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俺のコードネームは「D」  作者: 庵本探
19/24

第19話 モデル事業

「ワンよ。

 裏切り者のエドワードはどうした?」


 白髪の紳士がワンに問いた。


「それが邪魔が入って

 始末に失敗したよ。」


 ワンは正直に答えた。

 どうせ、嘘をついてもバレるのである。


「お前ほどの奴が失敗とは。

 邪魔した奴が相当な奴なのか。

 あんな小国に、そんな奴がいるとは思えんが。」


「驚いたことに俺よりも強かった。

 恐怖するほどにね。

 奴に始末されたら俺は精神体ごと壊されるだろう。」


「本当か?

 それほどまでに。

 では、俺でも勝てないな。」


「おそらく、というより

 絶対に勝てないだろう。」


「上層部に報告はしたのか?」


「出来るわけがない。

 完璧主義者の、あの方々に

 知られれば、

 私が始末される可能性もあるからな。

 お前にも迷惑がかかる。」


「しかし、ほっといて良いのか?」


「ああ。

 エドワードごときは上層部からすれば

 名前も覚えてない程度。

 それに、

 あの小国は、

 表ではU国の支配下

 裏ではT国というより共産党の支配下

 世界に影響を与えることなど不可能だ。」


「まあ、それはそうだな。

 上層部もあの国のことについては、

 今のところ何の指示もない。

 デュランが勝手に動いていたことだ。。

 我々の計画に影響はないだろう。」


「仮に奴が邪魔して来れば、

 上層部が動いて始末してくれる。

 さすがに奴でも、上層部の方々には

 敵わないだろう。

 我々は動かない方が良い。

 ミック、君もだ。」


「忠告として受け止めておこう。」


「ああ。」


 和也にやられたワンと

 白髪紳士のミックは

 T国の最高級ホテル一室で話している。


「それで、計画は順調に進んでいるのか?」


 ミックがワンに問いた。


「ああ、T国の国内と共産党内部の反乱分子

 は準備を着々と進めている。

 共産党もわかっており、誰も彼も拘束しているが

 無駄だろう。」


「U国も、準備は着々と進んでいる。

 大国2国が、どちらも内戦状態になるように。

 時期は同じにしなければならないからな。」


「ああ。

 そこから、各国でも・・・・・・・・

 政府が取る政策はひとつ。

 法律による

 国民の自由の抑制と管理。

 ウィルスによる抑制もあって

 デモや反乱、犯罪などが増えるだろう。

 そうすれば、さらに自由の抑制と管理。

 国民にとって悪循環が・・・・・」


「そして、最終的に

 条約という鎖で、

 我々が各国の自由を抑制し管理する。

 国民は法律で、国は条約で自由を奪うのだ。」


「デュランなどは、

 戦争のない世界などと理想を信じていたが、

 そんなこと我々は望んでいない。」


「経済だけでなく、戦争も、

 人口までも我々が管理する。

 世界の人間は我々のために存在するのだ。

 家畜と同じだ。」


「本当に、上層部は恐ろしいが

 組織に加わって良かったと思っているよ。」


「同感だな。」


 ワンとミックは

 互いに共通認識を確認し合うのであった。

 組織の仲間であることを確認し合うかのように。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 今日は、早起きをして

 俺はコタツ布団をしまう。

 子猫のランも少し大きくなったが、

 こたつ布団に未練がありそうな感じだ。

 コタツ布団にしがみついている。

 コタツ布団は数多くの役員会で汚れがすごいが、

 便利な世の中で、近くのコインランドリーで

 簡単に洗えるが・・・・


 俺は風呂場で洗剤で洗って、

 ギュウギュウに絞って、外に干す。

 太陽さんの労働力は無料なので、安上がりだ。

 そして、布団や毛布も太陽で干すと気持ちが良い。


 まあ、エドワードの部屋には、

 コインランドリーのような洗濯機や乾燥機が

 あるので、頼めば楽なのだが。

 頼みづらい。


「さすが、和也さん。

 楽を選ばず、苦を選ぶ。

 ですか。

 私も見習わないと。」


 エドワードが話しかけてきた。


「そんな、大したことではないよ。

 単に生活が苦しいだけさ。

 大きい洗濯機や乾燥機があれば

 良いのだけど。」


 さりげなく、俺はエドワードに嫌味と

 今度から洗濯機などを使わしてくれるかも

 という期待を込めて話した。


「いやいや。

 常に修行ですね。

 私も、これからはなるべく手洗いをしますよ。」


 そっちの方向に行くの?

