奇妙な関係・恋〜梯子の真下。螺旋の心〜
「栗実…さん?」
「…恋ちゃん」
蓮斗が走り出す数分前。恋と栗実は廊下ではちあわせていた。
「ごめんなさい…。私では力不足でした」
申し訳なさそうに言う栗実。
恋はいきなり何の事を言われたのか最初分からなかったが、すぐに栗実が景を追いかけていたことを思い出す。
「…全く話を聞いてくれずに…。場所はなんとか分かったんですが…」
今にも泣き出しそうに瞳を潤ませる栗実。
それを見て恋は慌ててしまう。
「だ、大丈夫ですよ!私が行ってみますから」
咄嗟に出た一言。それは、栗実を落ち着かせるには有効だったが、新たな問題も生み出した。
言ったはいいが、恋は景が飛び出して行ってしまった原因だ。
自分が行っても、正直栗実の二の舞になる。と恋は思った。
そこで、恋はこんな事を言った。
「栗実さん。白衣を貸してくれませんか?」
「さて、右か左か…」
蓮斗の声が恋の耳に届く。恋は、白衣を持って直ぐに階段を下り、別ルートから先回りをしていた。
そして、蓮斗が右を向いた瞬間、持っていた白衣をだけが見えるように思い切りたなびかせる。
ある意味賭けでもあったが、蓮斗なら気付くと恋は思っていた。直ぐに白衣を羽織り、展望台への最短ルートを全力で走り始める。
少しでもスピードを落とせば、ばれてしまうかもしれない。
階段を駆け上がり、展望台へ一本道の所まで来た恋。
そこでまた問題が浮上した。
ここまで来てしまえば、後は展望台へ行く道しかない。他にあるのは、非常時にしか開かない非常階段へと続く扉のみ。このままいけば、恋と蓮斗は必ずはちあってしまう。
別に会ってしまったからといって言い訳が出来ない訳でもないが、恋としてはなるべく今は会いたくはなかった。
「おや、恋じゃないか」
どうしようか迷ったその時、すぐ側にある非常階段への扉が開く。そこには、いつも通り煙草をふかしている秋奈がいた。
その直後、階段を駆け上がってくる音。
恋は迷わず、そこに駆け込んだ。
後ろ手で器用に扉を閉め、へたりこむ。
「はぁ……はぁ……」
その様子を、秋奈はじっと見つめていた。やがて煙草を携帯灰皿に突っ込み、ふいと視線をそらす。
「展望台に誰かいると思い来てみれば…。なんだか厄介そうだな」
どうせまた蓮斗絡みだろう?と秋奈が付け足せば、恋は力無く頷く。
「…まぁ、聞きたい事は沢山あるが。私がこの非常階段を使っている事を誰にも言わなければ、聞かないでおくよ」
「………?」
怪訝そうに恋が見上げれば、秋奈は珍しく悪戯っぽい笑顔で、人差し指を口の前に当てる。直後に、螺旋階段を登る、無機質な音が聞こえた。
「…これっきりだからね、景…」
「本来ならあそこは使用禁止なのさ。生徒も先生もな」
「はぁ…」「何故私があそこの鍵を持っているかは聞かないでくれよ?まぁ、教えてもいいが、今はそんな場合でもないだろう」
2人は螺旋階段を登り、梯子の真下にいた。
『これから、よろしく』
『…うん!よろしく!』
会話の一部始終を聞き、恋は呟く。
「…よかった、のかな」
「ああ、多分な」