第三十五話 南部連合国対合衆国 その4
はい、前回の続きを話します。
合衆国陸軍はM4シャーマン戦車の大量生産による「数の力」で南部連合国を下そうとしていました。
多数の戦車を配備するのは戦略的に正しいのですが、M4シャーマン戦車の大量生産を決定したのはいささか生臭い政治的な理由があります。
当たり前のことですが、合衆国は民主主義国家であり、議員は一般市民による投票で選出されます。
陸軍を支持する議員の支持基盤は戦闘車両を生産する工場がある州で、海軍を支持する議員の支持基盤は造船施設がある州になります。
造船施設は沿岸部にしか造れませんが、車両工場なら内陸部にいくらでも造れます。
陸軍は戦争に備えて車両工場を内陸の州に新設することで支持基盤を拡げていました。
サイズさえ合えば、ガソリンエンジンでもディーゼルエンジンでもトラック用エンジンでも航空機用エンジンでも動くシャーマン戦車はたいていの工場で関連部品を製造することができ、小さな工場でも下請けとして製造を請け負うことができたのです。
こうして陸軍は支持基盤を拡げていきました。
第二次世界大戦開戦初頭、合衆国は日本・ドイツから宣戦布告を受けましたが、南部連合国は中立を宣言しました。
確実な未来である対南部連合との戦いとイギリス・フランスへの供与向けにシャーマン戦車はさらに増産されました。
それで一つ問題が起きました。
イギリス・フランスへの供与向けに生産されていたシャーマン戦車が、イギリスが休戦・フランスが降伏してしまったので行き場を失ってしまったのです。
合衆国陸軍ではシャーマン戦車の引き取りが間に合わず。工場の周りの空き地に多数のシャーマン戦車が放置されるという事態が起こりました。
これを問題視したのが合衆国海軍でした。「陸軍は必要のない戦車を利益誘導のために生産し予算を無駄遣いしている」と指摘したのでした。
それに陸軍は「海軍がハワイで敗北したからこそ、西海岸防衛のために大量の戦車が必要だ」と反論しました。
それに対して海軍は「敵が上陸してからでなくては役に立たない戦車よりも、艦艇と海軍用航空機に予算を割くべきだ」と反論しました。
合衆国陸軍も海軍も交戦中の敵国より、お互いに国内の政治的優位を得ることを優先しているような状況でした。
しかし、どちらも予想していなかった集団により、合衆国は南部連合国との開戦の火蓋を切ることになります。
それは合衆国陸軍航空隊で少数派である戦略爆撃主義者でした。
続きは次回に話します。
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