5. 旦那様とサービス
「まさか。ハミルトン王子にも……?」
「してない。してない。旦那様になる方だったんだから、正式に婚約した後で、もっとサービスする予定だったのよ。」
いろいろ考えていたんだけどなあ。絶対に夢中にさせる自信があったんだけど……先にお母様に取られちゃった。
熟女のねっとりとした色気が大好きじゃあ。もうどうしようもないわよね。
あの手の人って、若い子には見向きをしないんだから……
「サービスって……聞いてない。私は聞いてないですからね。」
リオーネは興味津々という顔を一瞬するが頭を振っている。この世界で『腐女子』を広められないのか残念。女性ならみんな大好きなはずなんだけどなあ。
*
「帝国のメリー皇子……ですか? 超人気者じゃないですか。ロシアーニアにも沢山のファンがいますよ。その皇子を誑しこんだんですか。……バレたら殺されますよ。」
好きな耽美小説の『攻』キャラにソックリなのだ。普段は誰に対しても優しいのだが主人公の『受』キャラに対してもだけはドSキャラでオレ様な本性を見せるというギャップ系だったのだが……。
メリー皇子当人は、マッサージの最中ずっとイイ声で鳴いてくれてどちらかというと『受』キャラかもしれない。
「ハイエス伯爵家に悪い噂が、ひとつ増えたからって関係ないじゃない。」
「まあ、そうですけどね。」
リオーネは皇子のファンじゃなかったのか。あっさりと許してくれる。
「メリー皇子なら、大丈夫。この手技の虜になっているからね。」
「止めて下さい! その手つきと表情は、アレクサンドラ様に似合いません。」
「リオーネもやってほしい? そうかそうかやってあげようじゃないの。」
私がワキワキさせながら迫ると『転移』魔法でも使ったかのように飛び退く。
「冗談だって……」
関係を再構築するのに迫ってみるのは耽美小説では常套手段なんだけど、情欲というものが無い女性相手には使えそうにないわね。
「冗談に聞こえませんでした。もう絶対にアレクサンドラ様とは一緒に寝ませんから……」
「えー、つまんない。せっかく、私の本性を話せたのに……」
「とにかく、メリー皇子につなぎを取ればいいんですね。会ってくださるかしら……」
「大丈夫。ほら山ほど手紙を貰っているもの……最近だと、一昨日かな届いたの。逢いたい、逢いたいって。……婚約したのに……無理だよね。」
「えっ。そんなの届きましたか?」
「うん。何だったかな。……そうそう、帝国の魔法具で特定の人物に手紙を届けられるんだって。良くゴディバチョフ皇子にも届いていたよ。」
ゴディバチョフ皇子は、魔王討伐の旅に同行してくれた帝国の秘蔵っ子で旅から帰ってきた後は多くの兄を押しのけて、次期皇帝に内定している。
「それって、国宝級なんじゃ……」
「そういえばゴディバチョフ皇子がそんなことも言っていたような……でも王族なら気軽に使えるんじゃないのかな……」
「戦時中ならまだしも、この平和な時代にですか? それに皇帝の許可が必要ですよね……」
このロシアーニア国でも国宝級の魔法具は国王の許可が必要だ。ユウヤは結構、勝手に使っているから、そんなものだと思っていたが……。
「……まあいいじゃない。それよりも、これを持って行けば確実だよね。それでお願いね。お願いする内容は、手紙に書いておくから……」
とりあえず今は関係無いので考えないことにする。
「どんな内容なんですか?」
「言わなきゃダメ? ダメよね。そのうち、『婚約破棄』されるだろうから、帝国の貴族に嘘の求婚をしてもらおうと思って……きゃ、恥ずかしい……できれば、イケメンがいいって伝えておいて……言っちゃった……」
「……それでいいんですか。それじゃあ、復讐にならないじゃないですか……」
ジト目で返されるとつらいわね。どうせ似合わないわよ。
やけに復讐にこだわるなあ。
「イケメンに求婚されてぼーっとして、そのまま帝国へ婚約者として連れて行かれる。なんとも、乙女心をそそるシチュエーションでしょ……それで十分よ。」
「はあ……」
「何よ。文句ある?」
「いえいえ、文句なんて……。良く考えつきますね。そんなこと……」
好きな耽美小説の一節だなんて言えない……。あれもネトラレ系だっけ……女の子ってネトラレ物好きだものね。
リモーネには絶対に言えない。こんどこそ軽蔑される。
誰か、私のこの思いを共有して! 妄想して!! 腐ってるって言って!!!
この国にも『腐女子』は、きっといるはず……黒い噂のせいで『腐女子』友達できない……黒い噂が憎い……黒い噂が憎い……今が一番憎い!