10.勇者と男のロマン
「わかりました。貴女にお願いしましょう。」
私は肯定する。その条件なら確実だ。処女性を証明できれば、メリー皇太子と共に帝国に行った場合でも帝国の皇族たちに顔向けできるはず……
でもなんかイヤだな。この世界の神は処女性を重視するのか? 確かにこの世界の宗教の教義には必ず付き纏う問題だ。
しかも『聖女』は神の言葉を間違って伝えると力を失ってしまうらしい。
実際にロシアーニア国の王女は『巫女』としての力を持っていたのだが、ユウヤと婚約した直後にその力を失ったという……12歳の少女とだなんて、日本なら確実に捕まるぞユウヤ!
私は12歳の少年と、だなんて出来そうもない。少年期は、ただ眺めるだけで十分に癒される。花を散らすのは『攻』の少年で、ただ見学するほうがもっといいのだけど……
急ごしらえでテーブルと椅子が用意される。どうやら、皆の前で判定するつもりらしい。私は平然としていたつもりだったが、周囲の人間には緊張しているように見えるらしい。リオーネが寄りそってくれる。
そしてメリー皇太子は、しきりに汗を拭いている。おいおい、信じてくれるんじゃないの?
他の人間たちは、戦が始まるのかと戦々恐々だったものが冷静さを取り戻していく……。誰ひとりとして、私を処女だと思っていないらしい……
*
『聖女』であるハーフエルフは私の手を取り、ブツブツとつぶやいている。
「間違いありません! アレクサンドラ・アール・ハイエスは処女です。」
周囲の人間を見回すと驚愕に目を見開いており、口々に噂話をはじめる。
まあそれは仕方が無い。だがなぜ、ハミルトン王子もメリー皇太子も……そして、リオーネさえも驚いた表情をしているのよ。
いい加減、拗ねるわよ。
「おい、嘘だろ! お前が処女!! ありえないだろ!!! 20歳のババアなのに処女!!!!」
そんな全否定をしてくれなくてもいいじゃないかユウヤ。しかも一言余計だ。
「もちろんですわ。いったい私のことをなんだと思っているの?」
全速で落ち込みから脱却して、ユウヤに言い返す。もちろん、暗にリオーネとメリー皇太子にも向けているのだが伝わっているだろうか?
「各国であれだけ、次々と男を誑し込んでおいて、処女だというのか? ありえないだろ。その淫靡な身体を使って誑し込んだに決まっている! 何かの間違いだ。」
ユウヤには私の身体が淫靡に見えるらしい。もちろん、彼はロリコンだから好みじゃないのだろう。確かにこのドレスを着た私は、自分で言うのもなんだが抜群のプロポーションである。
それは、ウエストを絞りに絞った矯正下着と矯正下着が下から胸を押し上げ、さらに胸元が開き谷間が盛り上がって見えるドレスのデザインのせいである。私自身、そこまでじゃないつもりなのだが……これも一族の補正が入っているのかもしれない……
「ユウヤには言われたくないもんだわ。これだけ、次々と侍らして良く言えたものね。」
私は周囲の彼の側室たちを見渡して言う。
「魔王討伐のために異世界に召喚されて、自然とハーレムが形成されていく。男のロマンだ。それなのに、お前ばかりモテモテで何度悔しい思いをしたことか……」
それで立場を利用してハーレムを作り上げたのか……。そういえば初めの3カ国くらいまではそんなことは無かったわね。
教えてあげればよかったのかな。私のこの手技を、そうすれば彼にもイイ声で鳴く男の子たちのハーレムが……。ちょっと見たかったかも……
「まさか! そのことを根に持っているとか? 最低ね。それはモテないわ。そうよね?」
私は周囲の彼の側室たちに問いかける。既に引き気味だったから、聞かずとも肯定しているのと同じである。自然と彼女たちがユウヤの視線を避け、私の影に隠れるように移動していく。
*
「待て! 待て!! 待ちなさい!!!」
そこへ事態を静観していた国王が杖を付いてやってきた。
「これは陛下、お見苦しいところをお見せしましたわ。」
即座に膝を折り、陛下を出迎える。その様子を呆然とした表情でユウヤが立ち尽くす。
「勝手なことをしてくれたな。ユウヤ。はなはだしく見込み違いだったようだ。謹慎を申し付ける。良いな!」
それでもユウヤは立ち尽したままで膝を折りもしない。
「これで引いてもらえないだろうか? メリー殿、頼む。この通りだ。」
言葉では謝っているが、頭は下げないこれが真の王の姿だ。頭を下げるというのは、本当の最終手段なのだ。それまでは、交渉でなんとかしようとする。
「足りませぬな。最低限、国外追放して頂かないと安心できませぬ。」
何が何でも戦争を仕掛けるつもりは無いようでホッとする。私が原因の戦争なんて見たくない……
「……わかった。だが、すぐには無理だ。わしの独断では無理なのだ。ほんの少しでよいから、時間を貰えぬだろうか?」
「そうですね。アレクサンドラ嬢を連れて、国境まで引きましょう。半月ですよ猶予は。それまでにユウヤ殿の罰を決定して頂く、良いですな。」
「はっ、ありがとうございます。おい! このバカを牢屋に放り込んでおけ!!」
ユウヤは抵抗する気力も無くなったのか、それとも他に考えがあるのか、そのまま連れられていく。これで戦争が回避されるのならば万々歳だ。
「アレクサンドラ嬢、すまなかった……この世界を救って頂いたうえにわが国に縛り付けようなどと……ショウコ殿の言った言葉の意味が今、やっと分かった。この国を本当に憂いているのは、そなただったのだな。ありがとう。」
間近で見る陛下は年齢を重ねているとはいえ、かなりのイケメンだ。下克上攻めもいいかもしれない……
「……こんなことを言ってはなんだが、この国の一員として再び活動してはくれぬだろうか。」
私が場違いな妄想を振り払うように首を振っていると、どう誤解したのかこんなことを言う。それは、帝国との橋渡し役を担えということかな……。めったに無いことだが襲爵ということもありえるのかもしれない。
ここまで如何でしたか?
恋愛物として初めて書いた小説です。気に入って頂けたらブックマークもお願いします。