14. ポジションが決まりました。
ブランシュ視点です。
ついに解き放たれたカーバンクルと僕達は、交戦していた。
伝説級の魔法特化型の魔獣は、流石と言って良いほどに多彩な魔法を放ち僕達を翻弄する。
エンペラースライムより知能が高い分、隙を作るのが容易ではなかった。
だが今は、そんなこと関係ない!
(何だあれは!!?)
僕達がカーバンクルに追い詰められたその時、カーバンクルが張った強固な結界の一部を破り、颯爽と現れたそのシルエットには、何処か見覚えがあった。
「フランチェスカ!? 何をしておるのだ! 今すぐ逃げるのだ!!」
ミローネ様がそのシルエットの正体に向けて大声を出した。
それは、赤いマントを靡かせて仁王立ちしている人参、コサイ村でミローネ様が買って来たマンドラゴラで可愛がっていたヤツだ。
(フ、フフ、フランチェスカ!!!? そしてそのマントは、何だ!!?)
まさか名前まで付けて可愛がっていたとは、知らずに僕は、思考がストップしてしまう。
本来ならば戦闘中に致命傷になる隙なのだがカーバンクルもまさかの珍客に戸惑って戦闘どころではないようだった。
さらに信じ難い事がまだ続いた。
ぬぼぉぉぉ~としか言っていないマンドラゴラとミローネ様だけでなく、カーバンクルまで意思の疎通ができている様にやり取りをしているではないか!
(何たる疎外感!!)
会話の内容は、解らないけれどマンドラゴラがカーバンクルを翻弄している様だ。
そして、マンドラゴラは、僕達にサムズアップをきめて、破った結界の方へと走りだして行く。
見た目に反して高速移動するマンドラゴラを追いかけてカーバンクルも遠退いて行った。
目で追う事しか出来なかったミローネ様は涙する。
僕は、訳の分からない状況に呆然と立ち尽くすしかなった。
長い時が立ち、僕はようやくミローネ様に声をかける。
「・・・フ、フランチェスカ?の好意を無駄にしてはいけません。」
(何を言っているんだ、僕は?)
「そう、だな・・・。 ズットモの事を信じなくてはな・・・。」
(何を言っているんだ、この人は?)
「ま、また、何処かで会えますよ? きっと?」
「うむ、あのマントには、余の魔力で耐性を付与しておいたからな、きっと守ってくれる。」
(能力の無駄遣い!!)
山賊達もカーバンクルに全滅させられ、コサイ村に戻る理由もなくなった僕達は、次の村へと足を進める事にした。
ミローネ様は、道中、少し元気が無い。
まぁ、可愛がっていたマンドラゴラを失ったのだから仕方ないのだが時折、僕に腕を絡めてマンドラゴラごっこをするのをやめて欲しい。
チュイ村が遠くに見えて来た事、魔物だかりが出来ていた。
魔物は、ラッタ等の低級なモノだったが異様な光景に慎重に様子を伺う。
こちらに気づいた魔物達は、一目散に森の中へと逃げて行った。
魔物達が居た場所へと近づくとそこには、僕より年上だろうか、水色の長い髪に軽装な装備の女剣士が横たわっていた。
ミローネ様が慌てて声をかけていた。
「そこの者、大丈夫か!? 返事をするのだ!!」
「・・・い、痛いです。 置きますから、置きますから許してください・・・。」
魔物に襲われて居ただろう女剣士の意識を戻す為、往復ビンタをするミローネ様の御陰でようやく、女剣士が目を覚ました。
「おはようございます。 もう朝ですか?」
「今は、昼時なのだ。」
「私は、こんな所で何を・・・、あなた達は誰ですか?」
遅れて、辺りを見回した後に僕達を確認し、首を傾けていた。
おそらくこれは、関わってはいけないフラグじゃないかと僕は、直感した。
「おぬしは、さっきまで魔物に襲われていたのだが覚えておらんのか?」
「魔物に・・・、思いだしました! 昨晩、木の実が無性に食べたくなって、ここの森に取りに来て、食べたら満足して、眠くなって寝たのでした。」
(ファンタジー世界で警戒心が無いだと!?)
「それであなた達は誰ですか?」
「そうであった、余は、魔・ムグムグ!」
「僕達は、旅をしている者ですよ。僕は、ブランシュでこちらがミローネと言います。」
「そうですか、私は、チェレステアと言います。」
ミローネ様が危うく自分の正体をバラしそうになったので慌てて僕が自己紹介をした。
女剣士チェレステアも気にする様子は無く、自己紹介をしてくる。
「プハァ! しかし、おぬし、昨晩からここで寝ていて、良く無事であったな?」
「あはは、体だけは丈夫なのでこの辺の魔物なら平気ですよ。」
「人は、見かけに寄らないと言うが本当なのだな。」
感心しているミローネ様の言う通り、見た目がひどい事になっている。
髪の毛は、寝癖でピンと跳ね、服装は、魔物によってボロボロに汚れ乱れていた。
「それじゃ、魔物から助けていただいた、お礼に町を案内しますね。」
「ちょっとまった! その格好でそのまま戻るんですか!?」
「・・・何か変ですか?」
チェレステアは、自分の姿を見回した後、不思議そうに問い返して来た。
これはあれだ、アホの子を拾ってしまったのかもしれない。
「・・・なんでもないです。」
アホの子に連れられて、僕達は、チュイ村への門へと向かった。