第16話 ウィルス
デュランが帰ってから1年
支店が2店から10店に増えた。
取材なども来るがお断りしている。
役員のSNSだけで広告は十分だ。
資本も増えて上場できる規模であるが
上場はしない。
株式は分割して社員に分けている。
まあ、議決権は無いけど。
そして、俺とエドワードは
チャンチャン事業で大忙しである。
現場で文句ばかり言われる俺。
現場で褒めたたえられるエドワード。
まあ、なんだかんだ言っても
事業はうまくいっている。
互いの地域で不足しているものを
賄いあっているのだ。
始めのころは、食材の運送も一方通行で
帰りのトラックは空荷だったのだが
今では農村地帯のT町にも
新鮮な魚介類などが入ってくるし、
漁師町のW町には米や野菜が入ってくる。
都心部も含めて互いに姉妹都市になったりして、
住民たちが観光で行き来もするようにもなった。
人と人との交流が賑やかになった。
まあ、お金は流通という中で便利な道具だ。
どこかで、お金が停滞して
溜まっていくということもない。
お金と人と物が常に動き回っている感じ。
物々交換では、こうもスムーズにいかないだろう。
「和也さん。順調ですね。」
「そうだね。でもさ、大体うまくいくときに限って
何か起きるんだよね。」
そう、これまでの人生、順調にいくことのない俺。
「ふむ。言われてみれば気にかかることがあります。
現在、
W国で謎のウィルスが流行っているらしいです。
熱帯の国ですがね。
人工的に作られたという噂も」
「俺もネットで見た。
感染力が凄いみたいだね。
でも、通常、感染力が凄いウィルスって
人体への影響力は弱いんだろ。」
「そうですね。基本的には
感染力が弱いウィルスは毒性が強く
感染力が強いウィルスは毒性が弱い
今回のウィルスもパニックになるほどの毒性はないかと。」
「それで、何が気にかかるの?」
俺はエドワードに問いた。
「実は組織の計画として、人と人との関係を希薄にする。
というのがありまして。
まあ、互助や共助を無くしていくということです。
孤立した個人は弱いものですから。
管理しやすくなる。」
「ふむふむ。それとウィルスと何の関係があるの?」
「仮に、各国がウィルス感染の拡大を防ぐために
人と人との交流を抑制にしたら?」
「ネットが主流になるだろうね。
それに、うちらの事業もやばいかな。
人と人との信頼関係はネットでは難しいもんね。
それに、定食屋とか飲食店は客が来なくなる。
あれっ?
まずいじゃん。」
「そうです。
まあ、組織が関与していたらの話ですがね。
あと、弱小企業は潰れて
大手だけが生き残るでしょう。
組織や資本家には良い話かもしれませんが。」
「なるほど。一応
何か手をうっておかないと、まずいかな。」
「良いアイディアがあれば良いのですが。」
俺とエドワードは万が一を考えて、
相談するのであった。
しかし、良いアイディアが出てこない。
2か月後
この国でもウィルスが確認された。
当然だ。
ウィルスにパスポートは必要ない。
しかし、国の対応は冷静だ。
正しく恐れるように公報している。
マスコミも。
恐れることは無かったか?
俺は少し安堵していた。
会社でも今回のウィルスが話題になっていた。
「風邪なんて、気持ちの持ちようよ。
要は、気合。」
希美ちゃん、鼻水垂れています。
気合で止めてください。
「和也さんに言われたとおり、マスクは大量に
購入しておきました。」
そう、エドワードと相談して日向に頼んでいたのだ。
「まあ、
この時期は風邪やインフルエンザもあるからね
社員に配布してください。
布製マスクの作成マニュアルもつけて。」
「すぐ、落ち着けばよいのですが。
まあ、ニュースでも死ぬようなウィルスではない
正しく恐れてください
とか言ってましたので大丈夫かと」
さすが日向、毎日ニュースは見ている。
しかし・・・・・・・・・
1か月後には風向きが変わった。
ニュースで騒ぎ出した。
国の対応が悪いだの
大変な事態だの
国外で死亡者が多発しているだの
いや、すごい騒ぎだ。
こりゃ駄目だ。
俺もエドワードも大誤算。
専門家が発言している内容は
専門家からの見解なら、そのとおり。
専門家からすれば拡散防止するためには
人と人との接触をなくす。
それが一番なのであるから。
検査を増やして隔離していく
これも当然。
致死率が低くても不明なウィルスなのだから
慎重に対応する。
そのとおりだろう。
組織とかの話ではない。
しかし、正しく恐れるとかの話は
どこに行ったのであろう。
数字も同じ条件で比較していないからわからない。
というか、正しい情報がわからない。
検査陽性者を感染者数に置き換えている?
