3. 交渉と成果
ヴェルミローネ視点です。
まさか、あっさり断られるとは、思ってもおらず、取り乱してしまった。
だが余の決意は、簡単に諦めて良いモノでは決してない、粘り強く交渉を試みるのみ。
「それでも余には、其方の…」
グゥ~~~…
「・・・」
「それでも余には、其方の力が必要なのだ!」
「何事も無かったように言い直さないでください。」
大事な場面で腹の虫がなってしまい、なんとか無かった事にして話を進めた。
余は、頑張ったのだがブランシュはそこまで甘い者では無かった。
そこは、聞かなかった事にするのが優しさと言うモノではないか!と思ったがここは冷静に何としてでもブランシュを仲間にしなければならない。
「コホン、実は、結界を解くだけで体力を使い果たしてしまい、その後も禄な食事もしておらぬのだ。」
そもそも腹の虫がなったのは、余の空腹のせいだけではない!
「それにしても何なのだ? さっきから漂うスパイシーな香りは、余計に空腹が刺激されるではないか!」
「エへへ、お兄ちゃんの料理は美味しいの♪ シチューって言う料理を作っている所だよ!」
キルシュブリューテンファルが匂いの正体を教えてしてくれた。
それをブランシュが訂正して教え直してくれた事によれば見た事も聞いた事もない料理だった。
「シチューじゃなくてカレーだよ。 野菜と香辛料等を一緒に煮込むとろみのあるスープ見たいなモノですよ。 ちょっと待っていて下さいね、すぐに準備しますから。」
「いや、介抱してもらった上、食事まで迷惑か…」
グゥ~~~…
「気にしなくて良いですよ。 幸い、余分に材料買い込んでいましたから。」
余は、空腹に勝てず、お言葉に甘える事にした。
出された料理は、野菜の入った茶色い液体を穀物にとろりとかけた物で見た目からは美味しさは伝わってこなかったが一心不乱に食べるキルシュブリューテンファルの姿に余も覚悟を決める!
ハムッ…
「ウマイ!!? 魔王城で出されていた物に負けておらぬぞ!!」
「ホウデピョウ、オヒン△✖※〇フォオヒヒンノ♪」
「キルシュブリューテンファルは、何て言っているのだ?」
「ファンデビビボ♪」
「ファル、食べるか喋るかどっちかにしようね? えっと、ですね、「そうでしょう、お兄ちゃんの料理は美味しいの♪」それと「ファルで良いよ♪」って言っています。」
流石は、兄妹と言う事なのだろうか?
あの暗号めいたファルの言葉をいとも容易く通訳していた。
それにしてもこんなにも楽しく美味しい食事をしたのはいつ以来だろうか?
いつかこのお礼をしなくてはならないと思った。
それと同時に余は、ますますブランシュが必要だと確信する。
「余の見立てによると其方は、相当鍛えているようだな? 余を前にその物怖じしない態度と料理の腕と良い、おそらくは、兎人族の中でも希少な存在の様だな。」
「お兄ちゃん、すご~い! 私は? 私は、強い!?」
ファルも自分の事が気になった様で見ると兄妹そろって特殊な存在の様だ。
「ファルの方も、ある意味ブランシュよりも凄いかもしれん… 種族遺伝による特徴を無視し、なにやら得体の知れないオーラを纏っているようだな。」
「わ~い、やったね♪」
ファルが何に喜んでいるのか余には、分らぬが凄いと言う言葉だけしか理解してなさそうだ。
「それで其方にもう一度問うが協力をしてくれないだろうか?」
「なるほど、魔人の人は特殊な眼を持つと聞きますがそこまで解ってしまうのですね。 確かに兎人族の中では特殊かもしれませんがそれでも上位の獣人や魔人には遠く及びません。 他の優秀な方を選んだ方が良いと思いますよ?」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん可哀想だよ。」
余が少し、暗くなった事をさっしてかファルが後押ししてくれた。
それでもブランシュの方が上手で、あっさりと寝返っていた。
「ファル、お兄ちゃんも断りたくはないけれどヴェルミローネ様を思っての事だよ? これから先、魔王様の娘ともなれば一人で強く逞しく生きて行かないとならない事もあるだろうからね。」
「そっか~、それは仕方ないね、お姉ちゃん頑張ってね!」
このままでは、不味いと思い、急いで思考を巡らせる。
そこへ、何かを思いだしたかの様にいなくなっていたシローとアーカが何やら持って戻って来た。
「ブランシュこれを持って行きなさい、我が家に伝わる家宝だ。」
「父さん聞いていましたか? 僕は、手伝いません。」
「何を言う! ヴェルミローネ様立ってのお願いなのだぞ!!」
余の眼でその性能はすぐに分った。
なんと宝具クラスの短剣でわないか!
攻撃力は高く無いものの何やら状態異常を与えると言う代物の様だ。
「ほほう、そのクラスの短剣ともなれば魔王軍幹部の者でも上位の者しか持っていなかった物ではないか?」
「流石はヴェルミローネ様、この武器は、魔王様より頂いた品です。」
「ミローネで良い。 そうか、これほどの品を持てば其方もさらに強くなるだろう、何度も言うが助けてはくれないか?」
「行きませんって言っているじゃないですか。」
「ふむ、強情だな。 褒美もちゃんと出すぞ?」
「褒美も何も今のミローネ様には、何もないじゃないですか? それに亜人の子供が2人で旅をした所で相手にしてくれる大人なんていませんよ? それ処か素性が分れば殺されます。」
「ほ、褒美はその・・・出世払いと言う事で。 それに余には、父上の後を継ぐ義務がある!」
「それでも無理です。」
「何故なのだ!?」
「外は年に一度の大霧日に入りました。 迷子になって野垂れ死にます。」
外を慌てて見に行くと1メートル先も見えない有様、この大霧と呼ばれる現象は年に1度、7日ほど続き、感覚麻痺や魔力妨害等の状態異常を持った霧が樹海全体を覆いつくす。
迷い込んだ者は例え上位魔人でも帰って来た者はいないと言われる恐ろしき天災なのだ。
「これに備えて、食料を大量に買い行った帰り道にミローネ様を発見したのです。」
「その為のお買い物だったのかぁ~! いつもより多かったからパーティーかと思っちゃったよ!」
「こんな所で足止めか、余は早く民を助けねばならぬと言うのに…」
気持ちばかり焦る余にファルが優しく声をかけてくれた。
「これでまた、お兄ちゃんの食事が食べられるね♪」
「そうか!」
「お兄ちゃん! 夜の食事は何?」
「う~ん、カレーの残りでグラタンでも作ろうかな?」
「よ、余の分もあるのだろうな?」
「この大霧が晴れるまではここで暮らすしかないでしょうからね。」
またしても余が聞いた事もない料理の名前が出て期待が膨らむ。
高まる気持ちを飲み込み、なんとか威厳は保てたようだ。
「お姉ちゃんも嬉しそうだね♪」
「そ、そんな事はなかろう!」
少し、気が緩んで表情に出ていたのかもしれないと反省した。
しかし、グラタンとは何なのか?
気になって料理が運ばれて来るまで気が気ではなかった。