移動中〜肩の重さの正体は〜
気が付けばもう7月。随分と暑くなったものだ、と蓮斗は思った。暑さで授業に身が入らないこの時期、あのイベントがやってくる。
明日から、宿泊研修だ。
「レン君レン君」
「どした、恋」
「今更だけどさ、この呼び方って紛らわしいよね」
「しょうがないだろ。恋と蓮斗なんだから」
くだらない会話を交わしながらバスに揺られる2人。今は宿泊研修先に移動最中で、バスから眺める外の景色は見知らぬものに変わっている。
「ところでなんでさ」
「こうも都合よく隣の席なんだって?」
「うん」
そんなものは決まっている。高校生男児を何人も病院送りにしている女の隣に誰が好き好んで座るだろうか。
だが、隣にいる恋は全くわからないらしく、本気で考え込んでいる。
「お前って結構天然かもな」
「え?何?」
「別に〜?」
まだまだバスは目的地には着かない。しおりによれば到着は夜の7時らしいので、少し眠ろうか、と考えた、が。
「寝るの?」
そう。蓮斗の隣にはコイツがいるのだ。もしも迂闊に隙を晒そうものなら、次に目が覚めた時には既に病院でした、なんてことに成り兼ねない。
「いや、最悪、二度と目が覚めないかも…」「何の話?」
――さすがにそれはないか。
蓮斗はそう思い、何でもないと一言言って目を閉じた。
「……ん。着いた…?」
バスが止まったのに気付いて目を開く。だが、ただ単に信号に捕まっただけだと気付いてまた目を閉じた。
そこで違和感に気付く。右肩が何となく重たい。
もしや本当に恋に一撃食らわされたかと思い肩をさすってみる。
「………?」
なんだろう。この感触…。なんだかサラサラしてるとこもあるけど…ここは何だか柔らかい。なにがなんだかわからずに触りつづけてると、時々
「ふにっ」だか
「なっ」だかよくわからない声が聞こえてくる。
「…ん?肩が喋った?」
少しだけ目を開いて右を向く。するとまたサラサラした何かが顔に当たる。少し心地良い、と蓮斗が思ったその時。不意に蓮斗の視界が真っ暗になった。
「目を閉じて」
声が聞こえると共に肩の重みが消える。起きたばかりの蓮斗には状況がわからない。
「私が良いって言うまで絶対に目を開かないで」「……?あぁ」
とりあえず頷いた。
すると右肩の辺りから、今度は右腕全体にかけて捕まった。振り払う訳にもいかず抵抗はしない。
しばらくすると、耳元で恋がとても、とても小さな声でこう言った。
「…出来れば、たまにさっきみたいにしてほしい」
蓮斗には顔を赤くした恋が頭に思い浮かんでいた。