 本当にエドワードは真面目だ。

 常に修行とか言って、

 最近は、自転車で通勤している。

 なので、俺もママチャリで

 一緒に通勤しているのだが。


 自転車通勤は結構修行になる。

 俺とエドワードはおそらく60キロぐらいで

 走っているのだが、

 精神を集中して、危険予知しながら

 人や自動車などを避けていく。

 最近はママチャリマンとして有名になって

 しまったので、

 ルートを遠回りに変更した。


 エドワードと会社に着くと、


「T市が、モデル事業に選定されましたね。」


 日向が俺に話しかけた・


「そうだね。

 100近くの市区町村が手を上げたらしいけど、

 忖度なく選んでくれた感じかな。」


「それは良かったのですが、

 民間企業のアピールが凄くて、

 T市にアピールするべきなのに、当社に

 提携を求める声が多くて。」


「だよね。

 ありがたい話だけど、当初の計画以上のものが

 出来そうで怖いよ。

 この会社の裏に何か不思議な力が働いている気が、

 いつもしてならない。」

 

「何なんでしょう?」


「何なんだろう?」


 和也と日向たちは知らない。

 スマイルデーモンズの存在を。

 希美を崇拝する組織であり、全てを投げうってでも

 希美の為なら、何でもするのだ。


「国にも変更計画を承認してもらわないと。」


 俺はそう言って計画を練り直すのだが。

 これって、組織に絶対喧嘩売っているよな。

 それで、また新たな敵が現われるパターン。

 平穏に俺は終生を迎えたいのに。


「和也よ。

 もっとやるのじゃ。

 強い敵が来なくては面白くないのじゃ。」


 俺の頭の中で爺は話すが、

 俺としては、勘弁してほしい。

 そりゃあ、爺からすれば弱い敵ばかりでは

 面白くないかもしれないが、

 俺にとっては、いつもギリギリで緊張感があるのだ。


 そんなことを思っていると

 さっそく、強い精神エネルギーを持った奴らが近づいてくる。

 やれやれだ。

 俺は、廊下に出て行く。


「強い奴が来ましたね。

 どうしますか?

 和也さん。」


 エドワードが俺の後についてきて聞いてきた。


「とりあえず、帰ってもらおう」


 俺がそう言うと、

 黒髪の長髪と白髪の紳士がエレベーターから

 出てきた。


「おや、ワンさんと、

 もう一人の方は初めてですね。

 ミックさんでしたっけ?

 今日は、どのようなご用件で?」


 俺は、様子をうかがった。

 ミックは自分の名前が知られていて

 一瞬驚いた表情をしたが、

 すぐに冷静さを取り戻した。


「先日は、このワンが迷惑を

 かけたようで、すみませんでした。

 今日は、挨拶に伺っただけなので」


 白髪紳士のミックが話す。


「挨拶というと?」


「実は、我々2人がこの国に

 しばらく、滞在することになりました。

 我々からは、

 あなたがたに手を出したりはしません。

 そこにいるエドワードにも。

 ですので、あなたがたも、

 我々の行動の邪魔しないでほしいのです。」


「我々の行動というと?」


「それは、あなた方が知る必要はないでしょう。」


「そうですね。

 我々に手を出さなければ、

 特にミックさんたちの行動を邪魔するような

 面倒くさいことはしませんよ。」


「ハハハ。

 では、話は以上です。」


「少しだけ良いですか。

 今では随分、仲間と呼べる者が増えまして

 我々とは、その者たちも含めてですので

 宜しくお願いします。」


「なるほど、

 この会社のメンバー以外にも守りたい者が

 いるということですね。」


「はい。そのとおりです。

 なので、この国で暗殺などはやめて下さいね。」


「ふむ。

 難しい話になってしまいましたね。

 我々も上層部から指示が出ているので。

 まあ、この国は容易いので

 人を殺さなくても何とかなるでしょう。」


「助かります。

 私も、争いは面倒くさいので。」


 ワンとミックは俺との会話を終えると

 背を向けて帰っていった。

 本当に俺たちに挨拶をしに来ただけのようだ。


「エドワード。

 精神エネルギーを隠すのがうまくなったね。」


「ありがとうございます。

 しかし、奴らの精神エネルギーは

 私より大きかったですね。

 まだまだ、私も修行が足りないということで。」


「強さは、精神エネルギーの

 大きさだけじゃないし。

 エドワードは俺より才能があるから、あっという間に

 俺とか、あいつらを越せるんじゃない。」


「さすがに和也さんには追い付けないかと。

 まあ、頑張ってみます。

 私に手を出さないと言ってくれたのは

 素直にうれしいのですが、わかりませんからね。」


「そうだね。

 でも、上層部の指示で奴らがわざわざこの国に来て

 遣ろうとすることって何なんだろう?」


「恐らくですが、この国での

 企業買収と、権力者たちの支配かと。

 この国は容易いので、デュランが任されていたのですが

 デュランがいなくなったので、奴らが。」


「企業買収っていったって、

 もう、ほとんど外資企業じゃん。

 というより、グローバル企業。

 これ以上、何をしようというのかな?」


「いや。

 まだまだ、まとめられるのですよ。

 国も、企業も、そしてマスコミや思想さえも。

 特に狙われるのは中小企業でしょう。

 景気が低迷して

 負債が増えている現状なら買収しやすい。

 最終段階というところですかね。」

 

