第十六話 日本対合衆国 その1
はい、早速、前回の続きを話させていただきます。
前回の終わりに合衆国の陸軍と海軍の仮想敵国が違うことが問題を引き起こすことがあると話しましたが、それを具体的に話します。
合衆国陸軍の仮想敵国は南部連合国であり、合衆国海軍の仮想敵国は日本でした。
アメリカ南北戦争以後、アメリカは南北の分断国家となり、合衆国は軍事的には武力による南部連合国の再併合と南部連合国の奇襲に備えて、陸軍を整備するのは合衆国の一般市民にも理解を得られやすいことでした。
しかし、海軍の整備については一般市民の理解は得にくかったのです。
合衆国に対して貧弱な海軍しか持たない南部連合国に対して合衆国海軍が巨大な戦艦や空母を何隻も持つことは、「税金の無駄遣い」と新聞に書かれることもありました。
それで合衆国海軍は日本を仮想敵国にしたのでした。
ハワイ・フィリピンなどの海外領土の防衛のために海軍の増強が必要と世論に訴え、日本が南部連合国と同盟を結んでからは、合衆国西海岸の防衛のために海軍の増強が必要と主張しました。
こうして合衆国海軍は戦艦や空母を保有する予算を得ました。
もちろん、軍事予算は有限です。
合衆国陸軍と海軍は限られた軍事予算をめぐって激しく対立することになりました。
陸軍と海軍が対立することは、どこの国でも多かれ少なかれあることなのですが、合衆国で対立が激しくなったのは航空戦力についてでした。
合衆国では陸軍と海軍で別々に航空隊を持つことになりました。
陸軍は南部連合国領土に対しての爆撃を主な任務とし、海軍は空母艦載機による日本本土空襲を最終目標としていました。
最初の頃は、陸軍は陸上を行動する航空機を求め、海軍は洋上で行動する航空機を求めたので、お互いの機体は異なっていました。
しかし、航空技術の進歩により、長大な航続距離を飛行可能な大型爆撃機が開発されると話が違ってきます。
大型爆撃機を陸軍と海軍のどちらの管轄とするかで激しく対立したのでした。
陸軍は「南部連合国爆撃のために大型爆撃機は陸軍の管轄とするべきだ」と主張し、海軍は「広大な太平洋での洋上哨戒のために海軍こそ大型爆撃機が必要」と主張しました。
陸軍と海軍両方で大型爆撃機を保有する案もありましたが、ここで話が複雑になりました。
陸軍の小型機による急降下爆撃機を重視する派閥は大型爆撃機をむしろ邪魔に感じていましたし、海軍の空母重視派は大型爆撃機で空母の価値が下がるのを怖れていました。
この二つの派閥が合衆国の航空戦力の整備に大きな影響を与えることになりました。
お時間です。
また、お会いしましょう。
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