8. 皇太子の告白
「おう! やってるな。」
突然、開いていた扉のほうから声が掛かった。
「これは、ゴディバチョフ陛下。ご機嫌麗しゅう……」
帝国皇帝となったゴディバチョフとメリー皇太子が入ってきた。即座に腰を折り、膝を立て頭を下げる。リオーネも完全に地面に頭を擦り付けるようにしている。
「やめてくれ! わが友、アレクサンドラ嬢。君とは一生友達で居ようと約束したじゃないか……そのように腰を折らないでくれないか……頼むよ……恐いんだから……」
途中までは感動的なセリフのシーンだったのに最後の一言でぶち壊してくれる。聞かなかったことにしておこう……立ち上がり、貴礼の体勢に変える。あくまで相手は皇帝だ、礼に失することになってはいけない……
「貴殿も勇気があるな!! ハミルトン殿。アレクサンドラをここまで怒らせるとは……だが、もう許さない! ショウコだけならまだしもアレクサンドラの顔に泥を塗ってくれたのではな。俺の大切な友人たちを土足で踏みつけた行為は俺の顔に泥を塗ったも同然なのだよ……」
半年前に魔王討伐隊から離れるまではあんなにヤンチャ坊主だったゴディバチョフが怒気を静かに孕みつつ迫力溢れる言動をしてくれる。変われば変わるものだ。
こんなことを言っているが、ショウコさんが振られ日本に帰ってしまった、あの瞬間からロシアーニア国に喧嘩を売るための準備をしてきたのよねゴディバチョフは……。できれば私はそれを止めたくて最善の手で動いてきたつもりだったのだけど、結局は引き金になってしまった……
悔しくて涙が出ちゃう。
「ア、アレク……お前、泣いているのか……? 魔王討伐時に歓喜の涙を零した以外、どんなことがあっても泣かなかった、あのお前が……」
女の子だもの泣きたいときもあったわ。目の前で何万、何十万という魔族の死を見てきたけど、それに近いほどの同胞の死も見続けてきたのよ。でも、泣いたら『威嚇』の威力が弱まってしまうもの。泣けるわけないじゃない……
でも最後の涙が歓喜の涙だって……どういう解釈なのよ……魔王城で待ち受けていた魔王が私のロリショタ好きのど真ん中の少年で数百年ずっとその姿だったと聞いて、一生飼い殺しにすればどれだけ幸せな思いができたかと思うと……涙がでたのよね。
ゴディバチョフ……さっきまでの威厳はどこへいったのよ……そこまで怯えなくてもいいじゃない。あのときは、あまりにも悔しくて、あっけなく魔王を討伐してストレスが溜まっていたユウヤと組んで王都にいた魔族たちを嬲り殺しにしたわよ……『威嚇』で硬直した魔族の首をユウヤがどんどん刎ねて……そういえば、それ以降よね……ゴディバチョフが怯えるようになったのって……
「弟よ。ホント感心するよ。こんな恐い……あわわ……アレクサンドラ嬢を嫁にしたいだなんて……」
ゴディバチョフは若干私の『威嚇』に耐性があるので……それだけの数『威嚇』されるような言動があってのことだけど……私が少し睨んだくらいでは硬直しない……眼力を使えばどうなるか分からないけど……
よかった……一応、皇帝の了承は得たのね。それならば、只の口約束とは違うわね……
「もちろんですとも、アレクサンドラを愛しています……私は傷ついた彼女に心が癒えるまで、どれだけでも待ち続けるつもりです……」
プロポーズに返事しなかったことをそんなふうに解釈したのか……やはり、本物の皇子様は違うわね……おもわず、メリー皇太子をぼーっと見つめて背中から腕を回し抱きついて顔をうずめる……
メリー皇太子の後ろ手が私の身体を優しく撫でてくれる。
「私も、私もよ。メリー・ウラジミル……大好き……」
私は改めて正面からプロポーズの返事をして抱きつく。
「やっと、私の名前を呼んでくれたね……アレク……アレクって呼んでいいかい? 私もウラジって呼んでくれると嬉しい……」
「イヤよ。メリーは私のメリーよ……この響きが大好きなの。ダメ?」
ウラジって、裏地を想像してイヤなの……。今までそう呼ばなかったのもそうなのよね。
「うん。いいとも。皇太子は要らないからね。アレクが私のモノであると同時に私もアレクのモノなんだから……」
「ああ、大好きよメリー……さあ、キスをして頂戴……」
私たちは抱き合い夢中でキスを貪りあう。目の端で空気を読まない皇帝が何かを言いたそうだったけど、とりあえず無視ね。
これでこの章は終わりです。
乙女な主人公とその主人公に溺れまくっている皇太子の恋模様はどうだったでしょうか?