プロローグ
遅くなりました。申し訳ありません。
「ねえ、本当に来るつもり?」
あれから『転移』魔法でメリーと『砦』まで戻ってきている。早速、帝国軍の侵攻が開始された。
私は帝国軍の中でも選りすぐりの精鋭たち数人と一緒に未だ混乱しているであろう敵の本陣に突撃するつもりでロシアーニア国側の門を開けて待っていたのだったが……そこにメリーも現れたのよね……
大将が敵の本陣に真っ先に突っ込んでどうするよ……
「君が言ったんじゃないか。この軍の中で剣の腕が3本の指に入る人間を連れてこいって……」
「えっ……だって……」
私の知っているメリーはイケメンだけど剣は騎士見習いにも及ばない……どちらかと言えば軟弱な部類の人間だったはず……
頭の中で馬車の中の出来事がフラッシュバックする……そういえば身体を触ったとき程よくツルンとしていて柔らかだったはずの胸板が随分と硬かったような……あれは筋肉だったのか……
なんてこと! よく見てみれば、白く吸い付くようなもち肌だった顔も随分と日に焼け精悍な顔つきに変わっている……
まさに男の子から大人の男性にさま変わりしているようね……今まで私は何を見ていたんだ……過去の幻影を見ていたのか……いや願望で目が曇っていただけなのかも……
「殿下は本当に努力されたんですよ。貴女が陛下を伴い帝国を去ってからというもの……貴女に相応しい男になろうと来る日も来る日も剣に打ち込み、あのときの陛下よりも強いと言われるくらいに……」
皇太子付きの騎士エルタロンがそう話すとメリーが微かに頬を染める。
おいおい。それじゃあゴディバチョフが私の恋人みたいじゃない……やめてくれ! 寒イボが立つ……
「兄には全く追いつけなかったがな。だが足手まといにはならない! アレクが戦いに行くのに私が戦いに出ないなんて有り得ない!! 一緒に戦わせてくれ。お願いだ!!!」
『威嚇』スキルなんてチートは十分に卑怯なのに、それを上回る残虐非道な行いをやり遂げるつもりなのよね……嫌われたくないからそれをメリーに見られたくは無いのに……できれば後方で全軍の指揮を取ってほしかった……
だけどメリーの真剣な目を見ていると何も言えなくなってしまった……
仕方が無い連れて行くか……こちらも一緒に付いてくるというラスにメリーの後方支援をお願いした……メリーは不満そうだったが我慢してほしいの……メリーを失ったら……戦う意義を見失ってしまう。そうなれば全てを放り出して逃げ出すに違いないから。と、説得した……
*
基本的には同じ戦法だ。私にはこれしか使えない。視線をこちらに向けさせて『威嚇』スキルで硬直させ、無防備になったところで1人、1人倒していくのよね……
予想もしない展開になった。私が『フライ』魔法を使って飛び上がるとロシアーニア国軍が一斉に背中を向け後方に向かって走り出したの……くそっ……だれだ。こんな知恵をつけやがった奴。まあユウヤの指示なんだろうけど……
卑怯よ。というか、有り得ない行為よ。プライドの高い騎士なら絶対に行わない。普通の戦いだったら、敵前逃亡として罰が待っているレベルの行いだわ……
あんまりな展開に呆然としていると私を抜かしていったメリーたちが、相手を後ろから切りつける。1人、また1人と相手は倒れていくが、ラスを含めても4人だけでは相手が全軍の1割程度になっているとはいえ、時間が掛かりすぎる……
仕方が無い……この手段は使いたくなかったのだけど……
私は『フライ』魔法で敵の前方に回りこむ。回りこむたび進行方向が次々と変わっていく、一律同じ方向へ……この作戦を与えた人間はしっかりと訓練まで行っていたようね……
だけど、何度も回り込んでいると1人、また1人と私のほうを指をさして立ち止まる人間が出てくる……それは……マントから覗く上半身が肌色だから……しかも、そこには黒いものもチラリチラリと覗いている……おへそが丸出しなのは元からなんだけどね……
そしておよそ半数の人間がその場に立ち止まったのを見て、ラスたちに合図を送りつつ、私はマントをいかにも風で取れてしまったかのように装い外した。
「キャー!!! 見ないで!!」
私は一瞬自分の上半身を見てから、上空に飛んだまま両腕で胸の辺りを押さえつつ、全力で『威嚇』スキルを放った。
まあ見事に引っ掛かるものね。流石にこの手段は、はしたないと思い魔族との戦いでは使わなかったのだけど……あとは、無抵抗の相手を切り殺していくだけなのよね……
全ての相手を切り殺し、メリーたちと合流する。
「それは詐欺だ!!!」
ようやく、硬直が治ったメリーから放たれた言葉がこれなのよね……全くあれほど、合図を送ったらこちらを見るなって言っておいたはずなのに反省もせずにこのセリフ……
間近でみれば、あまりにもバカバカしいかぎりだ。私はしっかりと服を着ていました。流石に裸で戦闘なんて行いませんって……ただ、着ていたのがヌードTシャツもどきだったというだけなのよね……
まさに『男の性』を利用した……素晴らしい作戦と言って欲しかったわ。