体育館〜まさか、そんなまさか…!〜
更新が遅れてすいません…
「どう…こうかな?」
「あ…違う、そこに手を…うん、そう」
「…は、恥ずかしいよ…」
「まぁ、そういうもんだからな。ほら、もっと身体寄せないと出来ないぞ?」
「う…うん」
無人の体育館。恋と蓮斗は中央で身体を寄せ合う。
蓮斗は恋の腰に手を当て、更に恋を抱き寄せる。
「じゃ、いくよ…。ハイ!」
そして、掛け声と同時に2人は……。
ステップを踏みはじめた。
「あっ、あっ」
「落ち着けよ。まずはゆっくり」
拙さ全開の恋の足運び。それに合わせ、蓮斗がなだらかに踊りを進めていく。
「…難しい」
「ま、初めてやる人はそうだろうな。でも、出るって言ったのはお前だろ?」
試行錯誤しながら踊る恋。それに合わせ、やはりなだらかに踊る蓮斗。
「そうだけどさあ…」
2人が今しているのは、文化祭で行われるダンスの舞台練習である。
本来ならば、蓮斗と景がコンビで出場する予定だったのだが、景が突然の辞退を申し出たので急遽恋を出すことにしたのだ。
それというのも、この高校の文化祭は体育祭と同じようにクラスごとに順位がつけられ、更に上位入賞のクラスには案外高価な賞品が与えられることもあり、秋奈を中心とした蓮斗のクラスは優勝に向かって団結していたりする。
ガラの悪い高校といえど、それなりに良いところもあったりするのだ。そして、蓮斗と恋が出場するダンス部門は高得点が配分されている。
それならば、ということで、容姿も運動神経も良い恋が推薦されたのだ。
「うー……」
「なんだよ。なんか文句あるのか?」
推薦された時は、恋自身もやりたいとうるさかったが、いざ始めるとうまくいかない。
その理由は……。
「…なんでこんなに身体をくっつける部分が多いの?」
「……………」
そう。何故かダンスの振付には、2人が身体を密着させるものが多数入れられていた。
明らかに無意味な所で抱き合うような部分まである。
「ま、待ってろ。なんか心配になってきた。台本とってくる」
この調子では最後にキスの振りまで出てきそうな気がしてきた蓮斗は、荷物をおいてある体育館倉庫に向かう。その後ろを、恋がついていった。
「あったあった。さ、戻ろう」
薄暗い倉庫。2人は問題なく台本を見つけていた。
ここでは暗いからよく見えない、と呟いたのは蓮斗だった。
だが、そこでふと、恋が呟く。
「べたなテレビとかだと、ここで閉じ込められたりするんだよね」
言ってからクスリと笑う恋。つられて笑う蓮斗だったが、倉庫の扉に手を掛けた瞬間にそれは消える。
「…………うそだろ?」
扉は、開かなかった。