表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐女子の悪役令嬢は復讐を果たせる?  作者: 一条由吏
第1章 寝取られた悪役令嬢
9/59

8. 次代の王と激しい求愛

 舞踏会が開催される王宮の迎賓館の控の間にいる。


 既に国王は迎賓館の玉座に座っているだろう。あの方は身体が弱ってきており、舞踏会は見学するだけで出場しない。ユウヤは主催者ということで初めから会場入りしているはずだ。


 後宮から迎賓館までの道のりは、あちこちにたくさんの花が植えられて華やかだった。数日前から飾りつけや準備がされていたであろう迎賓館は、さらにふんだんに使われた切り花で豪華絢爛と言っていい装いになっている。


 まるで耽美小説の表紙や挿絵のように主人公たちに花を背負わせることができそうだった。


 ――もうすぐ始まってしまう。


 結局、昨夜もメリー皇子からの手紙は送られてこなかった。もう時間切れね。この先、一生ハミルトン王子と幸せな夫婦を演じなければならないと思うとため息が出る。


 招待者の内、一番上位のハミルトンと私のカップルが一番最後に入場することになる。おそらく、入場の際に紹介され、その時に妊娠が伝えられるのだろう。


 そうなれば、もう踊ることさえ出来なくなる。せっかく用意してもらったドレスを披露する機会も失ってしまう。ひとり寂しくいるよりも商売のことを考えていたほうがずっとマシと思って一生懸命に考えたのだけど、これも失敗に終わってしまうらしい……


 いっそのこと、このまま逃げ出してしまおうか。


 逃げ出すだけならば『威嚇』スキルを使えば、紡績工場のある荒野までなら容易いに違いない。だが一族の本性を見抜いて、私に協力してくれる友人たちや紡績業で雇っているひとを裏切ることになってしまう。私さえ我慢すればいいのだ。


 むしろ、ハミルトン妃となれば、それなりに便宜を図ってもらえるだろう。事業も上手くいくに違いない。私さえ我慢すれば……


 前世も処女のまま死んでしまったが今世でも男同士の妄想を糧に処女のまま生きていくことになりそうだ。大丈夫。生きていける。前世はそうやって生きてきたんだもの。


 覚悟を決めたことで心が落ち着いてくる。鏡で見た自分の姿も心無しか穏やかにみえる。まあ、周囲の人間には、歓喜の表情に見えるかもしれないが……


     *


「ハミルトン・オブ・プリンス・ロシアーニア様とハイエス伯爵家、長女アレクサンドラ様でございます。皆さん、拍手でお迎えください。」


 ハミルトン王子が控え室まで迎えにくると腕を差し出してくる。1ヶ月半まえにあったお披露目とは違った緊張感に包まれる。その腕をとり、迎賓館の会場の扉の前まで到着するとまた、ため息が出る。


 ハミルトン王子が優しく微笑みかけてくれるが何の足しにもならない。よっぽど、扉を開ける係りの騎士とキスシーンでも見せてくれたほうが癒されるのに……


 そんな妄想をしているとは思っていないだろう両側の騎士たちが扉を開け放った。その途端、背筋がピンと伸びる。そして、王子が踏み出すのに合わせた形でほんの少し遅れ気味に、かつ、優雅さを失わないように足を動かす。


 盛大に拍手をしてくれる何も知らないユウヤの側室たちに微笑みかける。幸せそうに見せなくては……


 他の貴族たちには高笑いしているように見えるようで、憮然とした顔を一瞬したように思ったがすぐに笑顔を貼り付け直し、拍手を続ける。


 中央に到着すると優雅にお辞儀をすると早速、初めの1曲目の演奏が開始される。どうやら、1曲は踊れるらしい。


 ハミルトン王子の腕を放すと少し離れて互いにお辞儀をする。周囲では同じようにカップル同士がお辞儀をし合っている。


 1曲目は同伴者と踊るのが礼儀となっている。王女が口添えしてくれたのだろうか……、ユウヤがそんなことを知っているとはとても思えない。妊娠の件は、場の雰囲気を壊さないように1曲踊ってから発表されるのであろう。


 前世に見たアニメ化された耽美小説のカップルのように優雅に、完璧なテンポ、そしてしっかりした足取りでリズムを刻んでいく。何も難しいことは無い。


 幼いころから教えて頂いた教養の一部である女性パートのみならず、いずれ何も知らない少年に女性パートを教え込もうと思い、男性パートも必死で覚えた。


 だから、王子の動きも先の先まで読めている。完璧だ。


 完璧すぎて、ハイエス伯爵家フィルターで背筋が凍りついているかもしれないが……


     *


 曲が終わり、休憩時間が挟まれる。


「アレクサンドラ様。」


 後ろから懐かしい声が掛けられる。リオーネだ。後ろを振り向くと、その隣にはメリー皇子の姿が……


 こういった公式行事に連れてくる同伴者は婚約者か親しい友人と相場が決まっている。決して使用人を連れてきたりはしないものだ。


 そうか。メリー皇子はリオーネに夢中になったのか。秘密の恋人なのか、もう婚約したのか……道理で手紙も送られてこないわけだ。


 それはそれで都合がいい。妊娠が発表され、計画通りイケメンの帝国貴族を連れて来たならば、相手の顔を潰してしまうところだったのだ。


 ハミルトン王子を母に取られただけでなく、メリー皇子までもリオーネに取られたとは、つくづく私は王子に縁がないのね。


「アレクサンドラ、紹介してくれないだろうか?」


 隣のハミルトン王子がたずねてくる。頻繁にロシアーニアに来ているメリー皇子のことは知っているのだろうに……


「はい。昔、お世話になったリオーネと同伴者のメリー皇子です。」


 基本的に彼と私のことは知られていないはずだ。ユウヤには便宜を図ってくれる人物がいることは教えてあったが、その後、ゴディバチョフ皇子が同行することになったので直接、会ったことはないはず……


「ハミルトン王子、久しぶりですね。」


 やはり、顔見知りのようだ。そのときだった。会場が突然、静まり返る。いよいよ、発表されるらしい……。ユウヤが居るであろう方向に顔を向ける。


「ご臨席の皆様、本日は、ようこそおいでくださいました。催しを担当させて頂きましたユウヤと申します。」


 このタイミングでチラとこちらに目が向く。どこに居るのか確かめているのだろう……


「ここで大変失礼ながら、嬉しいニュースをお伝えしたいと思います。それは、「待った! ちょっと、待ったー!!」」


 突然、ユウヤの声に割り込むようにある人物の声が重なる。メリー皇子だ。


「何事ですかな? ……………」


 ユウヤは突然、現れた人物に警戒心を剥き出しにする。視線がメリー皇子から私に向いた瞬間を狙い『威嚇』スキルを飛ばす。彼が何を言うか、皆目見当がつかなかったが最後まで聞きたいと思ったからだ。ユウヤも油断していたようで一瞬、言葉が出なくなる。


「先に言わせて頂こう。皇帝が引退され、ゴディバチョフ皇子が皇位にお付きあそばれました。私は新皇太子として、ここに居るアレクサンドラ・アール・ハイエス嬢を后として迎えることを宣言する!」

長らくお待たせして申し訳ありません。


ようやくヒーローが登場します!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