

蓮斗は直ぐに頷いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