6. 勇者の行動
「私はもう子供を望めない身体になってしまったもので……それを告白した途端……彼女の父親を名乗る人物が乗り込んできて訴えられました。」
子供を望めない身体……まさか、女性ホルモン注射……摘出手術……性転換……不要な知識が頭を駆け巡る……なわけないか……
「ああ、言っていませんでしたね……『召喚』や『送還』魔法を使うには寿命が必要なのです。1人分で10年は縮むと言われています……2人『召喚』して1人『送還』した私は83歳というわけなんですよ……」
「そんな……ショウコさんは……いや、彼女は知っていたはずよね……だったら、自分の寿命を使って帰ると言ったはずだわ……」
『知識』のチートスキルを持つ彼女に隠し事ができるはずもない。召喚の間を貸してくれるように言ったはず……
「そんなことをさせられるはずは無いだろ! 私は私のプライドに掛けて、彼女を元の世界に送り届ける義務があるのだよ。」
「ごめんなさい。」
彼のプライドを傷つけてしまった……彼の王宮筆頭魔術師としてのプライドを……
「泣かないで本陣に戻ってください。アレクサンドラ。……どうやら、私はユウヤにハメられたようだ……。あれだけ身近で貴女を見続けてきたというのに、こんな貴女の本質を見謝るとは……くそっ……ユウヤは、『転移』魔法であなたたちの本陣に向かっています……早く……」
「そんな、ユウヤは魔法は日常魔法しか使えなかったはず……」
ラスの話では、ユウヤは魔王を倒したときに得たスキルポイントを温存していたのだという……それを全て魔術師に割り振った。そして、ラスに教えを請い『転移』魔法を身につけたのだという話だった。
「申し訳ありません。ポルテト侯爵家に貴女のご両親が出入りしているという話を聴いて、全てはハイエス伯爵家の仕業だと……貴女の仕業だと思い込んでしまったのです……」
そこに1通の手紙が届く。例の魔法具を使った手紙で本陣に居る指揮官からだった。ユウヤは既に全体の1割もの被害を与えていた……本格的な攻撃命令はメリーしか出せないことから、早くお帰り願いたいということだった……
「メリー? 状況は? 3割の被害が撤退のボーダーラインだったわよね……」
私は次々と質問していく……1割の被害を与えられ睨みあい始めたところで向こうの指揮官が機転をきかせて、選りすぐりの剣士バカたちでユウヤに果し合いを求めたという……
ユウヤも底なしの剣士バカだから……それを受けたに違いない……
「じゃあ、私たちも本陣には戻らずに切り込みましょう……ラス? あの丘の上で陣を作っている兵士たちは全体の1割といったところでしょ? 本隊はここを迂回して私たちの本陣に向かっているはずね……ラスはどうするの? 王宮騎士団は中立の立場を取り、参加したい騎士のみ参加させる方針だったわよね?」
あれから詳しく調査したところ、6大侯爵家のうち中央の3侯爵家を中心とした保守本流グループがクーデターを起こし、国王を殺害。ユウヤを担ぎ上げたそうだ。
残りの侯爵家である辺境伯たちや王宮騎士団は国王に忠誠を誓っていたことを理由に私たちとの戦いは自由参加としたようなのよね……
「流石はアレクサンドラ、相変わらず情報が早いですね。私も参加するつもりはありませんでした……今は違います。私は貴女たちに協力します……私が反旗を翻せば、王都で呼応する人々も出てくるでしょう……旗頭に使ってください……」
「それでは……ラス……貴方の名誉が、これまで成し遂げてきたことへ泥を塗ることになってしまう……それはダメです……」
クーデターで国王を殺害したとはいえ、主権を持つユウヤに反旗を翻してしまうとロシアーニア国で貴族として生きていけなくなるほどの不名誉だ……そんなことはさせたくない……
「いいんですよ……それに私は改めて貴女にアレクサンドラ・アール・ハイエスに忠誠を誓いたいのです……受けて頂けませんか?」
彼は、私の前で腰を落とし、頭を下げると国王の前で忠誠を誓うときの儀式の格好をする……
そんな……私は、忠誠を誓ってもらえるほどの高潔な人間じゃないのに……いつも妄想ばかりで、ラス貴方も知らないだけでその被害に合っているのに……
だが、ここで受けないと言えば貴族としてだけでなくこの世界の人間として最大級の不名誉なのよね……
「お願いします……私を助けて……」