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駐車場―後編―〜特攻服に身を包む少女は〜

耳を塞ぎたくなる騒音が駐車場を覆う。それに同時に、駐車場の約半分が敵によって占拠された。


「おいおい……。ちょっと多すぎだろ」


呟いたのは蓮斗。その隣に南貴が歩み寄る。


「だからお前を呼んだんだよ。納得だろ」

「納得だけど……。あんまり嬉しくはない」


顔はそうは言ってないけどな、と南貴は思う。

そんな南貴に、やっと立ち上がった威吹が駆け寄った。


「馬鹿、お前は最初隠れてなきゃ駄目だろうが」

「うん。でも」


威吹は一度口ごもり、蓮斗の顔をチラッと見る。それに気付いた蓮斗は、顔をブンブンと振ってから威吹を見返す。


「なんだよ。まだなんか言い足りないのか?」


蓮斗がそう聞くと、威吹は最初ムッとした顔で蓮斗を見返す。が、それも長くは続かずに下を向いた。

なんだよ、ともう一度聞こうとした瞬間、威吹はばっと顔を上げる。


「負けたら許さないよ!!わかった!!?」


いきなりの発言。それだけを言い捨てて、威吹は階段を上っていってしまう。

呆気に取られた蓮斗に、南貴は相手を見据えながら言った。


「認められたんだろ。多分、今のは激励みたいなもんだ」

「……随分とキツイ激励だな」


そう言った瞬間、上から「ウルサイ!」と声が飛ぶが、蓮斗は聞こえないフリ。


「さて、と」


小さく息を吐き、呼吸を整える。

駐車場を二分としたこの状況。今は膠着状態にあった。普通なら、指一本動かすのさえ躊躇うような緊張感の中、蓮斗はわざと行動を起こした。


「こいよ。死にたい奴は遠慮すんな」


南貴はギョッとした。あの人数相手に挑発行動。

もはやここまでくれば蓮斗も馬鹿なんじゃないかと思いたくなってくる。


下手に動けばそれが引き金。火蓋は切られ、動いた奴が真っ先に狙われる。

だから普通なら皆動かない。

何かきっかけを待つのが普通だ。しかし、蓮斗は気にしない。いや、『今の』蓮斗だからこそ、出来ることだ。


次の瞬間、再び駐車場に騒音が響く。敵が陸の波となって襲い掛かってくる。


「ぜってぇ負けんなぁ!行くぞお前らぁ!!!!」

『おおおおぉ!!!!』


抗争が、始まった。










「おらぁ!!」


背後から迫る敵を、振り向き様に殴り飛ばす南貴。


蓮斗は、時間の感覚が分からなくなっていた。

周りを見れば、壊れた単車と倒れた敗者がそこらに見えた。

埃が舞い上がり、廃車と化したバイクから出る煙と混ざって視界が悪く、もはや駐車場の向こう側が見えないほどになっていた。


「もうちょいか…」


気が付けば、蓮斗と南貴は背中合わせに。視界が少しずつ晴れていく。


もはや、立っている敵の方が少なく、その立っている者ですら戦意が見えなくなっていた。


「決まり、だな」


南貴が呟き、蓮斗が頷く。蓮斗の表情がいつものものだったので、南貴は心底ほっとした。

しかし、その安堵もつかの間、


「イヤッ、離して!」

「!?」


まだ薄くかかっている靄の中、特攻服の姿が見えた。


「っ!?威吹!」












「凄い…アイツがいるだけで随分違う…」


威吹は、上から蓮斗達が戦っているのを見ていたが、蓮斗の強さに思わず息を呑む。


「この前の女といい…アイツといい…」


なぜこうも強い奴らが南貴の周りにいるのだろう。威吹はそう思った。


そして時間が経ち、あれだけ騒がしかった駐車場にも落ち着きが見えはじめた。もういいか、と思い、階段を降りようとする、が。


「きゃっ!」


いきなり足が引っ張られ、バランスを崩してしまう。無論、階段の側でバランスを崩してしまえば、起こり得る事は1つだけ。


「イヤッ、離して!」


コンクリートの階段を転げ落ちれば、かすり傷では済まない。威吹は、なんとか堪えようとしたが、無駄だった。

ついに足をすくわれ、背中から階段に落ちていく。


「…………!」


瞬間、威吹は目をつぶった。その刹那、誰かが階段を駆け上がってくるのが見えたが。


あぁダメだ。目をひらけない。


「くっ!!」

「!?」


威吹な耳元に聞こえる、小さな声。同時に、階段に身体をぶつける衝撃が2度、3度。5回6回7回8回。

しかし、威吹に痛みはなかった。


やがて衝撃はなくなり、威吹は目を開く。

そこには、自分をしっかりと抱き寄せた腕と身体。そして彼の顔があった。


「……大丈夫、か?」

「……なん、で」


蓮斗は、苦痛に耐えるように、抱く腕に力を込める。恐らくその背中は、階段の角に削られて散々な状況になっているだろう。

それでも、蓮斗は言う。

大丈夫か、と。

それを聞いた瞬間、威吹は、胸が高鳴り、熱くなるのを感じていた。









「……大丈夫じゃ、ない」

「どこか、痛い、のか?」

「ううん…そういんじゃない…けど」

「…………じゃあ、なに?」

「……わかんない」

「なんだよ、それ」













南貴は1人、ニコニコしながら言う。


「罪な男だよ、ホント」

感想、要望、未熟な身ながら待っています!

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