【ご注文はネタですか?喫茶店と化け物】
前回の続きです。
今回は少し作者の趣味が出ていますが、気にせずにお楽しみください。
次の朝、案の定茜里にこっぴどく怒られた俺は、昨夜水瀬さんと約束した喫茶店へ
お詫びも兼ねて茜里と二人で向かっていた。
途中、流侍達のデート現場を見つけたので少し茶化してから目的地へ向かった。
待ち合わせ場所の喫茶店『Arden』はレトロな雰囲気の昔ながらの喫茶店で、
知る人ぞ知る隠れた名店なんだとか、おススメはお店のマスターオリジナル
ブレンドの珈琲とパンケーキのセットらしい。
大通りから外れ、裏の道へ入る。
迷路のように入り組んだ複雑な道を道なりに進む。
そうすると、少し開けた通りに出る。そこの左端から2番目の店が、
待ち合わせ場所の喫茶店だ。
外に掛けてある看板には『Arden』と書かれている。よし、ここで合っているな。
年季を感じる木製の扉を開けて中へ入る。
カラカランッ
「...いらっしゃいませ。」
「お、来たねぇ。」
呼び鈴の後、店内のカウンターの方から声がかかる。
そちらに目を向けると、水瀬さんがこちらに手招きをしていた。
「ほら二人共、こっちこっち。」
「は、はぁ...。」
「はーい。」
招かれるままカウンター席に腰かける。
「マスター、彼に珈琲を。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
コーヒーミルから挽いた豆を取り出し、ペーパーフィルターの中にいれる。
それをサーバーにセットし、上から中心へ円を描く様に
お湯を少し注ぎ、豆を蒸らす。
豆が膨らんだら少しずつお湯を注ぎ入れながら
じっくり、ゆっくりと珈琲を淹れていく。
傍から見ても素晴らしい手際としか言えないほど、
繊細で、きめ細かな美しい所業だ。
「....で、霧本君。見とれてるとこ悪いけど、話を始めていいかい?」
「.........っ!あ、あぁ、はい。始めてください。」
「茜里ちゃんは怖くなったら耳を塞いでね?」
「わ、分かりました....。」
水瀬さんの話をまとめると、こうだ。
近頃発生している女性の大量殺人事件、仮に『平成の切り裂きジャック』としておこう。
それの第一被害者の発見場所とそこの詳細な状況だ。
被害者の名前は『三井翔歌』さん。
年齢は二十、隣町にある大学に通っている二年生だった。
翔歌さんはその日、大学のサークルの用事で帰りが遅くなると
家族に電話していたらしい。
深夜0時を過ぎても帰ってこない彼女を不審に思った母親が
警察に連絡して事件が発覚した。
通報から5時間後の午前5時、彼女が遺体で発見された。
発見場所は大学近くの公園に隣接した雑木林の中。
下半身が丸出しの状態で発見された。
腹部は切り刻まれており、内臓やら何やらがぐちゃぐちゃの状態だった。
遺体のすぐそばには、何故か男性の遺体もあったらしい。
首を鋭利な刃物で両断された。さらに性器が丸出しな状態だったため、
当方は男性が被害者の女性に性的暴行を加えていたものと判断している。
殺害の凶器は、男性の首を刎ねた刃物と同じものと判断し、
現在付近を捜索中だそうだ。
「....随分と、面白そうな事件ですね。」
「...ハァ......そんなこと言うのは君くらいだよ。」
「それにしても...この状況はおかしいですよね?」
「この状況?」
「えぇ、この状況。何故この場に男性の死体があるのか、
そこが理解できないんですよ。」
「まぁ、確かに他の事件と比べたらおかしいと思うけど......。」
「...この状況下から考えられる目的、犯人の思惑は.......。」
口元に指を沿え、目を瞑る。
現場の状況、情景、犯行時の風景などを頭の中で構築していく。
そして、そこで起こりうる犯行の光景、選択肢を増やし、絞り込んでいく。
「.............。」
「...茜里ちゃん。」
「何ですか?」
「これ、何時まで続くと思う?」
「さぁ?分かりませんよ。...ん~!パンケーキ、フワフワで美味しいィ~!」
「....お口にあったようで何よりです。」
「ん~!珈琲もいい香りィ~!マスターさん、このブレンドいいですねぇ!」
「気に入っていただけたのなら良かったです。」
「マスター、珈琲お代わりいただけるかい?」
「かしこまりました。」
___数分後___
暫くの間俯いていた顔を上げ、とっくに冷めてしまった珈琲を一口。
何とか落ち着かせた声で、ぼそりと呟く。
「...見えない.....。」
「お、考え事は終わったみたいだね。で、何かわかったの?」
「...ダメです。何も見えないんです。」
「見えない?解決への糸口とかが?」
「はい。道筋が見えないんです。この犯人の思っていること、
何のために殺人を起こしたか、目的は何なんだとか、全く理解できないんです。」
「...そっか、君にそこまで言わせる犯人は相当なものなんだね。」
「.....すみません。力になれなくって...。」
「良いんだよ。とりあえずは警察の方で調査をするから、
また気が向いたらまた協力してよ。」
にこやかに返してくれる水瀬さんに、こちらもつられるように笑顔になる。
「はい、わかりました。今日はこれで失礼します。」
「うん。気を付けて帰るんだよ。茜里ちゃんもまたね。」
「はーい!またいつかぁ~。」
喫茶店から出た俺と茜里は事件が起こったという公園の雑木林に来ていた。
その場所にはいまだに凄惨な事件の爪痕が残されていた。
「ッ.....茜里、怖いなら俺の服掴んどけ。」
「....う、うん.....。」
しっかし、ひどい有様だ。いくらキープアウトのテープが貼ってあったっても
これじゃあ丸わかりだ。木とかに血がべっとりと付いている。
「こりゃあ...分かんねぇはずだ。」
「...な、何がぁ....?」
「....まるで化け物に襲われた後みてぇな有様だからさ。」
こんな状況、到底人間には作り出せない。
凶悪な殺人犯が何人も集まっての犯行なら可能性は微かに残るかもしれないが、
手口を見る限り犯人は一個人だ。集団的な犯行は98%あり得ない。
それに凶器はナイフだ。見せてもらった遺体の写真と、
この状況を照らし合わせたなら凶器はナイフ。それもかなり小型だと推測できる。
まず一発で人の首を刎ねるなんて並みの軍人でも不可能だ。
遺体の状態からして首を切り離した一撃は背後から、それも一発だ。
犯人はどんな筋肉モリモリマッチョマンの変態なのか....。
おっと、思考が変な方向に向いていたようだ。
急いで方向修正しないと.....。
「...茜里、帰ろうか。」
「...うん。帰りたい。」
「よし、帰りにプリンでも買っていくか?」
「うん!今日はチョコがいい!」
「了解。チョコレートね。」
「夕飯は鍋にしようよ!」
「鍋か...プリンついでに材料も買ってくか。」
「やった~!」
夕暮れに二人で歩く茂達の後ろ。暗い路地の奥で一人ほくそ笑む青年がいた。
「...さぁ。楽しい楽しいお遊戯の始まりだ!」
酷く残酷な彼の声は、人だけでなく動物すら遠ざかるほどの悍ましさがあった。
「...それでは探偵さん?ちゃんと俺を捕まえろよ?」
『霧本茂』と『四羽竜也』の邂逅まで……あと5日。
次回もお楽しみに。




