2. 悪役令嬢の乙女心
うわーっ。睫毛長っ。
ジッと見つめられると途端に自分に自信が無くなってくる。自慢じゃないが容姿には自信が無い。前世で培ったメイクアップ術も現世では通用しない。なにせ、塗るタイプのつけまつげも無ければ、黒コンタクトも無いのよね。もちろん、BBファンデも無いからパテ埋めもできない。
魔王討伐の際、日焼けにも気を使わなかったから、細かいシミも沢山出ている。
今まで『勇者』で選ぶ立場だったから全く気にしなかったけど……こんな小娘のどこが良かったのだろう。
こんなんだから、軽く見られて浮気されるのよね。今度こそ、いつまでも可愛いっていってもらえるように頑張らなきゃね。
見つめられ続けると悪いほうへ考えが向かっていってしまう。どうした私、そんな性格じゃなかったはずなのに……
もっと、ポジティブシンキングだったはずでしょ。誰にも負けない手技があるじゃない。それに夢中になっているはずよ。もう私から離れられなくなっている……はず……でしょ……
動かないわね。もしかして触られるのを待っている?
でも、この甘々な雰囲気を壊したくないなあ。
そんなに見つめられ続けると……ネズミになったような気分。すっごく逃げ出したくなってしまうじゃない。
やっぱり、触ってあげたほうがいいのかな。今ここで始めちゃったら、歯止めが効かなくなりそう。まだ正式に皇太子の奥さんになったわけじゃない……それどころか……プロポーズの返答さえしていないじゃないの……
何やってるのだろう……でも、今ここで、こちらから言い出すのも変よね。
今ここで求婚っぽい言葉を言ってくれれば、どんな言葉でも、貴方の奥さんになってあげるって言うのに……ああ、ダメダメ、上から目線だわ……メリー皇太子との関係は、ずっとリードを握っていたから……こうなっちゃっているのよ。
もっと下手に出て可愛い奥さんを目指さないと……もちろん、夜の主導権は握るけど……あのイイ声は毎晩……いや相手は皇太子だから側室を持つはずだから週1回でいいから……やっぱりイヤ……何がなんでも、この人を独占したい……
「あ、あのう。お嬢様……」
リオーネ……そこに居たの!? うわっ!! 恥ずかしい!!!
顔から火が噴きそうだわ。居るなら居るって言ってよ!
「……コホン……なに?」
咳払いでごまかしてみる。そうよね、傍に居て部屋の扉を開けてくれたのですものね。
「……もしかして『威嚇』が効いてません?」