帰宅途中―前編―〜帰る時まで問題発生〜
問題は続きます
宿泊研修4日目。といっても、蓮斗達はもう帰りのバスの中にいるのだが…。
「こ、困ったなあ…。これじゃ通れない」
若い運転手がそう呟く。バスが進むはずの道は、何か得体の知れない集団に占拠されており…。
――つまりは、族が道路を通行止めにしていた。
「南貴。どうにかできないか?」
「む…。流石に知らない土地の族まではな…」
頭を掻きながら南貴は答えた。昨日まではあんな状態だったのに、立ち直りの早い奴である。
まぁ、そうでもないとやってけないか。と蓮斗は思った。
南貴は、あれでもいくつかの暴走族を従えている。だから南貴に聞いてみたのだが、流石に無理そうだった。
運転手も腕が立つようには見えない。
しばらく沈黙が続くが、バスの前の方の席から煙が上がった。
「さて、どうしたものか…。なぁ、蓮斗?」
秋奈はわざとらしく大きな声で言った。蓮斗は溜め息をつく。
「蓮斗〜?いないのか?」
「…なんでそこでわざわざ俺の名前を呼ぶんです?」
不機嫌さが伝わるように若干低い声で返す。たいていの人ならこれで黙り込むのだが、あの女教師は例外らしかった。
「教師命令だ。お前と南貴でどかしてこい」
「「はぁ!?」」
2人の声が見事にシンクロする。それもそうだろう。今の発言は教師の発言ではない。
けれども、この教師は今更反論したって聞かないに決まってるので、2人は渋々バスを下りる。
蓮斗の腕に恋が引っ付いて離れないので結果3人にはなったが。
「あーぁ。なんか面倒くさい事になっちゃったなぁ。蓮斗」
「まったくだ。昨日の今日でいらつくことばかり」
「…すいませんでした」
「なになに、何の話〜?」
全く緊張感のない3人が歩いていく。これだけ見れば、仲の良い3人が散歩しているように見えるだろう。
散歩の先が、単車が沢山の場所だってことを除けばの話だが。
「悪いんだけどさ、どいてくんない?」
南貴が一歩踏み出し、族のリーダーらしき人物に言い放った。
「…誰だよ、テメェは」
南貴の挑発じみた発言にも、族のリーダーは動じなかった。案外冷静な人だった。
「だーかーらー!どけっつってんの。俺ら通れないんだよ、ここに溜まられたらさ」
「…ふん」
族のリーダーが右手を軽く挙げる。瞬間、族の1人が南貴に殴り掛かった。
「おっと」
南貴は軽くバックステップ。目の前を通り過ぎた拳を掴むと、そのまま思い切り握りしめた。
「がっ!?い、痛ぇ、離せ!」
「なんだよ、ただ握っただけだろ?」
笑いながら男の手を離す。そこには掴まれた痕がくっきり残っていた。
その様子を、恋と蓮斗は少し離れた場所で見ていた。
「もしかして…」
「ん?」
「あいつ、結構強い?」
「ああ。俺よりも強いかもな」
蓮斗の言葉に恋は驚く。それというのも、前の出来事で、完全に南貴よりも蓮斗の方が強い、と思い込んでいたからだ。
「よくわからないんだよな、あいつ。俺とケンカするときはなんでか本気出さないから」
それこそなんでかわからないけど、と蓮斗は付け足す。恋の中で南貴の評価が少し変わった瞬間だった。
「けっ。素直じゃない奴ら」
悪態をつきながら南貴が戻ってくる。どうやら、素直にどいてはくれないらしかった。
「タイマンだってよ。ったく面倒くせぇ」
その言葉を聞いて、蓮斗はガックリと肩を落とした。
相手が出してきたルールは、三対三の総当たり戦。こちらが2回勝てば、道を開けてくれるということらしい。
「ね、私の相手はどうなるの?」
…何を考えているのだろうか。この包帯女は。既にやる気満々だ。
そういえば、こういう奴だった、と思い返す蓮斗。
「なぁ、れ…」
「恋ちゃんの相手は、あっちのレディースから出てくるらしいぜ」
「そっか」
返事をしながら腕を回している恋。それを見て、蓮斗は溜め息をついた。
これじゃあ、普通に言っても聞かないだろう。そう思い、恋に気付かれないように後ろに回る。
「恋」
「わひゃあ!」
蓮斗はそこから一気に恋を抱き寄せた。
「な、なに?レン君」
「お前は無理すんな。今回は俺と南貴で片をつけるから」
「で、でも」
恋が何かを言う前に、抱く腕に力を込めて黙らせる。
「これ以上恋に傷付いて欲しくないんだ。わかってくれ」
耳元で優しく囁かれた恋は、なにがなんだかわからないまま頷いてしまった。
それを見て、やっと蓮斗は恋を解放する。離れ際に頭を撫でて。
(……〜〜〜)
とろんとした目でその場に座り込んでしまいそうな恋を、とっさの所で秋奈が支える。
「扱いが上手いな」
「説得が上手いと言ってください。恋を見てて下さいね」
「わかっている。存分にやってこい」
歩いていく蓮斗の後ろ姿を見ながら、秋奈は煙草を足でもみ消した。そして小さく呟く。
――さて、あいつ、暴れだす『自分』を抑え切れるだろうか。
蓮斗は、歩きながら感じていた。これから起こる事を待ち望んでいる自分を。
次回は喧嘩主体です。その分甘い話も増やすのでご勘弁を……。