「ありゃりゃ。

 それじゃあ。俺たちの事業は邪魔になるじゃん。

 まあ、この国で人を殺したり脅したりしないで

 正攻法で来るなら、勝手にやってくれだけど。」


「そうですね。

 中小企業経営者の気持ちが重要になるでしょうけど、

 お金に負ければ、売られるでしょうね。

 社員達と築き上げてきたものが簡単に。」



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ワンとミックは和也たちに挨拶をした後、

 都内の高級ホテルに戻った。


「奴が動かなければ、数日の滞在で

 この国から離れることが出来るだろう。」


「ワンから聞いていたとおり、

 奴は、精神エネルギーを隠すことが出来るのだろう。

 底力は見えなかったが、

 ひとまずは安心といったところか。」


「奴らのモデル事業など、

 小さな町で影響力など無いだろうから、

 ほっとくとして、この国全体として

 法律を改正させ、銀行の融資を絞れば

 簡単に優良な中小企業は買収できるだろうからな。」


「私は、とりあえず、明日、与党幹事長と

 会ってくる。

 ワン、君は野党の幹事長と会うんだろ?」


「ああ。

 俺の方が大変だな。

 マスコミ関係ともパイプをつないでおく。

 しかし、田中信一郎の代わりに誰を置くか?

 俺たちが動かなくても良いように。」


「ああ。

 それなら、もう決めている。

 田中信一郎の元配下で、富永という奴だ。

 田中の資産も与えてある。

 私に対して忠誠を誓ったから大丈夫であろう。

 なんせ、話を聞いてしまった富永の配下3人を

 目の前で消したのだから。」


「そうか。

 自分で消しておいて何だが、

 あとは、デュランの代わりだが。」


「それも、決めてある。

 私の配下のジョセフだ。」


「あのジョセフか。

 なら安心だな。

 ミック、君への忠誠心が半端でないからな。」


「奴等には上層部の指示と説明したが、

 上層部にバレないうちに体制を整えなければ

 ならなかったから、急いだよ。」


「すまんな。

 上層部の指示という嘘をつかなければ、

 奴に俺の行動が疑われると思ってな。」


「まあ、せっかく、この国に来たんだ。

 旨いものでも食べてから、帰ろう。」


「ああ、今日は寿司屋を予約してある。」


 ワンとミックは、ソファーにくつろぎながら

 会話を続けるのであった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ここは、某ホテルの会議室。

 頭のおかしい連中が集まって会議をしている。

 そう、希美を崇拝するスマイルデーモンズの幹部たちだ。


「いやはや、さすがは希美様ですな。」


「我々も、事前に希美様の動きを知らなければ、

 準備不足で、企業を買収されていたかもしれない。」


「うちも、銀行や大企業から買収の話を

 急にもってこられたよ。

 当然、断ったがな。」


「結構、自分の会社を売っている者も

 多いらしい。

 自分の人生を売っているともわからずに。」


「目の前の金に目がくらむのは仕方がない。

 しかし、自分の会社が自分だけの力で大きくなった

 と勘違いしている者が多い。

 そこまで築き上げたのは社員や協力してくれた者

 がいたからなのに。」


「いやいや、苦渋の決断で売る者も多いよ。

 自身よりも、大企業の下で守られた方が

 社員のためになると判断するのは仕方がないだろう。」


「それで、社員の待遇が良くなれば良いが、

 多くは、リストラや減給だ。

 なにせ、中小企業と大企業では目的が違う。

 大企業は株主の利益が第一なのだから」

 

