【名声】「くそ、やっぱりだ! 奴らは神なんぞ信じちゃいない。己の保身と金だけだ。国が乱れることを喜んでいやがる」 ヒュームの神聖ヘルヴェティア王国辺境公 アレス
騒乱が十年戦争と呼ばれるようになる頃には、神聖ヘルヴェティア王国内に何名の傭兵がいるのか誰も把握出来なくなっていた。個人単位で戦地に赴く者たちもいれば、各地の領主の私兵団や、南方の商業都市お抱えの傭兵団もあった。果ては、乱暴者や荒くれ者たちが徒党を組み、傭兵団とは名ばかりの強盗団も生まれた。各地に点在し、さらにその規模と数を増やしていった。
彼らの目的は単純であった。己の利益を追求することのみである。だから彼らは占領地での略奪行為はもちろん、貴族や僧侶の誘拐に始まり、奴隷売買や、わざと敵と味方の両陣営に分かれ戦闘を長期化させて報酬を吊り上げる、という手口まで、何でもこなした。国の混沌は深まるばかりであった。
しかし、だからこそ、ノルス傭兵団の噂は広く国中に知れ渡っていった。
「奴らは略奪をしない」「奴らは奴隷をとらない」「奴らは決して仕事で手を抜かない」
対面する羽目になった傭兵団から、銭勘定すらできない「ナーマッド(北の蛮族ども)」だの、金銭ではなく相手の血を見ることが目的の「血に飢えた餓狼ども」だのと、そう呼ばれてしまうのは当然のことであった。そして、彼らと共に戦場を駆けた者たちが、自分たちの死をも恐れず勇敢に敵と戦う姿を見て「北の白狼たち」と半ば畏敬の念を込めて彼らを呼びだしたのも、当然のことであった。
そして、だからこそ、他の傭兵団には決して回ってこないような依頼も増えていった。戦の助成などよりも、遥かに大きく国の行く末を左右してしまうほどの依頼までも。
騒乱は今、三十年戦争と呼ばれるようになっていた。
バザラナたちの初陣からニ年と半年が経とうとしていた。