4. 母の苦手なもの
「イヤー、ちょっと付いて来ないでよ。来ないでったら! 助けて!! アレクサンドラ……」
突然、母とワオンが部屋に飛び込んできた。
もうワオンを落としちゃったの? 早っ!
いやそんなはずは……。でも、ワオンが母のケツを追い回しているように見えるのは錯覚か?
「ワオン! 何があったの?」
こんなときは直接ワオンに聞くにかぎるわね。母に聞いても何を言っているかわからないもの……
「そこな女の監視をしろと仰せでな。オレッちの部隊総勢で陣中見舞いに行ったら、突然悲鳴を上げて逃げやがって!」
帝国側の指揮官の指示で動いているらしく。母は監視対象となっていたようね。自業自得だけど……
「イヤよ! もじゃもじゃキライ!! どっか行ってよ!!!」
もじゃもじゃ?
「ま、まさか。あれがキライなの?」
ワオンの部隊は獣王国のいろんな獣人が寄り集まった混成部隊だが、当然その誰もがモフモフなの。
獣王国を訪れた随分後で知ったのだが、モフモフすることは痴漢行為に当たるらしく。初めに出会った獣人を散々モフモフした私が痴女扱いされたのは、獣王国での数少ない楽しい思い出のひとつなのよね。
もっと、モフモフしたかった……のに……
「アレクサンドラも知ってるでしょ……もじゃもじゃしているのは苦手なの!!」
確かに母は、胸毛や脛毛がもじゃもじゃっと生えている人がキライなのは知っている。どちらかと言えば私も嫌いだ。
お父様もそうだが、つるんぺたんとしている人しか、母は手を出さない。よく胸毛スキーの『腐女子』友達と意見が対立したもの……だけどその彼女もモフモフは別格でオチどころはその辺りなのよね。
だけど、胸毛や脛毛のもじゃもじゃとあのモフモフ様と一緒にするなんて許せないわ。私が母の立場なら、好きなだけ視姦モフモフしたのに……
「わかったわよ。部屋に入らないようにお願いしてあげるわよ。でも貴女は謹慎中でしょ。部屋の周囲には彼らが居るの。だから、抜け出そうとしちゃダメよ。」
母の本当に怯えている姿が笑える。あんなに美味しそうなのに……
獣人に襲われたら、気が狂ってしまうかもしれない。そうなれば世間では、私のせいにされるんだろうけど……
「でもぅ。私は人肌に触れていないと眠れないのよ。だから、誰でもいいから添い寝してくれる人を寄越してよ! お願い!!」
そういえば……そうだったわね。……いいわね。いろんな理屈があって……部屋に連れ込み放題じゃないの……羨ましい……
そうね……。添い寝要員はお父様に決まりね。
「はいはい。わかりました。だから、さっさと戻って!」
ワオンが他の獣人たちを部屋に入れる。
女性の獣人も居るみたいで安心する。薄布のランニングから、はみ出しそうな迫力ボディ……目の毒だわ。
通常、戦いの場では動きを阻害するからという理由で獣人は裸なのよね……獣王国の街中でも裸で歩いている姿をよく目にする。もちろん自前の毛皮があるから、肝心な部分はほとんど見えないけど、女性の獣人の胸は露わになっている……流石に人族の国に来るときには好欲な視線に耐えられないらしく、このようなランニングシャツにホットパンツという姿が多いのよね。
私の背中に隠れていた母を彼女たちに引渡す。両サイドからガッシリとその豊満な胸に捕まえられると途端に身体の力が抜けたように、くたっとなる。どうやら、気絶したようね……
そのまま、片方の獣人にお姫様だっこされて連れられていく……。母も途中で目が覚めればいいのよ……うふふ……きっと、悲鳴を上げて気絶し直すのだろうけど……
それにしても酷いわ。あんなにモフモフに囲まれるなんて天国のような世界なのに、私が母ほど恥知らずだったら、すきなだけモフモフしたのに! 少年兵とかだったらモフモフしながら手技を駆使してイイ声を聞く!! なんて最高なの!!!
そうか! 母に罰を与えたかったら、獣人たちの海に投げ込めば……ダメだわ。羨ましすぎる……