「しかし、我々は、

 希美様を信じて、我々で巨大な資本に負けない方法を

 考え、準備していた甲斐があったな。」


「ああ。

 しかも、このタイミングでモデル事業に

 我々の会社が関与できたことは、

 まさに、希美様が我々に手を差し伸べてくれたかのような

 錯覚に陥ったよ。」


「希美様もすごいが、

 あの、エドワードさんもすごいな。」


「うむ。

 われわれの協定に200憶もの基金を協力してくれた。

 この基金は、ありがたく利用させてもらうが、

 基金を減らさないように頑張らなければならない。」


「しかし、本当に出来るものだな。

 銀行や大企業がいなくても、経済を回せるとは。

 我々、中小企業も馬鹿にしたもんではないな。」


「そうなんだ。

 中小企業同士で協力し合えば、銀行や大企業が

 いなくても、今や効率よく業務が行える。

 ITの力もあるが、信頼というものが一番かもな。」


「希美様を通じての信頼関係だ。本当に希美様は。」


「ハハハハハ」


 頭のおかしい幹部連中は、笑いあった。

 希美は社長という役職を与えられただけで

 ほとんど関与していないのだが。

 何故か、最後には

 全てが希美のおかげにつながってくる。 


「あと、藤原とかいう奴も大したものだな。」


「そうだな。

 我々の協定に対して助言するだけでなく、

 クラウドシステムを作ってしまった。

 希美様の指示であろうが。

 おかげで、効率よく、業務分担や事務処理が

 行えるようになった。」


「今まで、考えたことが無かったな。

 大企業が行う元請けの代わりに、

 他社同士による共通のクラウドシステムを

 活用するなんて。」


「おかげで、大企業より効率よく安価に

 サービスを提供することが出来るようになった。」


「そもそも、中小企業同士が協力し合って

 効率を良くすることが出来れば、大企業は

 いらないからな。」


「やはり、この国で商売するのに、

 大量生産、大量消費、大量廃棄は

 あわないんだよな。」


「そう、

 仕事は極めていくから楽しいのだ。

 ただ、安価になるように作ったり経営しても

 面白くもなんともない。

 薄利多売など、元請けの奴隷のようなものだ。」


「その時その時で、最善のサービスや商品を

 提供する。

 そして、常に新しいものを追求していくから

 やりがいがあるというもの。」


「そして、今回のモデル事業は、

 それを実践させてもらえそうな環境だ。」


「我々は、既に有機太陽光を完成しつつある。

 今のところエネルギー回収率は60%を超えている。

 社員のやる気が今までと全然違う。

 お金よりもやりがいで仕事をしている感じだ。」


「同感だ。うちも嫌気性微生物によるメタンガス生成と

 回収技術の研究開発を完成しつつある。」


「我々は、量子コンピュータについては諦めた。

 特許が既に多くとられており、

 今更という感じだ。

 だから、その先を見据えて、光子コンピュータ

 の開発に着手している。

 研究者も技術者も寝ないで頑張っているよ。」


「我々も電気自動車の開発はやめた。

 燃料を電気に変えて送電し、電気を燃料代わりに

 するなど、単純に考えても

 エネルギー効率が悪いだけだ。

 やはり燃料自動車やハイブリツドの方が良い。

 しかし、あの町では石油はさすがにとれないからな。

 発想を変えて、電磁自動車を研究しているよ。」

 

「そのうち、電気というものも

 化石技術になるかもしれないな。」


「ああ。

 持続可能社会などというのは無理だと

 勝手に思い込んでいたが。

 経済効果を良くしようとするから、

 エネルギー効率がわるくなり

 自然環境への負荷が高まっていく。

 純粋に、エネルギー効率を良くすれば、

 自然環境への負荷が少なくなる。」


「そうだな。

 我々は経済効果ばかり見ていた。

 産業は成熟しきっていると。

 新たな技術は困難だと。

 しかし、実際は200年前から大して

 進歩していない。

 燃料や電気を使いまくっているだけなのだから。」


「そりゃあ。燃料や電気を使いまくらなければ、

 グローバル企業は儲からないからな。

 まあ、今ではIT利権もあるがな。

 IT化を進めれば進めるほど、利益が国外に

 流出していくのだが。」


「これら巨大な相手に対決を挑もうというのか。

 希美様は。

 本当に、楽しませてくれる。

 希美様は。」


「我々も、頑張らなければならぬ。

 次世代の奴等には、金を遺すのではなく

 技術や知恵、我々の精神、そして

 生きていくために必要な自然環境を遺さなければ。」


「そうだな。」

「ああ。」


 頭のおかしい奴らは、会議室に飾られた

 美人が笑っている特大写真を

 見つめながら、それぞれが思いに浸るのであった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 俺は今、T町役場の屋上からT町の風景を見ている。

