帰宅途中―中編―〜恐ろしい奴〜
少し番外編みたいな感じです。短めです。
南貴が相手の一歩前に出る。
「あんたが相手?」
ポケットに手を突っ込んだまま、ぶっきらぼうに聞いた。
「あぁ。心配するな。すぐに終わる」
そう言った男は、明らかに身体つきが周りの奴らとは違った。レザースーツの上からでも、その筋肉は容易に確認出来る。身長もゆうに南貴を越している。190はあるだろうか。
しかし、南貴は全く怯まずに詰まらなそうな仕草をする。
「…俺も舐められたモンだね」
「…何?」
「『でくのぼー』なんざ、俺に触れもしない」
南貴の顔のすぐ横を、男の拳が通り過ぎる。
気にすることなく、南貴は呟いた。
「ワリィけど、『ケンカ』をするまでもねぇな」
男の腕を掴み、力を込める。
「これから始まるのは、俺からの一方的な『イジメ』だからなぁ!!」
次の瞬間、男の右腕は、肩の関節から外された。
裏返った男の声が、1秒と経たない内に悲鳴へと変わった。
「アハッ、腕長くなって良かったじゃねえか!ま、そのかわりに撫で肩になったけど」
笑いながら、肩を抑えてうずくまる男に近付く。
南貴はしゃがみ込んで、男の耳元で優しく呟く。
「でも、片腕だけじゃ不自然だよなぁ?」
それを聞いて、男は凍り付いた。既に左腕に手を当てている南貴に、情けない声で叫ぶ。
「やめろ!やめてくれ!わ、わかった、俺の負けだから!だから、た、頼む!」
手を当てたまま、うーん、と唸る南貴。
「じゃ、お前の単車くれる?」
「え?い、いや、それは…」
「残念。じゃ、撫で肩デビューだな」
「…わ、わかった!やる、やるから肩は外さな、あっあアァアァあ!?」
男が喋り終わる前に、南貴は肩を外した。男の叫び声に顔をしかめる。
「わりぃな。なんかダサそうだし、お前むかつくからつい外しちゃった」
口元が裂けたような笑い顔を男に向ける。その瞬間、男に肩の痛みを忘れる程の恐怖感が刻み付いた。
「1勝、1勝!」
いつもと同じ笑い顔で、南貴は戻ってきた。その様子を、蓮斗はじっと見つめていた。
恐ろしい奴だ、と。