先行プレイ
学校は嫌いだ。行く意味が分からない。
凛花と同じといかなくとも、俺も試験の成績はいい方だ。独学で何とかなっている。それなのにだ、凛花は毎回今朝のように俺を脅してでも学校へ連れていく。
凛花は、生徒会長の俺の顔に泥を塗るのかぁ!?などと言っていたが、実際は将来のことも考えた上で無理やりにでも連れていこうとしてくれているのだろう。
だが、やはり学校は面倒だ。青春とか本当にどうでもいい。ゲームが出来ればそれでいい。
「なぁ、凛花。」
未だに俺の足を引きずって強引に学校までの道を歩む凛花に声をかけた。
「なんだ?駄々こねても帰してやらないぞ。」
凛花はこちらに見向きもせずただ前をみて俺を引きずり続けた。
「痛いんだ。もうさすがに何言っても帰してもらえないのは分かってるから引きずるのをやめて欲しい。毎回虐められてるのか?と心配されるくらいに制服が汚れるんだ。それに痛い。」
大事なことなので痛いという事を2回も伝えてあげました。
凛花は歩けるなら最初から歩きやがれ!と怒っていましたが。
俺は立ち上がり制服を叩きながら、それを言う前にすぐに引きずりだしたのはあなたですよと。いつか、いつか言いたい。
「せめて、足じゃなく手を引っ張ってくれないか。なんで足を引っ張るんだよ。」
「手…手は…お前の手は汚いだろうからな!足にしてやってんだよ!」
足の方が汚いだろうに…何故だか、小さい声で文句をいう凛花。
「手を握るのが恥ずかしいとかじゃな…」
言い終わる前に咄嗟に俺は殺気を感じ上半身を右へとずらした。
「ちょ、弟を殺す気かよ?なんでそんな本気のパンチを弟に放てるかね!?」
俺の顔があった場所には凛花の左腕があった。
流石と言えるほどの身体の使い方であった。前を歩く凛花は俺の顔の位置に、右回りの半回転をし、その勢いを殺さずパンチを放ったのだ。
「避けてんじゃねえよ、サンドバック。」
謝る素振りなどなく、俺の身体は宙を舞い、顎に激痛が走った。
「がはぁぁあっ!?」
何が起きたか分からなかった。消えゆく意識の中見たのはパンチに出した左腕をひき、右足を蹴りあげ少し顔が赤い凛花であった。
「兎…だ……と?」
気づけば俺は自分の教室の自分の席にいた。
どうやら、凛花がまた連れてきたのだろう。制服を見る限り、汚れを叩いたあとの状態だったことから、引きずるということはして無いようだった。
それにしても兎か…いくつだよ……俺は最後の瞬間に見えた兎模様のパンツを思い出しながら俺は姉の趣味を疑うのであった。
なんとか面倒な午前の授業を乗り越え昼休み。
俺は人がいない屋上でいつも通り1人でご飯を食べていた。
すると、屋上の扉が空き凛花が現れた。
「おう、凜人ここに居たか。」
凛花はそういうなり俺の横に来ては座って、弁当を広げていた。恐らく何か用があるのだろう。
「クラスの奴に聞いたんだが、面白そうなゲームが始まるらしいぜ?」
そういうなり携帯を取り出し画面を見せてきた。
「新作のMMORPG?これのどこが面白そうなんだ?」
見せられた画面には詳しい詳細などなく、ただ一言、その世界の背景と共に自由度100%!!!と書かれているだけだった。
凛花は分かってないなと言わんばかりに
「自由度100%だぜ?色々調べたが、詳細にも、職業もスキルもどんな世界観かも書かれてないんだ。ただ完全に自由なゲームシステムってことだろ?成長も自分の行動次第でステータスとかスキルも変わってくるんじゃないかって色んな奴らが掲示板で話してる。ほら。」
凛花はそのやり取りが書かれてる掲示板サイトを見せてきた。
「確かに、でもこんな売り文句だけでユーザー増えるもんかね?せめてキャラクターとか、世界観とかだけでも書くべきだろ、プレイ画面とかさ。これじゃ全く興味がわかないと思うけど。というより、色々なMMOがある中でこれだけって…」
「だからだよ。こんな面白いゲームが溢れてる世の中で、大事なユーザーを獲得しなきゃ行けないのに、これだけ。逆に考えたらどんなもんか気にならないか!?」
凛花は目をキラキラさせながらグイッと俺に顔を近づけてきた。普段の魔王ぷりはどこえやら。ゲームの話をする時の凛花は本当に楽しそうだ。