検査の確実性が100%なら良いけど。
死者数とか重傷者数って直接影響者数なの?
病床が足りなくなるとか煽って検査は増やせ?
今では、恐れろと煽っている。
インフルエンザと同様な扱いにしては?
などという意見を言えば袋たたきだ。
国内だけならまだしも世界中だ。
どうしようもない。
世界では、このウィルスを利用して
世の中の構造が変わってきている。
U国など選挙制度を変えてしまった。
まあ、すごいタイミングだ。
俺の印象では、組織が関与したとすれば
こちらが目的に見えるほどに。
もう、俺たちがどうこう出来るレベルじゃない。
自分たちに出来ることをやる。
それしかない。
仮に組織が関与しているとすれば俺たちの完敗だ。
「至急、役員会議を開きましょう。
日向さん、招集をお願いします。」
俺は日向に頼んだ。
そして、午後から役員会議
出席者は小娘役員4人と俺とエドワード
「派遣社員も通勤が抑制されています。
というよりも、契約更新が難しくなる恐れも」
日向が状況を説明する。
「派遣社員の中でも、心配する者が増えています」
倫花が社員の心境を
「営業先の派遣先責任者も先が見えないということです」
琴美が営業先の状況を
「まずは、社員についてですね。
これから働けなくなる社員が増える可能性がある。」
俺はテーマを一つに絞った。
「・・・・・・・・・・・・・」
なかなか、解決策が生まれない。
こちらの都合ではなく、契約会社の都合もあるのだ。
俺もエドワードも考えるが
「簡単じゃない。働く場所を作りましょう」
馬鹿な社長が簡単に言う。
そんなに簡単に働く場所を作れるなら
とっくにやっています。
「そうね。働く場所を私たちが」
「まずは需要を探ることね。」
「ちゃんと給料を払える事業じゃないと」
他の、お馬鹿な小娘役員3人も同調した。
そんなに簡単に新規事業なんて。
しかも、これから不景気になるというのに
なるのに?
ネットビジネス業界は潤うだろう
後は何だろう?
「こんなことで、
コミュニティが無くなるのは悔しいですよね」
「でも、コミュニティが抑制されているのだから」
「コミュニティを事業にするのは難しい。」
「仕事だって、私なら自宅でやるより
みんなとワイワイ仕事したいし。」
「中には、人間関係が嫌だから
自宅の方が良いという人も結構いるわよ。」
「結構、会社に来なくても出来る仕事って
あるんですよ。」
「きっと、これからは効率重視で、
ITが主流になるわね。」
「当然、人はいらなくなる。」
「うちの社員や会社はヤバイですね。」
話が振出しに戻る。
そうだろうな、俺だって考えがまとまらない。
「チャンチャン事業を拡大すればよいじゃない。
今だって、働けない登録社員とかの受け皿に
なているんだから」
希美社長、さっきから思いついたことを
簡単に言うが。
チャンチャン事業は、
都内で働く社員がいて、そのお金が
協力してくれる市町村に流れて
弁当などの食材として社員に
還元されるのであって。
都内で働く人が少なくなれば
チャンチャン事業も成立しないのだよ。
俺は説明するのも面倒くさいので
希美ちゃんの話をスルーした。
「それでは供給が増えすぎて
需要が足らなくなるの
つまり赤字になるということ
わかる?希美」
日向が俺の代わりに説明した。
「わ、わかっているわよ。」
わかってないでしょ。希美ちゃん。
「だから、供給が増えたら、
需要も増やせばよいのよ。」
希美社長は本当に先ほどから簡単に言う。
需要を伸ばすといったって
競業会社がたくさんいるのに。
ん?
でも、何か考えがまとまってきた。
「ひとつの案ですが、
仕事がなくなる社員に
チャンチャン事業をやってもらう。
これを柱として提案したいのですが。」
「和也さん、
それは赤字覚悟ということですか?」
日向が俺に問いてきた。
「いえ。
会社が安定した経営をするのは絶対条件です。
この状態が
短期的なのか長期的になるかわかりません。
一番大事なのは
家族である社員の食事と住まい。
つまり生活です。
まず、住まいですが、
協力市町村の空き家をリフォームして提供します。
都内では居住費のコストが高いですから。
次に食事ですが、
これまでどおり、安価に提供します。
そして、働いてもらうのは、
すでにあるチャンチャン事業のほか
介護や環境保全の事業などです。」
「介護や環境保全ですか?