 夏前とはいえ、日差しが強い。

 本当に太陽さんは、我々にエネルギーを与えてくれている。

 感謝だ。

 しかし、このモデル事業は

 チャンチャン事業よりもはるかに大変だ。

 インフラのハード事業も、ソフト事業も同時に進めなければならない。

 小さな町で潤沢の補助金があるから何とかなりそうだが。

 エドワードや中小企業の協力が無ければ、

 ここまで、これなかっただろう。

 いや、あとは住民の方々も。


「和也さん。

 大分、順調にいっていますね。」


 エドワードも昼食を終えて屋上にやってきた。


「ああ。

 エドワードのおかげだよ。

 中小企業が協定を自ら結んでくれて、

 こちらに相談に来たときはビックリしたけど。

 当初は、こちらから頭を下げて回る予定だったのに。

 エドワードがリスク回避のために基金を

 申し出てくれたのは大きかった。」


「いや。

 私も楽しみなのですよ。

 この国の中小企業が本気を出したところを見るのが。

 期待以上ですがね。」


「本当に。

 期待以上だ。

 各家にメタンガス発生装置付きの浄化槽は設置している。

 団地内の空き家を撤去して新しい太陽光発電装置も設置。

 これが完成すれば、ガスや電気の自給は賄えそうだ。」


「太陽光発電装置はビックリしましたよ。

 従来のパネルではなくて球体ですものね。

 メタン発生の新しい嫌気性微生物も良く研究発見しましたよ。」


「そうだね。

 驚くのは、この短期間で研究開発したことだよ。

 この地域がモデルで実証実験できるのは助かっただろうけど。」


「後は、ごみの問題ね。

 既に、選定枝や里山の竹などのチップ化して堆肥にすることは

 一般廃棄物処理施設許可と処理業の許可を得て、当社が

 行っている。

 生ごみは臭気が問題だったけど、水分が原因だからね。

 大量の乾燥したチップの中に投入にて攪拌することにより

 臭気の問題も解決した。

 発酵も好気性微生物が活躍してくれて助かっているよ。

 堆肥の成分調整は課題だけど、メタン回収後の残渣物も

 混ぜれば窒素成分も結構得られるだろう。」


「運搬や攪拌機材はガソリン燃料を使うしかありませんが、

 これまで燃やしていたゴミは有効活用できそうですね。

 というより、排出物を食料の栄養分に変換させて

 また、それを食べて、排出する。

 うまく循環できています。」


「だよね。

 後は、プラスチックや紙類のリサイクルはやめた。

 すべて燃やして熱エネルギーに変換して活用する。

 現在、建造中の健康センターだけど、

 そこでお湯を沸かすのに活躍してもらうよ。

 あと煙は隣接の茅葺食堂の屋根に吹きかける予定だ。

 害虫駆除でね。

 残った灰は堆肥化だけど、すごいのは有害物質の重金属を

 含まない灰をつくる技術なんだ。

 あと、将来的にはアスファルトを燃料にしようかと、

 利用後に残った無機物は川に砂利としてまくけどね。」


「道路のアスファルトですか?」


「そう。

 今から試験するのは、電磁自動車。

 有機太陽光発電システムが成功したから

 可能性が広がったんだけど、

 道路自体で太陽光発電させ、磁力化する。

 自動車は、その磁力化した道路を浮かんで走るわけ。

 磁力による人体影響については調査課題だけど。

 そうするとアスファルトの道路が必要なくなってくる。」


「そんなこと可能なんですか?

 未来の風景ですね。」


「目的をもったこの国の中小企業は凄い。

 時間はかかるかもしれないけど、

 成功するんじゃないかな。」


「全く、面白すぎますね。

 どんどん、国際資本から離れていく。

 既にいくつか、国際特許も出願していますし。

 後は、本当に組織が動いてくるかですね。」


「ああ。

 まだまだ、水道など課題もあるが。

 課題をクリアしていけば、

 ある程度、地産地消が出来ると思うよ。

 経済も地域で回す感じ。

 一応、マスコミに対して情報はシャットアウト

 している。

 ただ、働いている人体が若干SNSとかで情報が

 広がってしまった。

 こればかりは、止めることが出来ない。」


「人工地震など、やらなければ良いのですが。


「そうだね。

 人工地震は結構簡単なんだろ?」


「はい。

 プレートを何らかの形で爆破すれば良いだけですから。

 余震が無く、いきなり大きな揺れがあるのは

 人工地震の可能性が高いかと。」


「この国は、プレートだらけだからね。

 まあ、だから震災対策もしているよ。

 実際、地産地消だから完成すればライフラインは

 大丈夫だろうし、

 実は健康センターは避難所も兼ねている。

 あと、耐震性、効率性で新しい住宅を考案中だ。

 地震のエネルギーで住居を浮かすとかね。」

 

「なるほど。

 今は、とにかくモデル事業を成功させることですね。

 組織が動いたら、それに対応するだけ。

 ですか?」


「そういうこと。

 そのために、毎日、修行を続けて強くならなければ

 ならない。」


「和也さんが、これ以上ですか?

 もう、既に漫画の世界ですよ。

 人類最強なんじゃないですかね。」


「いやいや。

 おそらく、組織の上層部は強いよ。

 それに、核ミサイルが飛んできても

 大丈夫なくらい強くならなくては。」


「はあ?

 核ミサイルを阻止すると。

 ハハハハハ

 面白すぎます。

 私も置いて行かれないように頑張りますよ。」


 俺とエドワードは話を終えて、

 会社に戻るのであった。


 なんなんだ?

 この光景は?

 爺は既に気絶している。

 毎日修行をしているのに、何故か爺は

 この攻撃には弱い。


「私のセクシーでしょ?」

 倫花がポーズを決めて、皆に水着姿を披露している。

 レースクイーン張りの露出度だ。


「露出すれば良い訳ではありません。」

 日向もポーズを決めて、倫花に対抗している。

 こちらは、倫花と胸を比較しては可哀そうだが

 ビキニ姿は非常にグラマーだ。


「かわいらしさが足りませんね。」

 琴美もポーズを決めているが、色気というより

 可愛らしい。

 ビキニ姿だが、リボンやヒラヒラが沢山ついている。


 この3人のやり取りを社員達が見ているのだが、

 何をしているのだ?


「あのー。

 すみません。

 一体何をされているのですか?

 水着コンテストか何かやられているのでしょうか?」

 俺は、皆に聞いてみた。


「あっ。和也さんとエドワード

 恥ずかしいところを見られてしまいましたね。

 帰ってくるのが遅いかと思いました。」

 日向が恥ずかしそうに答えてくれた。


「実は、当社のブランド水着を試着していたのです。

 登録社員の中にデザイナーを夢見ている子がいたので

 デザインを見せてもらったのですが、

 すごく素敵だったので、

 当社がバックアップすることにしたのです。」

 倫花がさらに答えてくれた。

 しかし、何故かやらしいポーズをしながら。


「見て下さい。

 このヒラヒラ。可愛いでしょ。

 胸上げもついているんですよ。」

 琴美が胸を強調して水着を見せびらかす。

 

