プロローグ
ここまでお読み頂きましてありがとうございます。
すみません。この小説は恋愛小説です。知ってますよね。
第2章・第3章は『溺愛モード』と『ざまぁモード』です。(別名砂吐きモード)
『戦闘モード』は第4章以降となります。
「私と1曲踊って頂けますか?」
メリー皇太子が腕を差し出す。こうやって見るとなかなかのイケメン振りよね。何をしてもキマっている。なるほどファンが、たくさんいるのもわかる。
「ええ。喜んで。」
周囲から嫉妬の視線が飛んでくる。緩やかに流れるような踊りもなんなくこなす。
それにしても視線が痛いわね。クルクルと踊りながら見ていると小さなお嬢ちゃんからダンスが踊れそうにない杖をついたお婆さんまで、無数の視線が突き刺さる。
でも、男の子の視線が無いなんて片手落ちよ!
皆様~。こうみえて、とってもイイ声で鳴いてくれるのよ~って、教えてあげた~い。もっと夢中になるよん。でも残念だけどあの姿は私だけのものなのよ、いいでしょう~。
途中からアップテンポの曲調に変わる。それまで完璧に踊っていた皇太子の様子がおかしい。視線が縦に揺れているような気がする。私と踊ってる最中なのに、よそ見しないで欲しいわ。
でも方向は私を向いている……私の首、イヤもう少し下か……ははん……皇太子も男の子なのね。
ドレスで盛り上がっている胸が揺れているのが気になるらしい。丁度、背中合わせになったところで演奏が一瞬止まる。
「もう……何処を見ているのよ。そんなに見たいのなら、あちらで踊っている公爵夫人でもみれば!」
私の視線の先には少し太めの女性がその大きな胸を『ポヨンポヨン』と揺らしている凄い迫力である。ついでにお腹も『ボヨンボヨン』と迫力満点だ。
「ぷ……だから……あの……その……」
そんな焦らなくてもいいのに、『男の性』ってわかっているわよ。あとで存分に見ていらしてね、貴方と踊れるならきっとイヤって言われないわよ。
「でも今は私と踊っているのだから、私の顔を見てね……」
そう言うと穴が開くほど見つめてくる。私は踊りながら流し目を送るが、皇太子の瞳に私の姿が映って……もう極端なひとね。よくあれでコケないで踊れるわね。
曲調がしっとりとしたものに変わる。随分と長い曲ね。こういった曲は恋人どうしが愛を囁くように、そうスローテンポでシッポリゆったりとね。やればできるじゃない。
ついつい、イイ声の皇太子の姿が頭にこびりついているせいか、お姉さま視線になってしまうわね。今は彼の腕に身を任せるように……
*
……ちょっ、ちょっと……。曲が終わっても離してくれない。まるで彼の中では曲が続いているかのようにゆらゆらと揺れ続けている。
「ちょっと……離しなさい! 聞こえてる?」
私は彼の耳を引っ張る。心なしか周囲の視線がドロドロとしてきた気がする。
「えっ。終わった……のですね。」
そんな捨てられた犬のような視線を向けないで……ああ、彼は『ネコ』だったわね。
「そうよ。私を大切に思ってくれるなら、そこの公爵夫人から順番に踊ってらして! ノルマは伯爵家以上全てよ。そうしたら、もう一度、踊ってあげるね。」
餌を与えておかないと全員でユウヤ擁護にまわられてしまうじゃない。どんな権力者でも裏に回るとカカア殿下のところって意外と多いのよ。
日本の会社の上司なんか、揃いも揃って3万円の小遣いでヒーコラ言ってたもん。サラリーマン3万円小遣い説なんて、主婦にとって都合がいいように作られた都市伝説なのに……
「お嬢さん、踊って頂けますか?」
少し低めにして、声をかける。ユウヤの側室たちが壁の花になっていた。流石に今の今、彼女たちに声をかける勇気がある男性は、いないらしい。
「ええ喜んで。」
暗くなっていた表情がパアっと明るくなった。謹慎を言い渡されたユウヤについていく気はないようで郷里に帰るらしい。恨まれても仕方が無いと思うが、皆、心が広い。まあ皆、10歳以下で幼いから大人特有のドロドロしたところが無いのかもしれない。
幸いにもユウヤも初潮も迎えていない子供に手を出すつもりは無かったようで清い関係の娘たちばかりだ。
ユウヤはいいところのボンボンだったようだが出来が悪かったようで社交ダンスどころかマナーもできていなかった。だから、各国での歓迎会での彼女たちのダンスの相手はもっぱら私が担当した。
それで割と仲良くしてもらっている。幼い彼女たちなので当然、数多くの教師たちが常に傍に控えていて、その国の常識を学ばさせてもらったから、フィフティ・フィフティの関係のはずなのだけど……
曲が変わる度、次々と側室たちと踊る。これが別れだとわかっているからか、抱きついて泣き出す娘も多い。でも周囲には虐めて泣かせていると思われているのよね……
*
「何を話していたのですか?」
丁度、ユウヤの側室たちに中で一番幼い娘にキスをせがまれているところだった。『救国の勇者』というのは男女なんて関係ないらしい。彼女たちにとっては私もヒーローらしい。
「あっ……」
よそ見をした瞬間、その娘にキスをかすめ取られてしまう。参ったな。周囲の娘たちが狡いって騒ぎ出しみんなとキスする事になってしまった。
「酷いなあ。なにも私の目の前でキスする事、無いじゃないですか……私にもご褒美くださいよ。」
「今ここで?」
こんなところでキスなんかしたら、絶対殺される。
「そういうのは、部屋に戻ってからね。」
私が耳元で囁くと、ぐずったがなんとか頷いてくれた。