具体的にはどのようなことを想定しているのですか?」
エドワードが担当らしく俺に質問してきた。
「エドワードも俺と歩いて知っていると思うが
各協力市町村では高齢化が激しい。
それに伴って被介護者も増えているのだが
施設も足らず、自宅介護が推奨されている。
まあ、どちらも人手が足りない。
そこに参入するのは当然だろう。
需要があるのだから。」
「なるほど。
これまで参入しなかった方が不思議と。」
「当然、資格取得などの費用は支援する。
まあ、介護は例えばだけど
社員が住む町で人材が不足する分野に
参入するイメージかな。」
「あとは、どのような産業が人材不足で
どのくらい希望者が
いるかということですね。」
「そういうこと。
希望者が多ければ良いのだけど。
給料は安くなるだろうからね。
ただ、住まいと食事のコストが変われば
生活が困難になることは無いと思う。」
「環境保全は?」
「これも例えばだけど。
結構、難しい。
ずうっと構想はしていたのだけど。
これには、公的な費用が必要となる、
いわゆる公共事業だ。
かといって、協力市町村は赤字財政ばかりだ。
国を動かすしかない。
エドワードの人脈と
役員さん達の接待が必要になるかも。
設計や費用対効果の計算などは任せてほしい。
社員の中で希望者がいればいいかな。
まあ、いわゆる社員が住む町で
新規産業を生み出すイメージ」
「とにかく、ITで出来ない産業に参加しようと
そういうことですか?」
「さすが、エドワード。そういうこと。
まあ、社員の中でどのくらい希望者がいるか
不明だけどね。
協力してくれる各市町村にも色々聞き込みをするよ。
定食屋は、とりあえず弁当屋に集中だね。」
「そうですね。私も社員から聞き取りをします。」
「私も色々要望を聞いてみます。」
「社員から良いアイディアが出るかもしれないよね」
「まあ、和也君が私の言いたいこと言ってくれたかしら」
とりあえず、話はまとまった。
とりあえずだ。
問題の先送りにしかなっていない。
まずは、このウィルスの脅威が無くなることと
人が働く場所の減少をどうやって抑えるか。
国も考えているのだろうが。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「この国も久しぶりですね。」
黒髪を後ろで縛る男は自家用ジェットから
階段で降りてくる。
先に3人の男は階段の下で待っている。
「ワンさん。お疲れ様です。
調査は終了しています。
本当にワンさんも私たちと一緒に
目的地に向かうのですか?
私たちだけで充分だと思うのですが。」
スーツに短髪の男が問いた。
「そうですね。
デュランが情報を必死に隠そうとした人物です。
私が自ら相手した方が早いでしょう。
まあ、あなた方にも協力してもらいますが。」
ワンは笑みを浮かべて話す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺はアパートへ仕事からエドワードとともに帰った。
ところが、
俺の部屋の前で黒い子猫が鳴いている。
「捨てられたのか?
このアパートは生意気にペット禁止なんだよ。
ごめんな。
ミルクだけ持ってきてあげるからな。」
俺はエサを上げてはいけないと思いつつも
子猫と約束してしまった。
そして、ドアを開けると
スタタタタタッ
子猫が部屋に勢い良く入っていってしまった。
そして、コタツの前で可愛らしく
ニャー
ここで住まわせてとばかりに鳴く。
負けました。
大家のピグモン婆など関係ない。
エドワードだって改装し放題なのだから。
俺にだって癒しがあったって。
俺は、急いで猫のエサとトイレ用品を買ってきた
俺が帰ると
ニャーと鳴き
すり寄ってくる。
可愛い。
名前は「ラン」だ。
何故か、頭にピンときた。
俺がお前を守ってやる。うん。
「和也よ。可愛いな。」
「そうだろ。爺
なんだろう。
しばらくこんなに癒されたことない気がする。」
「不思議じゃのう。何故、他の動物でも
愛おしく思えてしまうのか。」
「理屈じゃないんじゃない?」
「儂は、探求したいのじゃがな。」
「ハハハ。そうだね。
この子猫の記憶でも探ってみたら?」
「やってみたが、全然駄目じゃ。」
「やってみたんだ。ハハハハハ」
俺と爺はそんな会話をしていた。
すると、
「ありゃりゃ。爺。おいでなすった。
しかも3人?いや4人か」
「うむ。1人は儂らと同様に
精神エネルギーをコントロールできるようじゃな。」
「結構やばい感じだな。」
「まあ、仕方あるまい。
儂らも毎日修行しているのじゃ。
修行の成果も試したいしのう」
「爺は、俺が死んでも平気だろうけど。
俺はやばいんだから。
まあ、ランのためにも頑張って生き延びるか」
「ほほう。誰かのために生き延びる。
和也には無かった感情じゃのう。」
そして、俺は自分の部屋を後にした。
「あなたが、藤原和也さんですね。
ふむ。精神エネルギーをコントロールしている。
すばらしいですね。」
黒髪を後ろで縛った男が話しかけてきた。
後ろには3人の黒スーツの男が立っている。
「お褒めにあずかりありがとうございます。
ご用件は何でしょうか?」
俺は、要件はわかっていても一応聞いてみた。
「そうですね。
我々の仲間になりませんか?
