帰宅途中―後編―〜流れる赤色、悲しい笑顔〜
更新がおくれがちでスイマセン……。忙しいもので。ご了承してほしいです。
「さて…嫌だけど行きますか」
蓮斗は頭を描いて立ち上がり、ついでに振り向いて恋を見た。まだ先程のダメージが抜けていないのか、とろんとした瞳でベンチに座り込んでいる。
「……ま、まぁ、あれなら余計な事もしないだろ」
「心配するな。お前は安心していってこいよ」
戻ってきた南貴が、蓮斗の独り言に返す。
「お前の相手に同情するよ」
「どういうことだよ」
「なんでもないさ〜。さ、あちらさんがお待ちだぜ」
南貴に背中を押され、前に出る。途端に、心臓が跳ねた。あの人格が出そうになる。
「う…。やだな、もう…」
それを聞いた蓮斗の相手は、何を勘違いしたか急に笑い始めた。恐らくは、蓮斗が自分に対してビビり、漏れた本音だと思っているのだろうが…。
次の瞬間、男の腹に蓮斗の蹴りがめり込んでいた。
いきなりの事に、声が出ずに苦しむ男に対して、蓮斗は言った。
「嫌だから早く終わらそ。あ、抵抗しないで。無駄に苦しくなるだけだから」
「……!」
「お疲れ。よく抑えたもんだな」
「本当に。ケンカよりもそっちが疲れた」
蓮斗の戦いはほんの数分で終了。頼れるが恐ろしい蓮斗だった。
「さて、2勝したから、お前らにはどいて…」
「…?!蓮斗、危ねぇ!!」
改めて族に向き直ろうとした蓮斗に、南貴の声が飛んだ。勢いよく振り返れば、そこには銀色の光がある。それは蓮斗の目の上を削り取る。
蓮斗は、自分の視界が半分赤く染まるのを感じ、そこで初めて顔が切られた事が分かった。
「ってめぇ、なにしやがる!!」
怒鳴ったのは南貴だった。勢いよく相手に詰め寄り、男の持っていたサバイバルナイフを弾き落とした。
「大丈夫か、蓮斗!!」
南貴の呼びかけに、蓮斗は答えない。ただ、頭を抑えて黙っているだけ。
「れ、レン君!?」
蓮斗の頭から流れ出る赤い液体に気付き、恋が駆け寄ろうとする。が。
「やめておけ」
目の前に現れた秋奈の腕によってそれは阻まれた。思わず恋は文句を言おうとしたが、秋奈の表情を見た瞬間言葉を失う。
秋奈は、焦っていた。
「余計な事を…」
煙草をかみつぶしながら、秋奈が呟く。
「蓮斗の奴、我を失ってるぞ」
「………」
滴る血を、腕を流れる血をただ見つめる蓮斗。
その表情は、笑い声こそ出さないものの、笑っている。口の端を釣り上がらせ、流れる血をその口に含める。
「……フッ」
「………れ、蓮斗?」
恋より先に駆け寄っていた南貴だけが、その声を聞いた。
――面白い。
南貴は背筋が凍り付いた。同時に秋奈に引き戻される。
「今の蓮斗に近付くな。何が起きるかわからないぞ」
「そ、それって…」
「…まぁ、様子を見よう。今はそれしか出来ない」
蓮斗は滴る血を気にせずに、自分を切り付けた男に近付いていく。
その表情はとても猟奇的な笑顔で、それでいて瞳は果てしなく冷えていた。
蓮斗のあまりの豹変に、男はなす術もなく追い詰められる。蓮斗の血が男の顔に落ちる。男は、無様にも座り込んでいた。
「…はっ………あぁ」
額に脂汗を浮かべ、蓮斗を見る男。男は、恐怖のあまり目が離せない。
蓮斗の口が開く。顔が裂けたような笑みで、蓮斗は言い放った。
「バイバイ」
次の瞬間、男の右目は、目としての機能を永遠に封じられた。
サバイバルナイフで、なんの躊躇いもなく、突き刺した。
「っぎゃあぉあぁあ!!?!?」
右目にナイフを突き刺した男が、もんどりうって暴れる。返り血が蓮斗にかかるが、蓮斗はそれを楽しそうに見ているだけだった。
やがてうずくまって動かなくなった男からサバイバルナイフを抜く。それを、蓮斗は、
――自分の胸に突き刺した。
「ぐっ……」
「レン君!?」
慌てて恋が駆け寄る。もう、蓮斗は元に戻っていた。蓮斗は自分でナイフを抜いて、それを投げ捨てる。鮮血があっという間に辺りを赤く染める。血が出る寸前の肉の切れ目を見てしまった恋は、思わず蓮斗から離れてしまう。
すると、蓮斗は
あの恐ろしい笑顔ではなく
恋が今まで見た事がない程の悲しい笑顔で
前のめりに倒れた。
秋奈は、煙草を素手でにぎりしめる。
「馬鹿者が…。何故それしか思い付かない……」
倒れている蓮斗を目の当たりにして、恋は駆け寄る事が出来ない。
レン君が、怖い。
レン君が、わからない。
それしか、頭になかった。