第四十三話 南部連合国対合衆国 その12
はい、前回の続きを話します。
合衆国に住む日系人の財産を没収して強制収容所に入れるという計画は、合衆国政府内部で実際に進められていました。
しかし、意外なことに検討段階で中止になっていました。
その理由は合衆国における日系人のコミュニティは意外に小さかったからです。
日本は明治時代から南北アメリカ大陸に移民を送り出し、合衆国も主要な移民先の一つでした。
合衆国での人種差別は厳しかったですが、海外における日本人のあつかいはどこの国でも似たようなものだったので、移民した日系人はそれに耐えました。
状況が変わったのは、南部連合国が奴隷制度を廃止し、人種差別を公式に撤廃した頃からでした。
南部連合国は合衆国に対抗するための国力増強のため、移民を積極的に受け入れていました。
欧州からの移民が多かったのですが、人種差別撤廃後は、日本などアジアからの移民も増加しました。
公式に南部連合国で人種差別が撤廃されても、個人レベルでの差別は根強かったのですが、合衆国にくらべれば天国のように思えたのも事実でした。
日本から北米大陸に向かう移民はほとんどが南部連合国を目指すことになり、合衆国から南部連合国に再移民する日系人もいました。
そのため合衆国における日系人のコミュニティは小さく、強制収容所は必要ないと判断されたのでした。
南部連合国は合衆国に向けたラジオ放送でこのように非難しました。
「実行はされなかったが、合衆国国籍を有する国民を敵国と血縁があるということで、強制収容しようとすることは、自由と人権を守る民主主義国家では許されない!」
もちろん、日本も非難しました。
意外なことは合衆国内部でも連邦議会の野党議員を中心に現政権に対する非難がされました。
それには次のような裏事情がありました。
南部連合国との開戦当初は合衆国政界では戦争の行方を楽観していました。
南部連合国を再併合し、統一されたアメリカ合衆国での戦後の利権争いを早くも考え始めていたのでした。
南部連合国を再併合した功績は現在の大統領のものになってしまうので、少しでも失点させることで、戦後に行われる大統領選挙に自分達の陣営が有利になるようにしようとしたのでした。
もちろん、彼らはそのようなことは表には出さずに「自由と人権」を表看板にしました。
さて、合衆国に住む日系人は激しい不安に襲われました。
国外への脱出も考えましたが、戦争中で困難でした。
そんな彼らに意外なところから救いの手が差しのべられました。
休戦中のイギリス政府でした。
続きは次回に話します。
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