地の文練習 お題「約束、覚えてますか」
「約束、覚えてますか」
その声はどこか震えていた。僕の答えに怯えるように。いつもは明るく元気な彼女が、今はその様子も見えず逆に弱々しく思える。今にも折れてしまいそうな枯れ木のように。
正直、僕は覚えていなかった。だけども、そのことをそのまま彼女に言ってしまえば傷つけてしまうということは容易に想像出来る。だがここで覚えていると嘘を言ったところで、そんなものはすぐに見抜かれるだろう。だからここは正直に言ってしまおう。
「ごめん……覚えてないんだ……」
僕の言葉に彼女は驚いた様子はなかった。やっぱりね、と少しだけ頬んでくれる。そんな彼女に僕は申し訳なく思う。彼女の期待に応えられなかったこと。彼女を悲しませてしまったことに。
「そうだと思ったよ……君ってば大事なことはいつも忘れちゃうんだもん……」
最初の弱々しい雰囲気は消え去り、いつもの彼女に戻っていた。その様子に僕は安堵し、自然と笑みが漏れてしまう。
「本当にごめん。でもきっと、必ず思い出すから」
「こっちだって。君が思い出してくれるまで、どこまでだって付きまとってやるんだから」
そこに折れそうな枯れ木はなく、あったのはとても大きく立派な一本の木だった。僕が独りでいるところを必ず見つけてくれる大きな木。もう彼女を悲しませるようなことはしたくない。彼女には笑っていてほしい。そう思い、僕ら二人は笑いあった。