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腐女子の悪役令嬢は復讐を果たせる?  作者: 一条由吏
第5章 残虐非道の悪役令嬢
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6. 悪役令嬢のアサシン

 敵の襲撃かと思ったが違うらしい。家財道具を背中に背負った市井の人々が見えたのである。


「散開!!」


 とにかく、このままでは踏み潰される。と思った私は、部隊を散開させて呪文を唱える。


『ウインドウォール』


 魔法で風の壁を作り出して足を止めれば、こちらに気付くだろう。


 と思ったのだが、甘かったらしい。人々の集団は、そのまま風の壁を乗り越えてきてしまう。


「『心折の微笑』だ。うわー助けて!!」


 風の壁を乗り越えてきた幾人かが、壁の前方100メートルのところに居た私に気付き叫び逃げ出そうとする。当然、後ろからも多くの人々が押し寄せてくるのに、そんなことをすれば後方から来た人々とぶつかってしまう。


 そうなれば、将棋倒し状態だ。風の壁を乗り越えてきた幾人かは回避できたようだが、10秒ほどで効果がなくなった風の壁が消えたときには、よりいっそう両者の速度差が開き、さらに人々が折り重なっていく……


 わたし……知ーらないっと!!


 そのまま『転移』魔法で人々の後方に転移すると散開していた精鋭部隊と合流して、再び走り出す。


「いったい。どういうことなのかしらね。」


 全く、訳がわからない私は、隣で一緒に走る精鋭部隊の1人に尋ねてみる。


「これは確実な情報じゃないのですが……」


 彼はそう前置きをして答えてくれる。先日の私のスキルの暴走で暴動を隠れ蓑にして王宮の周辺に潜んでいた兵士が1万人ほどいたらしく、その殆どが使い物にならなくなったそうである。


 それを聞いた民衆が恐慌に囚われて、王宮の外に逃げ出そうと準備していたところへ、トンネルから王宮近くに帝国軍が現れたせいで、パニックになって一斉に走って逃げ出したのではないか。と推論を述べてくれた。


「なるほど……それなら、ありえるかもしれないわね。それならば、あんな訓練の行き届いていない集団だったのも頷けるわね。」


 あれが民衆に偽装していた兵士たちという可能性も捨てきれなかったのだが、いくらなんでも訓練された兵士が、私をみつけてパニックになるはずもない。


     *


 先鋒の王宮前の陽動が功を奏したのか、それ以降、敵らしい敵は見あたらず後宮の門に到着する。


「さて、どうしたものかしらね。」


 誰にともなくつぶやいてみる。裏の情報で調べても、後宮に出入りできるトンネルを探し出せなかった。国王が出入りする施設ならば……きっとあるはずと思ったのだが……まああるとしたら後宮ができた数百年前の話だろうから、国王以外は知らなくても頷ける。


「私が行きましょう。」


 そう言って先程の彼がまるで忍者のように壁に飛び上がった。


 しばらくすると、「ぎゃ」というカエルが潰れたような声が聞こえたかと思うと門が静かに開いた。


「お嬢様、お待たせ致しました。さあどうぞ。」


 この声は……。


「あ……貴方……リオウじゃないの? ねえ、そうでしょう。何故、帝国軍のそれも精鋭部隊にいるの?」


 さっきから、どこかで聞いたことがある声だと思っていたのよね。


「わかってしまいましたか。」


 そう言ってリオウは目出し帽を取り去る。


「私、帝国で仕立て屋を営むようにと指示したよね。一体どういうことなの?」


 リオウは例の誘拐犯の養い子で、裏の世界とキッパリ足を洗わせよう私直属で表の稼業を押し付けたのだけれど……いつの間にか、裏の世界で有名な情報屋として成り上がっていたという人物だった。


 魔王討伐の際には助かったし、それからも頼りにしていたのだが、それはこんな荒事をさせないための詭弁だったのだが……


「私たちは、オヤジの元で暗殺者となるべく訓練を積んでおりました。」


 知ってる……『鑑定』スキルで確認したところ、10歳くらいの男の子が『暗殺者レベル4』などという、彼にそぐわない職業ステータスを持っていたのだ。あのときに既に多くの人を手に掛けていたのだろう。


 だからこそ、私は荒事で彼を使いたくなかったのだ。


 でもその希望は叶えられなかったようだ。彼がこの年齢までコツコツと『暗殺者』としての能力を維持しているのだ。日々の訓練を決して怠らなかったという結果なのだ。


「知っていたわ。貴方とリオーネの兄妹が『暗殺者』として育てられたことなんて……私を誰だと思っているの?」


 だからこそ、リオーネが幼いうちにハイエス家の知り合いの家に預け、普通に教育を受けさせて私の侍女としたのだ。


「そうですよね。なんといっても『勇者』さまですから……」


 彼の言葉に思わず顔を背ける。


「もうその名前で呼ばないで、救わなければいけない人たちに手をかけた『勇者』なんて、もう名乗る資格もないわね。」


 もう言い訳の出来ないくらい多くの人々を手に掛けてしまったのだ。


「オヤジから救って貰った上、汚れた私たちを導いてくれる『勇者』さまは貴女しかいないのです。いつか、この力で貴女を助けることができる……それだけを夢見て……日々過ごして参りました。」


「自己満足でしたことよ。だからこそ、こんな対面はしたくなかったのに……バカよ。……まさか……リオーネもそうなの……?」


 私は思い出す。リオーネの繰り出す拳を……あれは訓練されたものだ…った……


「そうなのね。全く、あなたたち兄妹は。」


「処分はいかようにもお受けいたします。いまは召喚の間に向かいましょう。」

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