そうすれば、ここであなたを消すことは無いのですが。」
あら、俺を勧誘しにきたの?
「すみません。
仲間は間に合っているので。
あと、消されたくもないのですが。」
俺は丁寧にお断りした。
「我儘を言ってはいけません。
仕方ありません。
ポウ、あなた方はエドワードを始末してきなさい。」
ポウというらしき黒スーツの男3人は
そのまま歩きだし、アパートの入口の方へ向かっていく。
このポウたち3人。
デュラン並みの能力者だ。
俺は精神エネルギーを開放して
デュランと同じように3人とも一瞬で倒した。
「ほう。やはりやりますね。
まあ、お手並みを拝見したかったので
試したのですが。
やはり、私が来て正解でした。」
「そうでしょうね。
自分でも後悔してますよ。
仲間になっていたほうが良かったのかなって。」
実は3人を精神エネルギーで攻撃した際に
この男も精神エネルギーで防御してきたのだ。
デュランや、そこに倒れている3人の男の比ではない
ほどの精神エネルギーで。
さすがに、俺もある程度、底力を出してしまった。
俺の精神エネルギーの力を感じても余裕の姿。
こいつは強い。
「今からでも遅くありませんよ。
仲間になりませんか?」
「いや。男に二言は無いというのが信条なので。」
「仕方ありません。
久しぶりに私も本気でやらせてもらいます。」
そういうと、恐ろしいほどの精神エネルギーが
俺を包み込もうとしてきた。
俺の精神エネルギーの倍くらいあるだろうか
俺の精神エネルギーでは負ける
そして、俺は相手の精神エネルギーに包まれた。
油断はしていなかったが。
「終わりですね。あっけない。」
黒髪の男は少し残念そうにつぶやく。
俺は、相手の精神エネルギを表面で防御しながら
ゆっくりと吸収していく。
いくら量が多くても表面で受ける量は一定。
であれば、自分の精神エネルギーを混ぜるように
攻撃性を無くす命令をしていけば。
俺は相手の精神エネルギーを全て吸収した。
爺と毎日にように修行しているのだ。
これくらい出来なくては、爺と手合わせできない。
「和也よ。やはり出来たな。
儂以外の相手でも出来るか不安じゃたが。」
「そうだね。
まあ、もし出来なくても。
その時は、爺が何とかしてくれると安心してたよ。」
「和也は本当に天才じゃのう。」
「いやいや、
俺が天才ということは爺も天才ということで」
俺と爺は頭の中で褒めあっていた。
「ん?
なんだ?
何で何も起きない?」
相手は驚いている様子。
「お帰りになりますか?
寒いのに長いこと外にいても風邪ひきますよ。
ワンさん?」
「何で、私の名前を?」
爺が倒れている男から記憶を抜いたのだ。
「ただ、私の仲間、
デュランを殺したのは許せませんね。」
「貴様は何者なんだ?
一体?
もういい全力で殺す。」
そう言ってワンは精神エネルギーを全開にして
俺にぶつけてきた。
先ほどの比ではない。
これはやばい。
吸収するには時間がかかりすぎる。
まあ、それだけなのだが。
俺は頭の中で、
「爺、お願いいたします。」
「うむ。」
爺は頭の中で了解すると
相手の精神エネルギーをいとも簡単に
防御して、
そのまま、
そのエネルギーを
相手に喰らわした。
「うぎゃー」
精神エネルギーが無くなったワンでは
抵抗できない。
精神エネルギーがその意志とともに
高熱の物質エネルギーに変換される
俺のようにコントロールできなければ・・・・
ワンの体が炎に包まれる。
「和也は甘いのう。」
爺が呟く。
俺は、精神エネルギーで炎を消してやった。
髪と衣服は多少燃えたようだが。
やけどは、そんなに負っていないだろう。
「そんな馬鹿な。」
ワンは呟いている。
「デュランを殺したことは許せない。
しかし、
今回だけは見逃してやる。
組織には
自分が負けたとは言えないだろう?
