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ツイートなら書けるのに~今日は何の日短編集・3月21日~

作者: 白兎 扇一

今日は何の日短編集

→今日は何の日か調べて、短編小説を書く白兎扇一の企画。同人絵・同人小説大歓迎。


3月21日→ツイッターの誕生日


2006年(平成18年)のこの日、ウェブサービス「ツイッター」(Twitter)の一番最初の「ツイート」(つぶやき)が行われた。

祈り、働け

─どこかの修道会の掟


白兎 扇一 @WhiteRabbit1900


今日は何の日短編集、更新できません。


リツイート いいね


3回目になるその言葉を吐き出して数秒後、突っ伏した黒いテーブルの上に温かい雫が落ちた。鼻が詰まっていく。未だに進まない白紙のメモ帳を見ると、尚更その動きは加速した。


─ツイートなら書けるのにな。


何度目かすら覚えていない言葉を心の中で吐露する。


最近、小説が書けなくなった。文章が書けなくなったわけではない。哲学記事の方は極めて順調だ。いや、そっちが順調だからこそ尚更書けないと言った方がいいかもしれない。


どういうことか、今から綴っていこうと思う。


私は今までずっと「今日は何の日短編集」という企画をやってきた。ざっと説明するなら、今日は何の日か調べてそれに基づいて短編を書くというものだ。


「今日は何の日か調べて書いてみるっていうのはどう?」


きっかけはこういった創作アドバイス系のツイートを見たことだった。小説を5年ほど書いてきたものの受験でブランクが空いた私が飛びつくのはそこから間もないことだった。


はじめはきっちりやっていた。謝恩会の時まで合間を見つけて投稿した。23時まで粘って書き続けて、次の日はフラフラになって立ち向かったこともある。その時ばかりは、何故作家は短命なのかという問いの答えが判明した気がした。


運が良かったのだろう。1週間ほど経つとファンと言ってくれる人が出てきた。わざわざその人はツイートだけでなくDMまで送ってきて、励ましてくれた。この時まではやっている意味があると思っていた。卒業して入学までに間がある退屈な春休みに気晴らしが突然現れたのだ。


”10人居たら2人は好いてくれる、2人は嫌ってくる、6人はどうでもいいと思っている“

ツイッターで聞いた言葉だ。誰のアカウントだったか、いつ流されたかはネットの波と時の狭間によってもはや分からない。だが、この言葉だけは記憶に残っている。


”だから好いてくれる少数の人を大切にしなさい“


つまりはそう言いたいのだと思う。最初はこの言葉になるほどと思っていた。だが、心の底では満足できなかった。もっと多くの人々に認めて欲しかったのだ。私が二桁になるかならないかのいいねで喜んでいる間、何万ものいいねをもらっている人がいる。才能の違い。それを認めたくないがために、”継続は力なり“という言葉で押し込めて書いていたのかもしれない。


そんな時だ。知人から哲学者の記事を書いてみないかという誘いがきたのは。私は資料の山に埋もれて書き始めた。最初は短編集と並行でやっていたが、次第に追いつかなくなった。苦渋の決断で、私はツイッターを開いた。


白兎 扇一 @WhiteRabbit1900


今日は書けません。


リツイート いいね


すぐに返信が返ってきた。


「義務じゃないんだから、毎日やらなくていいよ」


驚きの反応だった。見損なった、そう返されると思っていたのだ。いや、それを期待していた。この言葉のおかげで、私は歯止めを失った。そうか。私はあんなに躍起になってやらんでもよかったのか。肩の荷が下りて哲学の記事を書いた。


哲学の記事は大きな反響となった。いいねとリツイートの数は知人の人脈と人気のおかげだろうけれども。驚くべきことに、憧れの作家さんからコメントをいただいたのだ。


“新たな才能”と。


フォローされています。その文字を目にした時から私は大きく変わった。何気ないツイートすら、二桁いくようになった。


あぁ、よかった。私もある程度認められるようになったんだ。


さぁ、小説を書こう。そう思ったその時だ。


書けなくなった。進まなくなったのだ。いつもならあっという間に埋まる2行3行も何十分もかかる。腕に鉛を吊されて、鎖を巻き付けられているかのようだ。


アイデアも出てこない。設定は出てくるものの、物語にならないのだ。

キャラは思いついても動いてくれない。答えてくれないのだ。


─ツイートなら書けるのに。


アイパッドを殴る。次の瞬間、私の耳に誰とも分からない低い声が響いてきた。


「君は進むべき道を間違ったんじゃないかい、“新たな才能”さん」と。


─そんなはずはない。


そう答えると、ソイツは返してくる。


「だーよねー。やっぱりそう言うよねー。そりゃそうだよね。5年もやってた小説が評価されないのに、2年ちょいしかやってない哲学の方が一気に評価されたんだもん。君、あからさまに哲学記事の方が向いてたんじゃないの?」


─そんなはずはない。


「いやいやそうだって。悪いけどさ、君努力と徒労を履き違えてたんじゃない?君の小説はね、足の下にでっかい石を置いて、それを石から降りずに持ち上げようとすることと一緒だったんだよ。徒労だったの。お疲れ様」


─そんなはずはない。


「否定したくなるよねー。あんなに必死にやってたことが無駄になってたんだもん。でもさ、いい区切りになったんじゃない?だって今、君─」


書けなくなってるでしょ。


私はその台詞に、いよいよ言葉を詰まらせた。その通りだ。進んでいない。メモ帳は白紙のままだ。


─一旦、休戦しよう。


私はメモ帳を閉じ、アイパッドの電源を消した。親に頼まれた物を買うために外に出た。時間は17時を回っていたが、日が長くなったもんだから、まだ空は暗くならない。

空には羽ペンの形をした雲が浮かんでいた。形といいタイミングといい、まるで私に書け、書けと急かすようだ。


─悪い、まだいるか?


「よぉ、どうした?」


─最後まで足掻かせてくれないか。


「それってまだ小説を書くってこと?咲かない花に水やっても意味ないと思うよ?」


─うるせぇな。咲かないのと、咲けないのは別だ。それに哲学記事の方も今だけの咲いている花かもしれない。だから、私は最後まで両方を確かめたい。咲かない花か、咲けない花か、都会の花か、大輪の花かを。


そう返すと、声は消えた。横開きのドアを開ける。荷物を台所に置いて、リビングに置いたアイパッドへ向かう。メモ帳に私は一気呵成に書き始める。何を?今の私の状況だ。書いておくしかない。


「こんなもんかな」

アイパッドから顔をあげた時、その言葉が漏れた。語彙の足りない文章。どこかで見たような比喩表現。転も結もない平坦な話。”こんなもん“という言葉でしか片付けられなかった。


窓を見上げる。黒くなった空にはあの白い羽ペン雲が残っていた。いつものサイトに書き込む。次にツイッターを開く。白い鳥と青い画面が消えて、私は打ち込んでいった。|


白兎 扇一 @WhiteRabbit1900


お久しぶりです。本日は3月21日、ツイッターの日です。

『ツイートなら書けるのに』という話を書きました。

よろしくお願いします。


リツイート いいね




ご閲覧ありがとうございます。

そして、更新できなくてすみません。

これからも拙いながら、愚直に書いていきます。


追記


今回は暗い私小説でしたが、そこに出てきた方々に関して恨みはありません。全て、自分の力量不足が原因です。これからもたゆまず努力していきます。

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