「はあ。そうなんですか。

 男の俺には、あまり良さがわかりませんが。」


「それは、駄目です。

 男から見て、興奮するような水着かどうかを

 判断してもらわなければ」

 倫花が俺に近づいて説明してくる。


 いや、すでに一人気絶したから成功でしょ。


「ふむ。

 素晴らしいデザインだと思いますよ。

 あとは、素材ですかね。」

 エドワードが助け舟を出してくれた。


「さすがは、エドワード。

 そうなの。

 着心地や質感も重要なのよ。

 和也さんとは違うわね。」

 日向がエドワードに答えた。


 どうせ、俺はやらしい目でしか見てませんよ。

 しかし、素材か。

 普通、水着はポリエステルとポリウレタンで

 作られているよな。

 

 これら素材やペットボトルやレジ袋など

 プラスチック類は批判されている。

 プラスチック類は、石油の残渣物、つまり使えない

 成分ナフサを有効活用した非常に優れたものだと

 俺は思うのだが。

 プラスチックを飲み込んだ生き物が死んだとか

 プラスチックを悪者にしているが、悪いのは自然界に

 捨てる行為だろう。

 CO2だってそうだ。

 二酸化炭素は人間に対して悪いことはしていない。

 二酸化炭素を吸収してくれる森林を破壊する方が

 自然社会に悪いことをしているように思うのだが。 

  

 話がずれた。

 しかし、これからの世の中は脱石油社会だ。

 ならば脱プラスチック社会になるのかもしれない。

 将来を見据えるなら、有機素材だが。


「肌に優しい、有機素材とかで

 伸縮性があって丈夫な水着は作れないかな。

 モデル事業に参加している中小企業に聞いてみるけど。」

 俺は、思わず口にしてしまった。


「なるほど。

 和也さんの考えはわかる気がします。

 価格が問題になるでしょうが、他社との差別化

 には良いのではないでしょうか。」

 エドワードが援護射撃をしてくれた。


「良いですわね。

 さすがは、和也さん。」

 先ほどまで、俺を批判していた日向が俺を褒めた。


「そうですね。

 自然素材の方が、いやらしさが増すかもしれませんね。」

 倫花は、違う方向で考えている。


「それでは、この案件については和也さんに

 お任せします。」

 いつもの日向のセリフを琴美が奪った。


 あれっ?

 余計なことを言ってしまったのか。

 ただでさえ忙しいのに。

 安月給で残業代ももらっていないのに。

 取締役会での俺の出費が大きいのに。

 いつも使用人のように扱われているのに。


 うん。断ろう。

 俺がそう判断したとき。


「よろしくお願いします。和也さん。」

 水着を着たまま俺に接近して頼む日向。


「和也さんしか頼れません。」

 水着というより、ほぼ裸の状態で腕を

 組んでくる倫花。


「やっぱり和也さんだね。」

 俺の目の前で、胸を強調する琴美。


「・・・・・・・・・・・

 はい。出来る限り頑張ります。」

 俺は、断ることが出来なかった。


 恐るべし、水着娘たち。

 俺の心を読んでいるかのような行動。

 しかし、俺も強くなった。

 この攻撃にも何とか平然を装い耐えている。

 そこに親玉が現われた。

 そう、希美ちゃんだ。


「どう?

 私の水着。

 少し、恥ずかしいのだけど。」


 あれっ?

 いつも、希美ちゃんに何も感じないのに。

 アレアレアレッ?

