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7. 最初の一歩

ヴェルミローネ視点です。

大霧が晴れるまでの間、何も出来ない余達は、雑談をしながら暇をつぶしていた。

外では、エンペラースライムが異空間の壁へとひたすら攻撃を繰り返していた。


「しかし、異空間というのは、とてつもないな・・・。」

「エンペラースライムの知能が低かったので何とかなっているだけですよ、もし最強と呼ばれる方々だったら破られていたでしょう。」


ブランシュの言う通り、エンペラースライムの高火力と思われる攻撃は、微かではあるが空間を挟んだこちら側まで振動が伝わって来ていた。

もし、知恵を持っていたならば破られていたかもしれない。

ブランシュが持っている強化薬と言う代物は、確かに諸刃の剣の様だが、それ以上に下位の獣人の体で制御しているのだから相当な技量と精神力を有しておると言える。

しかし、能力を手に入れた過程といい、ブランシュは、少し無理が過ぎるのではないかと心配になったほどだ。

話を聞いていた余をブランシュが慌てて止める

ふと思いだしたが余は、スライムに服を溶かされ裸だった。

ま、魔王の娘は、裸を見られたくらいで動じない!!


「後2日も飲まず食わずか・・・」グ~~~


ブランシュは、少し悩む素振りを見せていた。


「気にするな、これは余が招いた事、其方にも迷惑をかけてしまったな。」

「ミローネ様、少し待っていてもらってもよろしいですか?」

「それは、良いがどうしたのだ?」


余が小首を傾げて、待っていると何やら腰に着けていた布袋の中を探っていた。

そして、何やら取り出して渡して来た。

見ると木の葉で包まれた穀物を丸めた物だった。


「温かい! 何なのだ、これは?」

「オニギリと言って持ち運びに適した食べ物ですよ。 それとこれもどうぞ。」


瓶に入った少し色の付いた水だった。


「この水は、何なのだ? それとその袋は?」

「この水は、お茶と言ってオニギリに合う飲み物です。 この袋は、空間布袋アイテムボックスと言って、物を楽に荷物を持ち運び出来る様にと開発した物です。」


どうやらブランシュの袋には、仕掛けがあり、他にも色々と入っている様だ。

魔王城ですらそのような便利な物は、無いと言うのにブランシュには、驚かされてばかりだ。


しかし、この穀物を丸めた食べ物はなかなか良い。

手軽に食べられる上に中に色々な具が入っており、飽きが来ないのだ。

外側も葉物野菜や海藻、薄く調理したモノ等で包み、食を楽しませてくれる。

これほど余を楽しませてくれる者は、他にはいないだろう。

何としでも仲間にしなくてはならないと心の中で決意する。




洞窟の中で昼夜は分からず、体感的に時間しか分らないが変化が起きた。

異空間の外側の霧が次第に晴れて行く。


エンペラースライムも洞窟の奥の方へと姿を消した。

ブランシュが気を緩めると止まっていた空気の流れを感じる事が出来た。

おそらく異空間が解けたのだろう。

ブランシュの顔色は、あまり良くなく、恐らくは、異空間の維持に相当な力を消費したのだろう。

そんな状態で後は、大丈夫と言わんばかりに力ない笑顔を向ける。


「後は、ファルが来ると思うので」


と言い残し、そのまま眠りについていた。

念の為、ブランシュを守る様に抱き寄せ、警戒しながらも今後について考える事にした。




数時間が立っただろうか?

遠くから声が聞こえてくる気がしたので耳を澄ます。

あれは、ファルの声だと気づき、助かったと安堵する。


「・・・お兄ちゃん~、お姉ちゃん~、大丈夫~?」

「余は、ここだ~! ブランシュも無事だ~!」

「見つけた! パパ~、ママ~、お兄ちゃんとお姉ちゃんいたよ~!」

「ミローネ様、ご無事でしたか~! 肝を冷やしましたぞ~!」

「うむ、心配をかけた~。」


聞こえる声に余が答えるとファルが走って来ていた。


「わ~! お兄ちゃんとお姉ちゃんがすっぽんぽんでくっついてる! 私も混ざりたい~♪」

「何だと!? すぐ行く!!」 ドカン!


余達が遊んでいるとでも思ったのかファルが服を脱ぎだし、シローが全力疾走をしようとした瞬間、アーカが殴り飛ばされていた。

何事も無かったかの様にアーカが近づき、嬉しそうに言った。


「まぁまぁ、今夜は御赤飯ですね♪ ついにお義母さんと呼ばれる日が来たのね。」

「誤解なのだ! これは、スライムに服を溶かされてだな! と言うかお赤飯とは何なのだ!?」

「大丈夫ですよ、誰にも言いませんから♪」

「キャッキャ、ワイワイ♪」


この親子に何を言ってもダメだろうなと思い、とりあえずブランシュを安全な所に運ぶ事にした。




ブランシュの家へ着き、ブランシュベットに寝かせ、余が看病を買って出た。

時折、背後から視線を感じ振り返るとアーカとシローが部屋の入口でニヤニヤと様子を覗っていた。

動揺するも余に責任でブランシュがこの様になった為、必死に耐えて看病を続ける。

あれから丸一日たっただろうか、ブランシュが目覚めた!


「・・・おはようございます」

「おお、気が付いたか!」

「無事、見つけてもらえた様ですね。」

「うむ、今回は、余の軽率な行動で其方に迷惑をかけてしまった。 許してくれ。」

「良いですよ。」

「それでだ、余は考えたのだ。 今度の事で余の不甲斐なさを痛感した。 そこで人里へ出て、見聞を広めようと思っておる。」

「少し見ない間に立派になられましたな!」


シローが涙を流しながら言った。


「うむ、そこでブランシュよ、今回の件で其方の事が余には、どうしても必要な人材だと再認識させられた。 ついて来てはくれぬか?」

「お断りします。 …と言いたい所ですが仕方ないですね。」

「ついてきてくれるのか!?」

「お兄ちゃん優しい~!」

「夫として当然よね♪」

「夫?」

「な、何でもないのだ!」


出発はブランシュの体調が戻ってからと言う事になったのでその間に準備を済ませておく。

と言っても余の服はあのスライムに溶かされ、余の力なら装備は、そこまでいらないが流石に着るモノが無いと困る。

そこで今はファルの服を何着か譲ってくれたのだ。

胸のあたりが少し苦しく思っていたがアーカが直してくれた。




ブランシュの体調も戻り、準備も済ませたので出発の日を迎えた。

家の前では、アーカとシロー、ファルが見送ってくれている。


「では、行きましょうか?」

「うむ、行って来る!」

「御気を付けて!」

「ミローネ様をしっかり守るのだぞ!」

「お兄ちゃん、お土産よろしくね~♪」


余達は、最初の一歩を踏み出した。


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