お前が始末されるからな。
俺も黙っておいてやる。
お前より強い奴が5人もいるとは
本当に面倒くさい。」
「なぜ、そんなことまで?」
「お前から聞いたことにして、
名前も全て公開してやろうか?
まあ、今回の件や
俺や俺の仲間のことは黙っていることだな。
いいか。
その時は、生き返ることなどできないと知れ。
精神体もろとも破壊する。
次は無い。
それだけを心に刻んでとっととC国へ帰れ。」
俺はそう言って、倒れた男3人を起こして
帰らせた。
まったく、せっかくランに癒されていたのに。
騒がしい奴等だ。
そして、俺も部屋に戻ろうとするのだが、
愛しのランがどうやって部屋を開けたのか
エドワードの部屋の前にいる。
ニャー
と「お疲れさま」と言ってくれた。
ついでとばかりに
俺はエドワードに今回の件を説明した。
エドワードもデュランより上の者は
あまり知らないらしい。
ランはデュランになついている。
まるで、何もなくて良かったと言っているかのように
しかし、俺が闘っている間、
ランはエドワードを守ろうとしてたのだろうか?
そんなわけない。
こんな可愛い子猫が。
俺は、ランを抱きかかえ部屋に戻るのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今日は役員会。
そう。会場は俺の部屋。
エドワードに部屋の方が良いんじゃない。
秘密基地もあるし。
温かいし。
俺の部屋の暖房弱いし。
どうせ、俺だけコタツは入れないし。
しかし、今日の主役はランである。
「可愛いすぎ。」
「わたしにも抱かせて」
「わたしも抱っこしたい」
「ペットは禁止ですよ。和也君。
でも、この子は許可してあげます。」
小娘たちに可愛がられている。
ランも満更でなさそうで。
喜んで抱っこされている。
「因みに、ランは雄だよ」
誰も聞いてくれない。
雄であると意識してみると
なんかランが
スケベに見えてきた。
猫ならコタツの中で丸くなるだろう。
日向のスカートの中に潜ろうとしたり
倫花の胸を手でプニュプニュ押したり
琴美の顔をペロペロしている
希美ちゃんには、
何故か頭に上って手でポンポンしている。
主人に似るのであろうか?
そんなわけで今回の会議のテーマは難しいのに
みんなで、癒されながら始まった。
今日のメニューは
きんぴらゴボウ
筑前煮
ほうれん草の胡麻和え
だし巻き卵
鯛の煮付け
「会議と食事の用意が出来ました
本日は日本酒を用意しております。」
俺は使用人らしく準備をして役員をもてなした。
「和也君。締めは」
「はい。お茶漬けをご用意しております。」
「よろしい。」
俺も使用人が板についてきた。
俺のプライドさんは開き直り君と
仲良く同居しているので、
最近は旅立つことが無くなった。
何がプライドなのか
わからなくなってきただけかもしれないが。
「それで、希望者の方はどうですか?」
俺は日向に介護や環境保全事業の希望者がいるか聞いた。
「少ないですね。
離職予定者の8割くらい。」
日向が答える。
「そうか。
でも逆に言えば2割も希望者がいるってことか。」
「いえ。8割が希望者です。」
「うそ?そんなにいるの。」
俺は驚いた。1割いれば良いと思っていたからだ。
「仕事の内容より、
うちの会社から離れるのが嫌という方が多かったです。」
倫花が話す。
「あと、資格支援や住まいと食事が提供されるのが
安心みたいです。」
琴美も説明した。
「そうなんだ。では残りの2割の人が問題ですね。」
「そうですね。8割は介護。
残りの2割が新規事業という感じでしょうか。」
日向がポツリと説明する。
「え?介護だけで8割。
あり得ないんですけど。
結構、大変な仕事だよ。
高給には出来ないし。
事務仕事していた人なんか特に嫌がるでしょ。」
「いえ。結構、高給には設定したのです。」
倫花が言う。
「どうやって?」
俺には理解できない。
「エドワードが寄付してくれたので」
琴美が言う。
ありですか?