 単なるスクール水着である。

 いやらしさのかけらもない。

 なのに。

 ヤバイ。興奮して来てしまった。

 俺は耐えられず、


「トイレに行ってきます。」

 といって、部屋から逃げ出した。


 確かにスタイルは良かった。

 恥じらう姿も良かった。

 スクール水着も良かった。

 しかし、これほど興奮するとは。

 相手が希美ちゃんなのに。

 俺はトイレに籠り。


「修行するぞ。修行するぞ。・・・・・」

 精神を落ち着かせようと必死になった。

 未だに爺は気絶したままだ。


 ピグモン婆を思い出せ。

 いや、不十分だ。

 カツラの裸を思い出せ。

 いやいや、まだ不十分だ。

 ・・・・・

 俺は、色々と汚いものを想像して

 何とか興奮状態を落ち着かせた。

 修行とかの問題ではない。


 しかし、何だったんだ。

 希美ちゃんに対して、小娘3人とは異なる興奮。

 意味不明だ。

 俺は部屋に戻った。

 既に、小娘3人たちは服を着こんでいる。

 そりゃそうだ。

 話はまとまったのだから。

 しかし、希美ちゃんは水着のままだ。


「水着で仕事もありかもね。

 気楽だし、何かこぼしても大丈夫だし。

 当社は、水着もOK。

 クールビズでいきましょう。」


 そんな、男が仕事に集中できない仕事場はありません。

 ヤバイ。

 何故か希美ちゃんを見れない。

 見たら精神が崩壊してしまうかもしれない。


「すみません。

 外回りに行ってきます。

 そのまま、今日は帰りますね。」

 俺は、日向に告げて部屋をそそくさと出て行った。


 自転車でアパートに帰ったが、まだ興奮が収まらない。

 今なら邪念パワー最大出力で

 どんな強敵も倒せそうだ。

 というより、何か発散しないと気持ちが落ち着かない。


「どうした和也よ。随分と精神が乱れとるな」

 爺が気絶から目覚めたようだ。


 俺は爺に説明して、いつものように対戦をお願いした。


「爺。今日は、少し抑えが利かないかもしれないから

 気をつけてね。」


「望むところじゃ。精々、全力で向かってくるが良い。」


 俺と爺はいつもどおり、精神エネルギーで戦闘を開始した。

 爺の精神エネルギーは俺とは比較にならない。

 だから、いつもは技を駆使して闘うのだが。

 今日は、真正面からぶつかった。

 当然、はじかれるだけなのだが、今日は、倒れるまで

 ぶつかりたい気分なのだ。

 爺も大きなエネルギーをぶつけてくる。

 それすらも、正面から受け止めて。


 いつもより長く、2時間程度闘った。

 結果は、いつもどおり俺の負け。

 しかし、疲れ切った俺は興奮状態から覚めることが出来て

 冷静になれた。


「ハハハ。和也よ。今日は今日で面白かったぞ。

 技だけでなく、こういった修行はエネルギーを高めるのに

 有効かもしれん。

 実際、以前とは比べ物にならないほど高まった時があった。」


「ありがとう。つきあってくれて。

 しかし、希美ちゃんで、興奮するなんて。

 希美ちゃんも精神エネルギーが高まったのかな?」


「ふむ。和也が希美のことを好きだからではないのか?」


「いや。好きだけど。恋愛とかとは違う意味でね。

 だと思う。

 あれっ?

 まあ、良いよ。

 そういうことは考えないことにしているんだ。」


 そこに、トントンとドアのノックがされた。

 鍵を開けると、そこには希美ちゃん。

 当然、水着姿ではない。

 いくら馬鹿な希美ちゃんでも、そこまでは

 しない。


「和也君。途中で帰ったでしょ。

 てっきり、私の水着姿にやられたかと思って。」


「ハハハ。

 そんなわけないじゃん。

 希美ちゃんごときの水着で」

 俺は白を切った。

 本当に、希美ちゃんは変なところで感が当たる。


「フフフ

 冗談よ。

 そんなのわかっているわよ。

 みんなに内緒で

 すこし相談がしたくて来たの。」


 真面目な顔の希美ちゃん。

 珍しい。


「そうなんだ。

 まあ、あがってよ。」


 希美ちゃんがコタツ机にすわって、俺と対峙する。

 子猫のランは、いつもどおり希美ちゃんの

 肩の上だ。


「実はね。

 私、スパイじゃん。」


「そうだね。」


「それなりに、やりまくっているわけ。」


「そうだね。あちこちから苦情が来ている」


「情報もかなり掴んでしまって、国家機密とかも。」


「そうだね。大使館で働く人達の個人情報だけど」


「T国大使館で、うんこマンが空を飛んだって

 情報も掴んだのよ。

 これは、まだ、皆には話していない。」


 なに?

 大使館の奴等はみんな倒して、意識は無かったはず。

 誰かに見られていたのか?


「そんなわけないじゃん。

 人が空を飛ぶなんて。」


「教えてくれた情報筋は確かなの。」


「へー。いったい誰がそんな嘘を」


「エドワードの子供達よ。」


 ナニナニナニー?

