2. 皇太子の真のライバル
「ドトーリーよ。わざわざ、それだけを言いにきたのか?」
彼らを『砦』の施設に案内する。ここは非常の際に防衛の部隊が入れるように作られた施設なので1万人程が寝泊まりできるようになっているの……それが侵攻のため使われることになるとは……
「いえ、ここからが本題ですじゃ。陛下、側室候補の身上書から好きなだけお選び下され、全て後宮に入れても帝国皇室に取っては微々たるもの……皇太子様たちのご結婚をお待たせしないためにも早くお子様をお作り下さいませ……」
今度は、ゴディバチョフの番とばかり宰相が攻め立てている。確かに順番的には、ゴディバチョフの方が先よね。机の上に置かれた身上書は100冊くらいある。
「また、その話か。何度も言うようだが結婚は当分先にしたいと言っておろうが……」
「何故です? 兄さん。まさか……私からアレクサンドラを奪うつもりですか?」
「「それは無い!!」」
またハモってしまった。しかも、手でツッコミを入れるタイミングも同時だ。まったくもうユウヤは変なことばかり教えるんだから……
「では、何故?」
メリーも私たちの結婚が遅れるとあって必死な様子。
「……いや……あのな……」
ゴディバチョフは言いにくそうにしている。もしかして……
「早くアレクサンドラを後宮に入れなくては、いつ何時奪いにくる奴らが……」
「「それはもういいって!」」
「まさか、今回の戦いはショウコさんを呼び戻す布石なんじゃ無いでしょうね……」
『召喚』魔法と『送還』魔法はロシアーニア国だけが所有する極秘中の極秘魔法で他の国の人間は扱えないものらしい。しかも特別な対価必要らしくトップまで上り詰めた筆頭王宮魔術師でも使えるのは1度か2度というものらしいのよね……
一度、ラスに聞いて見た事があったのだが、簡単に用意できるものでは無いのだというだけで絶対に教えられないと言われた……
ロシアーニア国を完全に手中に収めれば、その極秘魔法も手に入れられるだろう……
「……うっ……」
ゴディバチョフが伴侶を貰いたくない理由なんて1つしかない。ショウコさんに未練があるのだ。皇帝になった今こそプロポーズする絶好の機会だとでも思っているのね……
「反対よ!」
ショウコさんに聞いた話では高校受験の当日、召喚されたのだという……今の日本なんて、中卒では碌な職業に就けないのよね。異世界に召喚されたなんて口が裂けてもいえない、即精神病院送りになってしまう。
年頃の少女が何年も神隠し同然に居なくなって、理由を説明できないだなんて……世間で碌でもない扱いを受けるに決まっている……そんな、苦労の中、頑張って生きているであろう彼女を呼び戻すなんてありえない話だ……
「ではどうするのだ。このまま手を拱いていれば、何れユウヤがショウコを呼び戻すことになりかねないぞ!!」
王都に軍を配備するということはユウヤの謹慎は解けたとみていいよね……あの国王が裏切ったなんて考えたくないけど……
辺境伯の言うとおり配備された軍が降参してもしなくても結果は変わりは無い。私の『威嚇』と帝国軍の数のごり押しで片がついてしまう……そのとき、ユウヤが最後の手段として、『召喚』魔法を使う可能性は高いかもしれない……
しかもショウコさんがユウヤにまだ未練があるなんてことになれば、私たちに敵対することになりかねない……対価が何か分からないがその用意ができないうちにユウヤを仕留める必要があることは確かね……
「ユウヤを倒すところまでよ! それ以降は絶対阻止してみせるからね!! ショウコさんを召喚なんて絶対にさせない!!!」
私が引き金になったんだもの、ユウヤがショウコさんを召喚することだけは絶対に阻止してみせる……どんなことが待ち受けていようとも……
「まあ、いいだろう。」
ゴディバチョフはあっさりと引き下がる。
「もしかして、私の真のライバルは、そのショウコなのか?」