第七十話 中華民国 その14
はい、前回の続きを話します。
中華民国が朝鮮半島を経由して日本製戦車チハを密輸していることは、ソ連はしばらくして気づきました。
しかし、ソ連政府は日本政府に対して何も抗議はしませんでした。
なぜなら、ソ連は日本と本格的に対立をするつもりはなかったからです。
ソ連が中国共産党に対して軍事援助をしているのは公然の秘密になっていましたが、日本政府はそれに対して何もコメントはしていませんでした。
日本政府もソ連政府もお互いが直接は対立しないことを「暗黙の了解」として中国大陸における勢力争いをしていたのでした。
日本は中国国民党を支援し、ソ連は中国共産党を支援して、代理戦争をしていたと言えるでしょう。
日本もソ連も中国大陸における戦争が自分たちのコントロール下におけるようにしていました。
その方法の一つが「航空機供与の制限」でした。
中国共産党はソ連に航空機の供与を求めましたが、ソ連は少数の軽爆撃機しか供与しませんでした。
ソ連はその理由として「中国国内では多数の航空機が運用可能なインフラが整備されていない」と中国共産党に説明しました。
中国共産党軍は少数の軽爆撃機を主に偵察機に使用しました。
日本も中国国民党に対しては朝鮮半島を経由して「小型民間輸送機」を供与しました。
理由は「軍用機の輸出はできない」と中国国民党には説明しました。
中国国民党軍も少数の小型輸送機を主に偵察機に使用しました。
そのため中国大陸における戦場は奇妙な状況になりました。
空襲を受ける可能性はほとんど無いのです。
天敵である航空機が少数なため中国大陸では戦車がまさしく「陸の王者」として君臨しました。
中国大陸におけるチハ戦車とT34戦車の戦闘は、同数ならば性能差からT34が勝利しました。
しかし、それで共産党軍が一気に優勢になるということはありませんでした。
朝鮮半島で製造されるのを密輸していたため、数ではチハ戦車の方が勝っていました。
それに対してT34戦車はチハ戦車と比較して供与は少数でした。
これはソ連の最高指導者スターリンの猜疑心も関係しています。
スターリンが第一の仮想敵国としていたのはドイツで、T34は自国への配備を優勢していました。
自国へのT34の配備数が減ると、それを弱点と見られてドイツに攻め込まれることをスターリンは常に恐れていました。
中国大陸における共産勢力の拡大を目標とはしていても、スターリンは自国の領土の保全が最優先目標でした。
それは、どこの国家指導者でも最優先のことでしょうから、スターリンが特異だということではないでしょう。
続きは次回に話します。
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