自習〜騙され、怒り〜
「ねぇ、蓮斗?」
「なんだ」
「…キス、しよ?」
「…ばか言ってないで前向け。ほら」
「関係ないよ。自習だし」
授業中。今は、教科担任が学校を休んでいるため自習時間になっていた。
もちろん、この学校では真面目に自習に取り組む生徒など数は少ない。
皆、話に花を咲かせている。
「っばか、本気か?」
「冗談に見える?」
そんな中、蓮斗は困っていた。
なぜか景がやたらとくっついてくるからだ。
それだけならまだしも、周りの目を気にせずに抱き着いたり、果てにはキスを求めてくる始末。
「誰かコイツをなんとかしてくれ…」
誰にいうわけでもなく呟く。
恋はと言えば、ちらちらこちらを見てはいるが、別段何かをしてくれるわけでもなく、蓮斗にはそれがなんだか引っ掛かった。
「一回、一回だけ」
「だ〜!しつこいぞ!」
我慢が出来なくなり、蓮斗は無理矢理に景を突き放す。
「あっ…」
「あっ」
しかし、予想以上に力が入り、景はそのまま倒れてしまう。
「痛た…」
「わ、悪い。大丈夫か?」
すぐに蓮斗は景の傍にしゃがみ込む。
「怪我、ないか?悪い、乱暴過ぎた」
「ううん…。でも、足を捻ったみたい…。保健室、連れてってくれない?」
「あ、ああ」
蓮斗は景を抱き抱え、教室を出ていく。
その様子をちらちらと横目で見ていた恋だったが、その時に恋は見た。
蓮斗に抱き抱えられた景が、確かに自分に笑いかけていたのを。
しかも、勝ち誇ったような笑いだった。
「…なに、今の…」
「栗実、さん?…いないのか」
保健室。一応ノックをしたが、返答がなかったので勝手に入る。
「よいしょ」
「わっ」
蓮斗が器用に足で扉を閉めると同時に、景は蓮斗の腕から飛び下りた。
それを見て、蓮斗はポカンとする。
「えいっ」
その隙に、景は勢いよく保健室の扉の鍵を閉めた。
「やぁっ!」
「うぁっ、ちょっ!」
そして振り返り様蓮斗に体当たり。そのままベッドに押し倒した。
「えへ〜。捕まえた」
「なっ…テメ、足は」
「ふふん。こうでもしないと2人になれないからね」
それを聞き、蓮斗はやっと状況を理解した。
景は、足を怪我したふりをして、蓮斗を騙したのだった。
「…クソ。やっちまった…」
「後悔しても…もう遅い!」
もはや無抵抗の蓮斗に、景が襲い掛かる。
唇が重なり、舌が…。
「…?」
舌が、入ってこない。
どうしたのか、と思いながらも、この好機を逃す手はなく、今度こそ容赦なく景を突き放した。
「なんのつもりだよ」
蓮斗は、景に向かってそう言った。
景の身体がビクリと震える。
蓮斗の目には、確かな怒りがあった。
保健室の空気が、一瞬にして張り詰めた。
蓮斗の怒りがどこから始まっているかわかりづらいですね…。