そんな方法ありですか?
自分たちで何とかしなきゃでしょ。
でも、今回
今回だけはありにしましょう。
「しかし、長期間は無理でしょうから
新規事業を進めないといけないかな?」
俺はみんなに尋ねた。
「そうですね。
一応、エドワードの紹介で官僚の方々や
閣僚の方々を
エドワードの部屋で接待しました。
和也さんの計画書も渡しましたよ。」
日向が、平然と言い放つ。
「まったく、このウィルスで騒いでいるのに
めちゃくちゃ、接近してくるし
触ろうとしてきたので、
逆にいっぱい触ってあげました。」
倫花が笑顔で話す。
「でも、頼んでみたら
みなさん、がんばりますとか、
言ってくれましたよ。」
琴美がかわいらしく説明してくれる。
「まあ、
浣腸副長官とか、まあまあ酒は強かったわね。
SPとかとも組手してやったけど、
まあまあ強かったわ。
みんな、まあまあよ。」
何を胸張って威張っているのですか?
浣腸副長官って、もしかして官房・・・
SPさん手加減してくれたんだよ。
希美ちゃん。
何やってくれてるの?
いつのまに?
というか、
国のお偉いさんたちだよ。
「ということで、次回の補正予算で
予算計上してくれるそうです」
日向があっさりという。
本当にこの小娘達、
国を動かしているよ。
ハハハ
すごすぎて。
笑うしか出来ない。
「和也さんの計画書も褒めていましたよ
テーマは多様性とか
列島改造計画だなとか」
倫花が俺のことを引き合いに出してくれた。
「まあ、でも
エドワードの他にも
U国大使館のジャック
あと、何故かデュランも
知り合いの官僚や閣僚に
うちの会社をよろしくと言われたみたいで。」
琴美が話してくれた。
デュランの馬鹿野郎。
人の心配している場合じゃなかったろうに。
でも、
皆にはデュランが殺されたことは言わない。
知らなくて良いことはあるのだ。
「希美。
駄目よ。
ランにお酒を呑ませちゃ」
日向が怒っている。
「わたしあげていないよ。
この子が勝手に呑んでるの。
わたしに勝負を挑んでいるのかしら?」
希美ちゃんが、ランに乾杯している。
だからやめなさい。
まったく。
ランも子猫なんだからお酒なんて駄目。
俺は保護者として
希美ちゃんからランを
引き離す。
すると、
俺からスルリと逃げて
希美ちゃんの肩にのって
希美ちゃんの頭を手でポンポンする。
その姿が可愛いのだが。
何で?
何で希美ちゃん。
まあ、しかし、
なんとか、エドワードの資金協力と
小娘たちの活躍で、ピンチをしのげるかもしれない。
いや、ピンチをチャンスに変えるのだ。
そんな自分に能力も無いのに考える俺だが。
「和也さん。新規事業の計画、
数千億円規模の補正とか言ってましたけど。
そんなに大事業なのですか」
日向が質問してきた。
あれ?
数十億程度の計画だったのだけど。
俺が桁を間違えたかな?
「でも、これが数十兆円の
経済効果がとか言ってましたよ。」
倫花が補足する。
「だって、列島改造計画なんでしょ?」
琴美も追随。
「何か、お金を流せとか言ってた奴がいたから
頭をパシッと叩いたの。
そんな金があれば社員に渡すって言ったら
目が点になって笑ってたわ。」
希美ちゃんが危険なことを発言しています。
ちょっと待て。
数千億規模の予算?
そこまで考えていなかったぞ。
どんなことをやろうとしているんだ?
我が国は?
「あと、スパイの話もしたら
浣腸副長官が、今度、ゆっくり話をしたいって」
希美ちゃん、馬鹿にもほどがあります。
ランも頭をポンポンポンポン叩いているよ。
「そうそう。
あなたの色気なら出来る。とか褒められたわ」
エッ?倫花さん。ハニトラ勧められたの?
「何か困っているらしくて、
そういうのが欲しいとか言ってたよ。」
琴美まで。あんたら、
自分でスパイって自白するスパイがいるの?
ユウランぐらいじゃなかったの?
「そうなんですよ。和也さん。
何か、国でもスパイが欲しいらしくて
今でもあるらしいのですが。
私たちにお願い事があるらしいのです。」
日向が話をまとめてくれた。
国を動かすだけでなく
国からお願いされる?
何なの?
もう、わけがわからない。
この小娘達。
何か、今の問題とリンクしていますが、あくまでフィクションです。