4. 死守と餌付け
ブランシュ視点です。
ファルの熱い眼差しに負け、少女を家で介抱する事になった。
幸い、大した病気でない事は、分かって居たので少女が目を覚ますまで野菜や果物の汁を混ぜた飲み物を口に入れたり、体を拭いて上げたりとファルと2人で様子を見ていた。
あれから丸一日、少女は、やっと目を覚まし、感謝の言葉と共に厄介事を持ち込んで来たのだ。
僕は、この平穏な生活を守る事を優先する。
「そこで頼みがあるのじゃ、余と一緒に魔王領土再建を手伝ってはくれぬか?」
「お断りします。」
まさか断られるとは思っていなかったヴェルミローネ様は、あたふたしていたが我に返り、威厳を保つために力強く交渉して来る。
「ちゃんと報酬なら出す! 再建を成功したあかつきには、余の右腕として迎えるつもりだ!」
などと言っていたけど家族、実家を失い仲間もいないヴェルミローネ様に報酬を支払う手立てがない事は、言う間でもない。
おそらくは、深く考えずに言っているのだろうけどそもそも報酬なんてどうでも良い。
「分かっていますか? ヴェルミローネ様、人間達には勇者もいます。 それに同族にも良く思っていない者もいるでしょう。 僕達だけでは、返り討ちに会うだけですよ?」
「それは・・・分かっている! それでも余には、其方の…」
グゥ~~~…
一時の沈黙が流れた。
そう倒れた原因は、体力の限界と空腹より、身動きも取れずに倒れていたのだ。
だから起きた時の為に料理を作っていたのだけれど、どうやらそれに刺激されてお腹の虫がなった様だ。
僕は、前世でも自炊していた経験を活かし、似た様な食材を集めて料理をしてみた。
家族にも評判は良く、たまに作る様になっていたのだ。
「とりあえず、食事にしましょうか。」
「まっていました~♪」
ファルは、すでにスプーンを持って自分の席でまだかまだかと待ちわびていた。
ヴェルミローネ様は、恥ずかしそうに席に着き、流石は魔王の娘だけあって上品に召し上がっていた、最初だけ。
「ウマイ! なんなのだ、この料理は!? いろいろなうま味が見事に互いを引き立て、後から来る辛みが食欲をそそり止まらないではないか!!」
さっきまでの様に威厳を保とうとしていた姿は、微塵もなく、見事にがっついていた。
ちなみにファルは、口に含んだまま話していた為、ヴェルミローネ様には理解できずに助けを求めて来た。
通訳してやると親しみを込めてミローネ様と呼んで良いとのことだった。
食べ終えても何かを期待した様にジ~と見つめて来るのでミローネ様にお代わりのカレーを注いで上げたのだが違ったようだ。
いや、お代わりのカレーはしっかり食べていたがどうやらミローネ様は僕を見定めていた様だ。
「余の見立てによると其方は、相当鍛えているようだな?」
「他の優秀な方を選んだ方が良いと思いますよ?」
ミローネ様の洞察力は、恐ろしく、一目で対象の特技やオーラ量まで見えるようだ。
僕は、出来るだけ自分の得た力は、隠しておこうと思っていた。
何故なら僕の能力の中には、危険なモノがあるからだ。
それらの事までは、何とか情報を得ていない様なのでほっとする。
おそらく魔王様が相手なら気づかれただろうがミローネ様が相手だから何とかなったのだろう。
ファルも一緒に鑑定してもらっていたがミローネ様の言い方だとどっち側に凄いのかイマイチ解らなかった。
気にしない様にしておこう。
しばらくして、姿が見えなかった父と母が戻って来て、何やら託された。
ミローネ様の見立てによる宝具クラスの短剣とか言うとんでもない代物だった。
何て物持ってくるのさ! 宝具と言えば世界のトップクラス達しか持っていないとか言われるヤツじゃないか!!
それはそうと、どうやらこのクラスの武器は、自分で主を判断するらしく、持った瞬間に短剣の情報が流れ込んでくる。
ミローネ様が言っていた通り、状態異常がかかる様だがその中には、即死効果とかも存在し、出鱈目な効果だった。
凄すぎて逆に使いたくない!
ミローネ様の期待度はどんどんと上がって行き、参加せざるを得ない状態が整っていく!
僕は必死に話題を変える事にした。
「外は年に一度の大霧日に入りましたから外には出られませんよ?」
「「なんだと!?」」
いや、ファルはアホの子だから良いとして、父と母よ、あんたらは知っていただろう?
何で両親が驚いたのか僕には、さっぱり解らない。
「一刻も早く領土再建をしたいと言うのに…」
「しかたありませんよ。 いくらミローネ様でもこの大霧の中は危険すぎます。」
「分かっておる。」
「大霧が収まるまでの間に再建への計画をしっかり立ててはどうですか?」
「そうするしかないな。」
なんとかなったかな?
そしてファルの見事なアシストで外へ出る処ではなくなったようだ。
「おにいちゃん! 夜の食事は何?」
「う~ん、カレーの残りでグラタンでも作ろうかな?」
ここ一番の集中力で耳を研ぎ澄ませ、聞いていたミローネ様が前のめりで聞いて来る。
「よ、余の分もあるのだろうな?」
「はい、ちゃんと用意しますよ。」
満足そうにしているが再建計画は、すっかり忘れているご様子。
このまま、餌付けで上手く行くかもしれないと僕は思っていた。
その考えは、甘かった。
大霧発生から3日ほどたった頃、突然、ミローネ様に異変が起きた!
グラタン、シチューやハンバーク、デザートにケーキまでしっかり食べていたのに。
「もう我慢できん! 余は外に出るぞ!!」
「ダメです! 外は、危険だと言っているじゃないですか!」
「ええぃ! 何処を掴んでいるのだ! 離すがよい!!」
ガチャ! タッタタタタ…
何処をと言う言葉にとっさに手を放してしまった。
ミローネ様は、迷いなく大霧の中を駆けて行ってしまった。
この大霧は、本当に危険で例えば、まだ若い上位魔人が調子に乗って入って行って晴れた頃にボロボロの衣服だけが見つかったとか手を繋いで歩いていても気づけば繋いでいる手から先が無くなっていると言う噂があるほどに。
「何と言う事だ! ブランシュ、ミローネ様を助けてやってはくれないか?」
「お兄ちゃん・・・」
大霧の中を助けに行けとか無茶なお願いだが仕方のない事だ。
そう、僕は、この大霧でおそらく唯一の生還者なのだから。
まだ、幼い頃に創造神に会う為に色々と試していた頃、大霧の事を知り、試しに外に出た事があった。
結果を言うと創造神からまたも電話の様なメッセージが届いて難なく生還したのだ。
だから僕は、この大霧の正体も知っていた。
僕は大きくため息を吐き頷いた。
「分かったよ。」
僕は、大霧の中に飛び出して行った。