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グライダー乗りの物思い

首都高や峠道を走っていると、時々思うことがある。「どうして彼らは走りたがるのだろうか」と。自分はそんな物とは無縁の人生を送ってきたし、ようやく手に入れた愛車、ソアラもどうやら私のようなオーナーと長く連れ添ってきたのだろうと感じさせる雰囲気をまとっている。やや「その気」にさせそうな2.0GT-TWIN TURBOのマニュアルで、エアロパーツ装着車であるにも関わらず、だ。今でも外観はその歳月を感じさせないほど綺麗だし、内装もヤレの見られない、大切に扱われてきた個体だったと見て取れる。

時々PAで同じ世代のソアラを見かけるが、どうもエンジンすら換装されているような走りに振ったものだったり、目も当てられないような何らかのキャラクターがボンネットやリアウィンドウに貼られていたりする代物だったりと、純正の美しさを保っている個体に出会うことがあまりない。もっとも彼らの生き様を否定する権利は私には無いわけだし、ただ目を逸らして見なかったことにするぐらいしか無いのだが。だから自分のソアラを一際大事にしようと考えてるし、日々のメンテナンスも怠らないようにしている。


そうやって自分の世界に閉じ籠もろうとしても現実そうはいかないし、一度抱いた疑念は晴れない。「どうして彼らは走りたがるのだろうか」。この理由を知りたいと。いつもソアラで法定速度を守って走っていても、首都高だと時折猛スピードで走る車が隣を横切るし、峠道の方だと対向方面から車がやってくる場合もある。こっちとしては迷惑千万でしかない。だからこそこの疑念を抱き続けているわけだが。学生時代にクラスメートや同級生のなかではまことしやかに首都高や峠道のそれなりに名の知れた「彼ら」の噂が流れていた。もっとも自分はそんな話には興味を示さず、学校に持ち込んだ80年代のトヨタ車関係の本ばかりを読んでいた。免許を取り高校を卒業して仕事に就くという頃にはソアラが欲しいと思っていたし、それを実行に移すのは時間はかからなかった。それでも理想の個体を探すのには手間取ってしまったのも事実だが。


ソアラを持ってからは何人かとの交流が生まれるようになった。同じトヨタ車乗りの間での繋がりで、時折ミーティングなんかにも参加することもあり、交流の輪は広まった。そこで思わず高校時代同じクラスにいたのにも関わらず全く交流を持たなかった人と関わりを持つ機会ができ、2人でどっと笑ってしまったりもした。そんな彼は偶然にも私と同じ世代のソアラ、こちらは3.0GT-LIMITEDのオートマチック車に乗っていた。そこからはもう親友のように会話や連絡を取り合う仲になっていった。そんなある日のことである。


「伊藤さんって首都高とか上がらないんだっけ?」いつも待ち合わせ場所にしているカフェでの会話だ。「いや、上がるよ?ただ変なのを避けたいだけであんまり行かないだけで。」「あーなるほどね、そりゃ嫌になるわな。どうしてもいるもんな、走り屋。」「彼ら」は走り屋と呼ばれることが多い。商売人とはいえないし職業ですら無いのだが、何故かそう言われる。「まぁねぇ…ほんと彼らは謎だよ。どうしてあんなことしたがるんだろうね。」「さぁね…それなら、観察でもしてみるかい?」思わぬ答えが帰ってきた。私はこの疑念に関して、積極的に答えを求めようとはしなかったからだ。「今度一緒に峠か首都高か行かないかい?僕も実はああいう人のことが気になるんだよ。そう思うとなんか偶然では済まない気がしてね。もちろん行くか否かは君に任せるよ、強制はしたくないからね。」私は少し悩んだが、どこか彼に親近感があったし、ここで少しでも答えになりそうなことを手に入れたいと思った。一生燻らせるのは後味が悪いだろうし、些細な悩みという文言では済みそうになかったからだ。「行こうか、日程後でLINEかなんかで教えてよ。」「わかった、って次の休みでもいいんじゃない?同じ日が休みなんだからさ。場所は当日連絡するよ、閉鎖されてたりするからね。」「それじゃその時はよろしく。」こうして、私の長年の疑念を晴らす旅が始まったのだが旅の道中はまた別の話である。

タイトルの「グライダー乗り」とは、ソアラの車名の由来(英語で「最上級グライダー」の意味)から取ったものです。


登場車種:TOYOTA SOARER(E-GZ20/E-MZ21)

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