 それは確かだわwwww

 内緒だって約束したのに。


「誰にも内緒ねって話してくれたの。

 だから、黙っていたんだけど。

 子供達も和也君がうんこマンなのか

 確かめてと頼まれて。

 和也君がうんこマンなのは内緒にしているわよ。

 でもね、空を飛んだと聞いては

 我慢できないじゃない。

 わかるよね。和也君。

 ね。ね。ねー。」


 子供達との約束で黙っていたけど

 我慢の限界になったと。

 そういえば、あの子供達、

 この国の言葉が上達しているし、

 希美ちゃんとも、しょっちゅう遊んでいるものな。

 希美ちゃんを仲間と認めたのだろう。


「いや、確かにうんこマンで子供達を助けたけど

 空を飛ぶなんて。」


「だって、エドワードも空中に浮かぶって

 子供達が言っていたよ。

 為せば成るってやつじゃない。」


 エドワード。

 修行を子供達に見られちゃっているじゃない。

 さて、どうしよう。

 絶対、この流れは、私も飛びたいとか言う流れだ。


「私も飛びたいの。」


 ほらきた。


「教えてくれたら、

 水着見せてあげるから。」


 それは勘弁です。


「和也よ。良い機会じゃ。

 希美にも精神修行を教えてやってはどうじゃ。

 エドワード程ではないが、希美も精神エネルギーは

 高いぞ。」


「それはわかっているんだけど。

 まあ、いっか。

 出来ても出来なくても、やらせてみて

 万が一、出来るようになれば自分の身を

 多少守れるかもしれないしね。」

 俺は爺との頭の中での会話を終えた。


「わかりました。

 希美ちゃんが出来るか責任はとれないけど、

 教えるだけ教えましょう。」


「やったー。

 さすが、和也君。

 で、どうやって。

 気を集中するとか、そういうの?」


 漫画の影響が大きいな。


「簡単に説明すると、

 肉体は物質エネルギーで出来ていて

 精神エネルギーというのが別にあって

 その精神エネルギーをうまく使いこなせれば

 飛べるようになるってこと。」


「うん。うん。

 なるほど。

 全然わからない。」


 すごく簡単に説明したのに。


「自分の精神エネルギーを見つけて

 それを操れるようになれば、飛べるってこと

 なんだけど。」


「なんだ。

 簡単じゃない。

 わかったわ。」


 希美ちゃんは目を閉じて精神エネルギーを

 探し始めた。

 見つかるわけがない。

 俺もエドワードも爺の助けがあったから

 何とか見つけられたのだ。


「爺。希美ちゃんを手伝ってあげるか?」


「いや、少し待て。

 和也よ。儂らは希美を勘違いしていたかもしれぬ。

 何かに気づいているようじゃぞ」


「嘘だろ?

 確かに、いつもと違う集中力だ。

 まさか?」


 希美ちゃんが目を開けた。


「和也君。何も見つからないわ。

 いつも感じるエネルギーはわかるんだけど。

 内に隠しているから出てこない。

 これがそうなの?」


 嘘でしょ?

 生まれ持った才能?


「少し、手伝ってあげるね。

 何も考えず、ボーッとしてみて。

 それで、そのエネルギーを見つけたら

 動かしたりしてみて。」

 俺は、爺に頼むことにして、希美ちゃんに伝えた。


「和也よ。

 和也並みの天才じゃ。

 すぐに肉体を支配出来たぞ。」


 やっぱり。

 俺の精神エネルギーをぶつけても何も起きなかった

 原因が分かった。

 そして、さっきの俺の興奮も。

 もともと、希美ちゃんが持っている精神エネルギーは

 大きいのだ。

 無意識に自分で内に隠していたようだけど。

 これなら・・・・・・・・


「和也よ。

 希美は、和也やエドワード程ではないが

 精神エネルギーが高かったようじゃ。

 すでに、エネルギーを操作している。

 ただ、儂らのエネルギーとは少し違う気が

 するのじゃが、わからん。」

 爺が俺に説明してくれた。


 ということは、希美ちゃんの体の支配を

 終えたということで。


「和也君。

 すごいわ。

 すごいのよ。

 ウニョウニョがホニョホニョニになって

 ツンツンがドカーンになって

 プニョプニョがガンガンになって」


 はい。すごいです。

 まだ、3時間しか経っていないのに、

 わけのわからないことが出来るようになったのね。


「そう、それが精神エネルギー

 毎日修行して、自由自在に操れるようになれば

 飛べるようになるよ。」


「そうなのね。

 キュイーンと外国まで飛べるようになれるのね?」


 まあ、俺なら出来るけど。


「ハハハ

 頑張れば出来るかもね。」


「私、頑張るわ。

 その前に、お腹が減ったのだけど。」


 そうだった。もう夜中の10時だ。


「では、食事を作りましょう。

 但し、条件があります。」


「えっ?なに?」


「この精神エネルギーのことは誰にも

 内緒にすることです。

 守れないのであれば食事は作りません。

 破れば、今後も作りません。」


「うっ。わかったわ。

 和也君の食事を食べられないなんて

 考えたくもない。

 約束は守るわ。」


「よろしい。

 では、作ります。

 ビールでも飲んで待っていてください。」


 そして、かつ丼を作ってあげて

 希美ちゃんは食い終えたのだが、

 帰る気配がない。


「希美ちゃん、帰らないの?」


「何で?」


「いや。だって。

 男と女が一つの部屋で

 まずいでしょ。」


「大丈夫よ。いつものことじゃない。

 お酒飲んで帰るの面倒くさいの。」


 仕方ない。

 いつものとおり、お酒に付き合って、

 眠った希美ちゃんに毛布を掛けてあげたのだが。

 ランもいつもどおり希美ちゃんと一緒に寝ている。


 なんだ?

 モンモンとするぞ。

 希美ちゃんを意識してしまう。


「和也よ。希美の精神エネルギーの影響かもしれぬな。

 内に隠していたものが、今は外に漏れている。」


「そうか。

 それだけ、今日の修行でエネルギーが増えたのか」


「末恐ろしいかもしれぬな」


「まあ、お馬鹿さんだから大丈夫だろう。」


 俺と爺は頭の中で会話をした。

 俺は、いつものとおり、悶々と眠れずにいた。

 ただ、希美ちゃんのこれからの成長を願って。


 そう、希美ちゃんが自信を守れるようになれば

 俺は安心できるのである。

 俺が大切な人を守る方法は、俺が守る以外にもある。

 いや、守る術を教える方が良いのかもしれない。  

 いつも期待を上回る希美ちゃんだ。

 きっと。

18話から19話の間が空いてしまいました。

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