第五十七話 中華民国 その1
はい、前回の終わりに言った通り中華民国について話します。
中華民国は、れっきとした合衆国の軍事同盟国でありながら第二次世界大戦を題材とした小説や映画ではあまり取り上げられることはありません。
ドイツのフランスに対する機甲師団による電撃戦。
日本によるハワイ攻略と空母と戦艦による大海戦。
北米大陸を舞台にした南部連合国と合衆国の激戦。
などの映像的に見映えして、物語として面白い他の戦線にくらべると中華民国は地味に感じるからでしょう。
しかし、中華民国との戦いは日本にとって重要でした。
日本が大陸に持つ利権を中華民国から守り抜かなければなりませんでした。
合衆国は中華民国を日本に軍事的に対抗できる国にしようと第二次世界大戦前に様々な援助をしていました。
合衆国が目標としたのは中華民国陸軍の近代化でした。
海軍は援助をしても日本海軍に対抗できるようになるまで時間も費用も掛かり過ぎると判断されたので、陸軍の近代化の支援を優先しました。
最初は、露骨な軍事支援でなく小銃やトラックを製造する工場を合衆国の民間企業が中華民国国内に建設することから始めました。
中華民国政府は大陸に乱立する多数の軍閥を傘下にしていましたが、中央政府の命令に面従腹背する軍閥も多く、都会から離れた地方では治安が悪く、地方の農村では農民が自衛のために武装しているのが当たり前で、小銃の民間への需要は大きかったのです。
トラックは民需目的もありますが、中華民国陸軍の歩兵部隊を自動車化するのが主な目的でした。
段々と強力になる中華民国陸軍に対して、中華民国政府も合衆国政府も日本陸軍が「予防攻撃」をしてくるかと警戒していましたが、日本政府は大陸における陸軍の警戒レベルを少し上げただけでした。
境界線で中華民国陸軍と日本陸軍の部隊が接触して、小規模な紛争が何度か発生しましたが、日本政府の介入により、早期に鎮火しています。
合衆国政府は、日本政府の目を気にしながらも遂には中華民国国内に戦車や軍用機の製造工場まで建設しました。
日本陸軍による先制攻撃も覚悟しましたが、日本政府は外交で抗議文書を送るだけで、具体的には何もしませんでした。
第二次世界大戦の開戦劈頭、日本海軍がハワイ攻略をした時、当然、合衆国政府は中華民国陸軍が中国大陸の日本陸軍を攻撃してくれることを期待しました。
しかし、中華民国政府が合衆国の支援により増強された陸軍を向けた先は、自らの傘下にあるはずの軍閥に対してでした。
続きは次回に話します。
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