奇妙な関係〜螺旋の上空。新たな関係〜
「どこ行きやがったんだ?景の奴…」
景を追いかける事にした蓮斗だったが、いざ捜すとなると何処を捜せばいいかわからない事実に直面していた。
だが、とにかく動かないことには始まらない。
「…行動あるのみ、ってか」
とりあえず、走る事にしていた。
「さて、右か左か…」
走り出して数秒。突き当たりに出会い、一度立ち止まる。
右見て、左見て、また右見て、左を見る。
「…ん?」
その最中、蓮斗の視界の隅に白い服が入る。
蓮斗はそれが白衣だと理解した。
「白衣を着ているのは栗実さんぐらいだな…。よし、こっちだ」
蓮斗は白衣が見えたほう…右に向かって走り出す。
栗実が景を追いかけているのは知っているので、なんの考えもなくひた走るよりはいいだろう、と考えたからだ。
しかし…。
「栗実さん……、足速い!?」
予想以上に速い栗実。追いかけても追いかけても、曲がり角を曲がった直後に白衣がちらりと見えるだけ。
下手をすれば見失いそうな程だ。
「…見失って、たまるか!」
蓮斗は、それに必死に食らい付いていった。
「ここは…展望台、か?」
蓮斗がたどり着いた先。そこは、展望台への入り口だった。
ガラス張りの扉の向こうに螺旋階段が上へ上へと続いている。
追いかけていたはずの栗実の姿はなく、かといってここまでの道のりはほぼ一本道のようなものなので見失う事はまずない。
先に登って行ったのだろうか、と蓮斗は考えたが、正直考えるのは無駄だった。
「行ってみるか」
蓮斗は、螺旋階段をゆっくりと登り始めた。
『…これっきりだからね、景』
「みっけ」
「蓮斗」
螺旋階段を登り終わり、梯子を昇る。
蓮斗は顔だけを出してそう言った。
梯子を昇りきり、蓮斗は景の横に座り込む。
しばらく、2人共、口を開かなかった。
「…ねぇ?蓮斗」
「ん?」
「私、ずるかったね」
景は、蓮斗に苦笑いしながらそう言った。蓮斗も、同じ様に笑う。
「…事あるごとに昔の事を持ち出してさ。傷口に塩を塗るようなことして、蓮斗を傷付けて…?」
ガラスに爪を立てながら、景は話し続ける。
「そうすれば、蓮斗は何も出来なくなることを知ってるくせにさ。それを利用して、蓮斗を手に入れようとしてた」
「…………」
「でもさ……」
ガラスに立てた爪が、嫌な音をたててガラスを傷付ける。
「結局は、私のわがままだったんだよね。ごめんね?」
あえて明るい口調で、景は言った。
だが、蓮斗にはわかっていた。
「…変わんないな、その癖」
蓮斗は、景の、ガラスに爪を立てている方の手を掴み、握り締める。
「無理に明るくしてるとき、お前は決まって何かを引っ掻くようにしてる。引っ掻くものがないときは、自分の肌でも服でも、爪を立てて傷付ける」
次第に、握り締めている蓮斗の手にも、爪が立ってくる。
「…素直になれよ。今くらいはさ」
その一言で、立ちかけていた爪が、指が力を失った。景は、同時に手を振り払う。
「景?」
「……もう、やめよ?」
後ろを向いてしまった景に、蓮斗が不安そうに尋ねる。払われた手を、ゆっくりと下ろしながら。
「…景」
「蓮斗。もう、中途半端に私に優しくしないで。この半端な関係は、もう終わり。ね?」
そう言って、景は振り向く。そして、手を差し出した。
「これからは、『友達』。おわりにして、始めるの。私達の新しい関係を」
あくまでも笑顔で、景は言った。
あの日から続いていた、2人の奇妙な関係。
繋がりが曖昧だった、ある意味異常な関係。
蓮斗自身も、これでは駄目だという想いはあった。
しかし、景との繋がりを無くしたくないがあまりに、今の今まで続いてしまった。
「けじめ、か」
「うん。そう」
蓮斗は、差し出された手を握り締める。
奇妙な関係の撤廃。
生温い自分との別れ。
その2つの想いを込めて、蓮斗は握り締める。
「けど、『友達』じゃない」
「え?」
「…『親友』、だ。そうだろ?」
「……そうだね。うん!」
2人はしっかりと握手をした。
過去との別れ。
現実を、今を受け入れた2人は、新しい関係を結んだ。
「これから、よろしく」
「うん!よろしく!」
その会話を、梯子の下で聞いていた人物が、2人。
「よかった…のかな」
「ああ。多分な」
2人がけじめをつける話です。
景の微妙な心中…あえて表現を薄くしましたが、伝わりましたでしょうか?