9. 退屈な旅
ヴェルミローネ視点です。
ブランシュの家を出た後、一番近くにある人里、コチャイ村を目指して樹海の中を進んでいく。
コチャイ村までは、徒歩で5日程のとこにあり、元々亜人との交流もあり、差別が比較的少ない村とのことだ。
村までの道中に注意すべき事は、魔獣や魔蟲が襲って来るとの事だ。
普段のブランシュは、下位獣人より少し強い程度で能力やアイテムは、リスクをともなう為滅多に使わないそうだ。
ここは、良い所を見せるチャンスと思い張り切っていた。
まったくと言って良いほど敵が来ない!
ホーンラビット等の低級の魔獣を見かけてもすぐに逃げてしまう。
ブランシュの話では、余の気配を察知して逃げたのではないかと言っていた。
野生の勘と言うやつらしく、オーラを隠していても察知される事があるとの事だ。
試しに追いかけて見るとそこには、無数の洞穴があり、その中から気配を感じる。
弱い種は、纏まって少しでも安全を確保しようとするらしい。
魔獣一つでも奥が深いと感心した。
やがて、樹海を抜け、草原地帯へと辿りついた。
所々に人が作ったのであろう焚火の痕や簡単な道が見られる。
草原地帯になるとさらに魔物の数は減り、たまに見かけるのがスライム程度だ。
本来スライムは、何の知性も無く、ただただ捕食と分裂を繰り返すだけの存在。
相手の強さ等関係なく捕食しようとする、ある意味弱肉強食の体現者なのだ。
しかし、最下位の魔物とは言え、面白い能力を有している。
捕食、分裂、再生、擬態、物理攻撃ほぼ無効と知恵無き最下位の魔物がだから良いもののこれが上位者だったら違いなく最強の一角に登りつめていただろう。
だがこのスライムは、弱すぎるのだ。
余がうっかり踏んでしまうだけで飛び散り、再生する事無く、養分として地に吸収された。
ブランシュも問題なく撃退している。
あの洞窟のスライムが如何に規格外だったかと言う事だ。
ただここまで弱いと良い所を見せられないではないか!
「ブランシュよ、敵が弱すぎはしないか?」
「この辺りは、下位の魔物しか居ませんからね。 平和なのが一番ですよ、ミローネ様。」
「しかしだな・・・。」
「それにミローネ様が倒した魔物からいろいろお金になりそうなモノも出ていますし、村に着いたら美味しいモノを食べられそうですよ。」
「余の功績か?」
「はい、ミローネ様のおかげですよ。」
「そうかそうか♪」
ブランシュが何やら拾っていた事は、しっていたがスライムを倒すとまだ、消化されていない物を落とす事があるそうだ。
中には貴重な物もあるらしい。
ブランシュが物知りで余も助かっている。
日も落ち始めた頃、野宿場所を探し、準備を始める。
夜になると暗い上に魔蟲や夜行性の魔物が活発化するらしく、罠等を仕掛け少しでも安全を確保するのが鉄則との事だ。
食事は、ブランシュが作り置きしていた物を空間布袋から取り出していた。
空間布袋は、時間の経過が無いらしく、温かいままの料理が出される。
後は、寝るだけなのだがブランシュが空間布袋から少し大きめの折り畳みベッドを取り出した事には、驚いてしまった。
どうやら1つしか無かったらしく、2人で寝る事となるのだがここで狼狽えては、余の威厳にかかわる事だ。
入念に生活魔法で体を綺麗にして準備万端にブランシュの方を向くとすでに眠りについていた。
このなんとも言えない感情は何なのか?
仕方がないのでベッドの中に潜り込みちょっとだけブランシュの鼻をつまんでやった。
だがふとある事に気が付いた。
「ブランシュ、起きろ、起きるのだ!」
「ふぁ~~~、何ですか、ミローネ様?」
「見張りはどうするのだ?」
「ああ、それなら心配ないと思いますよ? そんな事より寝ましょう。zzz」
「寝てはダメだ! 起きるのだ! ブランシュ~・・・zzz」
・・・チュンチュン
鳥の鳴き声で目が覚める。
不覚にも寝てしまった様で起きた時には、すでに日が昇っており、ブランシュは、朝食の準備をしていた。
魔物の襲撃も無かった様だ。
「あ、おはようございます、もう少しでできますからね?」
「うむ、おはよう。 そんな事より、何故魔物は、襲って来なかったのだ?」
「魔獣や魔蟲は、ミローネ様を恐れて隠れていますし、スライム等は、落とし穴にハマって動けずにいますよ。」
「なるほど、余の御陰か?」
「はい、ミローネ様の御陰ですよ。」
余は、気分良く朝食を終え、コチャイ村へと向かう。
それからも大した魔物は出ずに旅は、順調と言うより、退屈であった。
町が見え始めた頃、余は、初めて人と接する事を思い出し、緊張してきた。
だがここで堂々とした姿を見せないと余の威厳が無くなってしまうと思い、力強く一歩前へ進む。
たまたまいたスライムが足元で爆散した。
門に近づくと警備兵が警戒しこちらの様子を伺がっている。
ブランシュが手を振りながら警備兵に合図を送っていると警戒を解いてくれた。
どうやら何度かこの村に来た事があるらしく、知り合いだった様だ。
「そこの嬢ちゃんは、ブランシュの彼女かい?」
「ち、違うのだ!」
「そうですよ、ただの友達です。」
「ただの友達・・・」
唐突に質問され、顔を赤らめてしまったのだがブランシュの言葉に一瞬で冷静になってしまった。
警備兵に通して貰った後、ブランシュが耳元で囁く。
「良いですか? 魔王の娘だと解ったら流石にどうなるか分らないので友達と言う事にしておきます。」
「う、うむ、わかっておる。 それよりもあの者は、獣人にまったく警戒していなかったな。」
「僕は、この村に何度か来ているので慣れたのでしょうね。 気さくな方でもありますし。」
「皆がこの村の様にあれば良いのだが、難しいものだな。」
しかし、耳元で話されるとこそばゆい!