第六十六話 中華民国 その10
はい、前回の続きを話します。
元中華民国人でもあったSは、出身国である中華民国にも情報を売っていました。
Sは二重スパイどころか三重スパイだったのでした。
さて、Sの祖国である中華民国について話します。
当時の中国は蒋介石が率いる国民党が一応の中央政府でした。
ですが、地方には軍閥が乱立し中央政府に面従腹背している軍閥も多かったのです。
その一つが毛沢東が率いる中国共産党でした。
スターリンが指導者であるソ連が中国共産党を密かに援助していました。
第二次世界大戦におけるソ連は、一般には「戦争に参戦せずに自国に引きこもっていた」という印象を持たれています。
確かに第二次世界大戦には参戦していませんが、自国の勢力圏を広げることをやめてはいませんでした。
スターリンが当面の勢力拡大のターゲットとしたのが中国大陸でした。
ヨーロッパ方面は勢力拡大のターゲットとしては後回しにする方針でした。
なぜなら、ドイツの経済力・軍事力が強大であり、ドイツがイギリスとの戦争で弱体化した場合に攻め込む方針でした。
最初は、スターリンは毛沢東のことをあまり高く評価はしていませんでした。
ソ連のマルクス・レーニン理論によれば共産革命は都市労働者を中心にして起きるとされています。
しかし、毛沢東は農村を中心に中国に共産革命を起こそうとしていました。
ソ連の共産主義理論には反するので、毛沢東のことは評価していなかったのでした。
しかし、当時の中国では近代化した都市はまだ少なく、中国共産党が勢力圏としていたのは辺境の農村地帯でした。
農村を中心とした共産革命を起こすのが、当時の中国では現実的なので、スターリンは毛沢東を中国共産党の指導者として認めました。
ソ連が中国共産党にした援助は軍事援助が主でした。
ソ連製の兵器を供与し、それの使用法を指導するためのソ連軍の軍事顧問を派遣しました。
供与した兵器は小銃や機関銃が主で、戦車などの装甲戦闘車両は少数でした。
中国共産党には戦車を整備するだけの技術力がないのが、表向きの理由でした。
本当の理由は中国共産党の軍事力をソ連の制御下に置くためでした。
供与した戦車の戦車兵も整備兵もソ連が派遣した軍事顧問団の団員で、中国共産党には戦車の操縦も整備も一切教えませんでした。
もし、中国共産党がソ連軍事顧問団に反乱を起こそうとしても、まともな対戦車兵器がないので簡単に鎮圧できると考えていました。
続きは次回に話します。
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