9. 大賢者の召喚
「もう来たのか。早かったな。と、言うことは王女は死んだのだな。」
ユウヤは既定の事実を淡々と語るように話している。
「何よ! その言い草は!! エミリア様は貴方の事が好きで守りたくて戦ったというのに!!! 予定通り。と、でも言うつもりなの!!!!」
生意気な言動の多い生意気な王女だったが、魔王出現の際にはリーダーシップを取り、国王を説得し国際社会を説得し、異世界召喚を叶え自らも魔王討伐に同行し、この世界を救った救世主だったのだ。目の前の『勇者』であるユウヤよりも、よっぽど私にとっては敬愛する救世主だ。
「もちろんだ。たかだか1度身体を合わせたくらいで女房ヅラしやがって!」
一瞬、目の前が真っ白になる。目の前の男は、何を言っているの?
「エミリア様は『巫女』という能力を失ってまでも貴方に捧げたというのに……」
「それがおこがましいと言うんだ。もちろん、正妻にはするつもりだったさ。」
目の前の男に対して怒りがふつふつと込み上げてくる。
「だったら、何故?」
「だが、側室選定まで口を出してくるんだぜ。何様のつもりだ!!」
止めて! 私の救世主になんていうことを言うの!!
「殺してくれて助かったぜ。俺には、どうやっても殺せないからな!!! なんだ。お前泣いているのか?」
その生意気な言動さえも可愛くて、ショウコさんと2人で魔王討伐隊のマスコットのように扱ったのよね。まあ、そのせいで余計に生意気度が酷くなってしまったのは確かなのだけど……。
だがその妹分とも救世主ともいうべき人物が目の前に立ち塞がり、ユウヤの為に死んでいったっていうのに……。
こ・の・男・は!
「ゆ…る…さ…ん……」
「はっ。だから、お前みたいな女ってのは扱いやすくて助かるっていうのだ……。今、丁度。呪文が完結したぞ。もう……誰にも、止められない。」
『召喚』魔法は、呪文を唱え終わったあとにも多大な魔力を注入する必要があるようだったのだ。その注入の邪魔をされないように、私の怒りをゆっくりと引き出す方向へ話を長引かされていたようだ。
「まあ俺の寿命の10年は痛いがね。それは、お前の命で贖ってもらおう。丁度、正妻の座も開いたことだし、アイツがエミリアを殺したお前を許すとは思えないからな……」
私は自らの行いで自らの退路まで失ってしまったのか……。
それならば……私は刺し違いでもいいから殺そう。と、踏み出すが遅かった。
召喚の間が私たちを締め出すようにガラスのようなものがせり上がり、ユウヤを閉じ込めてしまう。
『送還』魔法でショウコを送り出したときの光景が蘇る。
もう、これまでか……。
そのときだった。
突然、ユウヤの身体が光を発し始める。丁度、『送還』魔法が使われたショウコさんにそっくりだ。もしかして、ユウヤが間違って『送還』魔法を使ってしまったのか?
いや違うはずだ。ラスの言っていたことが本当ならば『召喚』魔法と『送還』魔法では準備の仕方が違うはず。そして違う魔法を唱えてそれが成功するはずもない。それはどの魔法でも同じで例外など無いはずなのだ。
私は、その光景を見逃すまいと凝視続けていると、今度はユウヤの身体が縮まっているような気がしてきた。これはトラップなのだろうか?
間違った準備に間違った魔法を行った者に対する神罰?
いや、違うな。成長期だったユウヤを見てきている私は知っている。これは召喚当初のユウヤの姿に戻りつつある。さらにユウヤは縮んでいく。『鑑定』スキルに切り替えたところ、どうやら『召喚』魔法で10年の寿命を使う代わりに若返っているようだ。
これも神罰の一種なのだろうか?
その時々に得た職業や能力が奪われ無くなっている。真っ先に消えた『魔術師』、そして魔王を倒したときに増えたと思われるHPとMP。日本の神が与えたスキルだけは魂に刻まれているのか残っているようだが……。魔王討伐の経験値で得た能力は、あっという間に全て無くなっている。
そして、ユウヤの年齢が8歳と表示された。その時ユウヤの姿が消えた。
*
「止めなさい!! 全ては終わった。戦闘を止めなさい!」
この男でもこんな大きく声が通る声を出せるのだな。ハミルトン王子が、謁見の間で行われていた戦闘に終止符を打つ。
「ユウヤ様は! ユウヤ様はどうなったのです?」
「『勇者』ユウヤは召喚の間を己の欲のために使い、神罰が降り消えました。」
この国では圧倒的な権力者であり、『勇者』だった彼を慕うものが多い。間違ったとはいえ、自ら『送還』魔法を使い、異世界である日本に逃げたことを伝えることはロシアーニア国の国民に対する衝撃が強すぎると判断した私たちは、神罰が降り彼が死んだことにしたのだ。
本当に日本に行き着いたかどうかは、それこそ神でもないかぎり誰にもわからない。
これでこの国で自分の欲望のために『召喚』魔法を使うものは居なくなるだろう。ユウヤの情報操作のお陰でこの国の危機として使われたとする『召喚』魔法でさえも神罰が降るのなら、本当の意味でのこの世界の危機にしか使えないということである。
そこかしこで、項垂れるもの。泣き崩れるもの。本当にこの国に取ってはユウヤは象徴であり、希望の星であったようね。
「ようやく終わったのだな。大丈夫か……アレク…アレクサンドラ……」
ロシアーニア国側の全ての武装解除が終わるころ、メリー皇太子が私のところに到着した。クスリが切れていた私は、ようやく意識を手放せるのだった。
どうでしたでしょうか?
屈辱的『ざまぁ』のお味のほどは……。
異世界召喚された勇者が全てを奪われて日本に返されてしまう……。
まだ足らない? そうでしょうね。
これでこの章は終わりです。
次章はいよいよ帝国後宮に殴りこみに行きます。お楽しみに!