でも、確かに凛花の言う通り、やるのは無料だし、プレイしてそのゲームの内容を知りたいなとも思い始めた。
「確かに、そうだね。そう考えると面白そうだ!サービス開始はいつからなの?」
「確か1ヶ月後の7月半ばに開始予定みたいだな。ん?先行プレイの抽選あるらしいぞ!!もう受け付けてるみたいだ!凜人!これ応募しよう!!!」
そういうなり凛花は自分の携帯と俺の携帯で手際よく先行プレイの抽選に応募したのだった。
「よし。もし片方落ちたら、当選した方の部屋で一緒にやってみようぜ!あーワクワクするなぁ!当たるといいな!じゃーな!」
気がつけば凛花は飯を食べ終えており、屋上の扉へと向かっていった。
抽選結果の発表の日がいつかは分からなかったが、1週間経った日に突然メールが届いた。
【橘 凜人様
先行プレイに当選しました。
7月1日の20時より先行プレイが可能となります。】
開いたメールにはたった3行しか書かれていなかった。いや、こんなもんなのか?初めて当選したから、よく分からないな。とりあえず凛花に聞いてみよう。
俺はとりあえずその日の夜凛花に当選したことを伝えた。
凛花はそのメールは届かなかったようだ。恐らく当選したのは俺だけだったようだ。
俺たちはその日を楽しみに待った。
遠足の前の気分と同じような気分だった。どんな内容のゲームなのだろう、どんなシステムなのだろう。レベル上げからまずやるか?ひとまずNPC(ゲーム内の無人キャラクター)にひたすら話しかけてクエストを受けるか?などと、2人でワイワイと話していた。
そしてそんな日々を過ごし、先行プレイが開始する日がやってきた。
時刻は19時50分 俺の部屋にて凛花と2人でスタート画面と時計を交互にみていた。
「楽しみだな!凜人!」
凛花はいつも以上に目がキラキラしていた。もし、犬のしっぽが着いていたなら、しっぽブンブンだったであろう。ちょっとそんな凛花を想像したら、にやけてしまっていたのか、あくびで誤魔化した。
「ふああ、そうだなぁー、早くやりたいね、とりあえずプレイしながら、凛花も気になることあったら教えて。色々試していこう!」
そうして、時刻は19時59分
もうすぐで開始される。
「よし、そろそろだな!くるぞー!!!速攻上級プレイヤーになってやろうぜ!!」
「さすがにそれは無理だろ…俺らよりゲームのセンスある奴なんて腐るほどいるんだもんな」
無理難題をさらっと言ってしまう凛花に苦笑いしてるうちにその瞬間はやってきた。
「20時だ!凜人!!!」
「分かってる!スタートだ!!!」
俺は20時になった瞬間にゲームスタートの所押した。
だが画面は真っ暗になるだけだった。
「「あれ?」」2人して顔を見合わせてからマウスなどを動かしてみたりしたが、その真っ暗なままだった。
まさかこのタイミングでパソコンが落ちたか?
そう思った瞬間だった。
パソコンの画面には見慣れない魔法陣のような図面が現れた。
「来たか!!!一瞬どうなるかと思ったんだが…なんだこれ…!?」
画面が変わったことで安堵していた凛花は言葉の途中で俺の部屋の異変に気づいた。
凛花に部屋を見ろと言われ、画面をずっとみていた俺は自分の部屋を見た。
するとそこには白く輝くパソコンの画面内にある魔法陣のようなものと同じものが部屋に出現していた。俺達が立ってる反対側の壁にだ。まるでパソコンに表示されている魔方陣と俺達を挟むかのように。
「凜人これはやばい気がする!離れろ!!!」
凛花はそういい、すぐさま俺をひっぱり部屋から出ようとするが…
「な…!!?」
画面の魔方陣と壁に現れた魔方陣の間でブラックホールのようなものが現れ、俺達だけを吸い込むかのように強力な力で引っ張られていく。
その強力な力で吸い込む空間に1番近かった俺は、抵抗しても無理だと判断し、助けてくれようとした凛花を突き飛ばした。
「凛花逃げろ!父さんと母さんに報告してくれ!」
俺は吸い込まれながら凛花にそう叫んだ。
頼むなんとか凛花は逃げてくれ。そう思って空間に全てが呑み込まれる瞬間
「ふざけんな!!!カッコつけてんじゃねえ!!」
凛花が空間に自ら入り込んできた。
そこで俺らの意識は無くなった。