1. 元王子の争い
ある種究極の屈辱的『ざまぁ』です。
「リオウって裏の社会に精通しているよね。娼館って詳しい?」
「それはいったいどういう意味でしょうか?」
リオウは質問の意味を図りかねるというフリをしているが、目が泳いでいるところを見ると女性経験は少なく。娼館を利用したことも無いみたいだ。
「意外と純情ね。」
思わず本音がポロリとこぼれてしまった。拙い拙い。リオウったら『威嚇』スキルを受けた直後みたいに硬直している。
「ゴメン。ゴメン。からかうつもりなんて、チョットしかないのよ。」
リオウは疲れたように頭を項垂れる。
「もう、お嬢様は鋭すぎます。そんなに男心を弄ばないでください。分かっていてやっているでしょう?」
「それでね。リオウにお願いがあるのだけれど……娼館の中でも男娼の館でセリを開きたいの。これがどういうことか解る?」
流石にそういうことを考えたことが無かったのか、首を振るリオウ。
「つまりね。ハミルトン元王子にも罰を与え、さらにハイエス朝の資金源にもなってもらおうと思うのね。ハミルトン元王子ならイイ値がつくと思わない?」
隣で悲鳴を上げているハミルトン元王子の声が聞こえたような気がするけど気のせいよね。
「それはいい考えですね。それならば、女性たちにも入札して頂いたほうが高い値を付けられるかと……」
「それは拙いのよ。ハミルトン元王子の子供は、母の産む子供とリオーネの産む子供だけなの。もちろん、リオーネが産みたくなければ他の男の子供でも構わない。ただ生まれた子供が誰の子供だろうと次期国王になることは決定済みだけどね。」
「……一応、知り合いに男娼の館を営むものがおりますので相談してみます。……ですが……。」
「わかっていてよ。娼館も男娼も利用したことは無いって言うんでしょ。手配よろしくね。」
誰も好きな人が居なければ、別に利用してもいいのに……。余り溜めすぎると身体に悪いわよ……。そう視線を投げかけるが、余所見をされてしまう。全く純情なんだから……。
「但し、ひとつだけ条件があるの。一晩、幾らになるか知らないけれど売れたら、どこからでもいいから、私かリオーネが見学……じゃなく監視できるように手配してほしいの。キズを付けられると困るからね。」
またしても横から悲鳴が聞こえた気がする。この隣にいるのって誰だっけ。
「は……はあ…解りました。」
なんか呆れたような視線がリオウから送られてきている気がするが気のせいだろう。
*
セリの台の上には、ロシアーニア王家時代の正装に身を包み震えている姿のハミルトン王子の姿があった。もちろん、足には枷が嵌めてあったが猿轡もされていない。
その怯えている姿がそそるの。と、真っ当な意見がここのオーナーから出されたからなのだが。ますます綺麗で色っぽい顔を惜しみなく、会場の皆さんに振りまいていることが、セリ値を釣り上げている原因のひとつであることには変わりはない。
「あのブタ野郎、意外と粘るわね。」
今、セリは2人の男の一騎打ちの様相を呈してきている。
2人とも顔は隠されているのでイケメンかどうかは分からないが、1人はデブデブに太った男で、もう1人は筋肉体質の男だ。
本当は、優しくイロイロと仕込んでもらおうと娼館オススメの男性にヤラセを仕込んでいたのだが、あっという間に上限金額を越えていってしまったのだ。
「あの太った男性は、この界隈では有名な存在で大富豪なのだとか……。もう1人の男性は、今回初めての参加で有名貴族の紹介なのだとかいう話でした。」
リオウが淡々と話を進める。情報屋のくせに詳細な情報を仕入れてこないのは、知りたくないためだろう。それぞれの男性がどんな変態趣味の持ち主なのかが重要なのに……。
2人とも仕込みではなく本当にハミルトン元王子が欲しいらしい。そして、決着がついたのはロシアーニア王国時代の国家予算規模の2割ほどの値段で、意外にも筋肉体質の男性がセリ買った。
取引は、もちろん現金で行われる。通常、通貨として流通していない特殊な通貨が目の前で支払われた。通常、国同士の賠償などで使われる通貨でそう簡単に用意できるものでは無い。
それを2人の男性が用意できたということだけでも凄いことなのだ。
「ええと。この後、どうされます?」
「もちろん。監視させて頂くわよ。万が一、使い潰されたら困るもの。リオウはどうするの? ゴメン。もちろん来るわよね。私の護衛役でもあるものね。」
「はあああああ・・・・、もちろんお供させて頂きます。」
リオウが諦めきった表情で頷く。
*
そして、5回目のセリが始まる。
「まだやるんですか?」
「仕方が無いじゃない。ハミルトン元王子が罰を受けていないんですもの。」
「4回もセリ台に乗せられ、変態たちに視姦されただけでも十分だと思…い…ま…す…け…ど……。」
「まあまあ、今度こそヤラセの男性がセリ落とすから、大丈夫よ…た…ぶ…ん。」
これまでの4回が4回とも、親ロシアーニア王家の貴族集団がハミルトン元王子を奪還するためにセリで落とした場合だったり、クーデターを計画していた王族寄りの王宮騎士団だったり、新たな王国を構築するためにセリ落とした市民グループの集団だったり、王家で甘い汁を吸っていた企業集団のグループがセリ落としたのだった。
もちろん、セリ落とした当人が誘拐を企て、これを私が『威嚇』スキルで撃退し、発狂させたことで全ての企みが当人の口からもたらされた。それを元に調査するとイモ蔓式に多くの人間が関わっていたことが分かったのよね。
いったい、反ハイエス朝の集団はどれだけ居るのよ。
お陰でハイエス朝の国家予算は潤ったし、反ハイエス朝の集団のあぶり出しも3組が終わり、4組目に差し掛かったところだ。
本当に今回で終わる。と、いいのだけれど……。
もちろんタグは入れてありませんのであのシーンの詳細な描写はしません(笑)