運命が俺を異世界に連れて行こうとするのであの言葉を叫んで何度も阻止してやるつもりだ
キキィィーーー!!!
4tトラックの猛々しいブレーキの摩擦音が鳴り響く。
これで何度目だろうか。俺が何も知らない時は、ただこれを受け入れる事すら出来ずに、何度も何度もトラックに轢かれ、吹き飛ばされ、肉塊にされ、カラスの餌にされた。そして精神は、幾つもの異世界に転生した。そのほとんどが、異能力や霊力、超能力、魔法などの力を俺に授けてくれた。そのおかげで俺はちょっとした大道芸人みたいな奴になってしまった。しかし、強い力は使えない。何故なら異世界に転生した後、長くて3年間、最も短いのが転生する前に出会う女神に轢き殺されて、なんて事もあった。
きっかけは、そう、もう2千回以上転生した頃に最長記録の3年間を後10分で越える事ができるぞ、と歓喜していた時の事である。俺は事前に地下室を見つけておき、そこに引きこもっていた。絶対にトラックに轢かれる事はないだろう。しかし俺は、まだ不安を拭い去る事はできなかった。今までは鉄の檻に引きこもったが檻ごとトラックに破壊されたり、最強のシールド魔法を使える賢者に事情を頼んで守ってもらっても、敵の最高峰の古代魔法その名も"トラック"によって一緒にかき消された。またある時は、流行の病"トラック"によっても殺された。
トラックは形、概念さえも変えて僕を殺しにかかってくる。トラックってなんなんだ。トラックとは.....ああああああああああぁぁぁあああああ!!!!俺は自暴自棄になっていたのだ。だから地下室に引きこもっていた。これも何の安全性もない事は分かっている。いつどのようなトラックが俺を襲ってくるかわからない。しかし、俺は恐ろしい事を聞いた。この世界では核ミサイルの事を"トラック"と言うのだ。それを聞いた瞬間シェルターに逃げ込む事を決心した。その後大道芸でお金を貯めに貯め、食料を買い込み、質素に生きてきた。これでは生きている意味がないそう思いながらも、やはり死ぬのは怖い。2千回以上死んでも、それだけは変わらない。いや、いっそう強くなっていると言ってもいい。
しかし、食料も尽きてくる。後数分で記録を塗り替えてるというのに餓死寸前だ。この世界では餓死を"トラック"とは呼ばない。俺は思った。このまま餓死で死んだらこの輪廻も終わるのではないだろうか、と。しかし、運命は非常だ。ドアが突然開き、月に一度様子を見に来てくれる係りの人が俺を心配して介抱してくれるのだ。ありがたい。ありがたいが。俺を、俺を地上に上げないでくれ。治療はここで行なってくれ。だが、今の俺には声を出す力も残っていない。助けを呼ばれ数人がかりで地上に連れて行かれる。そして外界へのドアを開いた瞬間。核融合による爆裂が俺を中心にその街、都市ごと消し去った。俺はもうどうしようもなかった。
俺はその時無意識に叫んでいた。もちろん声は出ない。出ても擦れにかすれたカッスカスの声だ。しかし、そんな事はどうでもいい。言葉を発したと言う事に意味があるのだ。その言葉がこの運命の連鎖にどのように作用したかはわからないが、なんと僕だけが生きている。それもなぜか核ミサイルによる2次被害の放射能によっても死ななかった。それは、その2次被害も含めて核ミサイルいう兵器だと言うのに。しかし、時間をおいて放たれた、第2射出目の"トラック"によって俺はチリとなった。
俺はその後の転生先で考えに考えた。この輪廻を終わらせる事ができる言葉があるという事が分かっただけでもウッキウキである。手がかりはある。それは、一人称が僕という事だ。だからここからは一人称を僕に変えて進行していく。なぜ僕が、今まで俺俺と言っていた僕が、それを止めたかというと。それは、地下に長く一人で居座り過ぎたためである。脳が退化し、暇な事もあってその頃の一人称が"ぼくちん"になっていた。「ぼくちんクッキーおいしいでしゅー」なんて言っていた。なんせ、2年近くも地下室でこもりきりだったのだから仕方ない。だが、他人がいる時はそんなことは言う事はできない。2年近く引きこもっていても羞恥心を無くす事は出来なかった。故にその時、瞬間的に"僕"と出たのである。
もう一つ手がかりがある。それは生への執着である。死の拒絶と言っても良いだろう。確かにその瞬間、僕は生きる事に執着した。生を渇望したのである。そして、それが言葉となった事だけ覚えている。何を言ったか覚えていないが。その後、何度も何度も試したが、その度何度も何度も"トラック"という概念に殺された。「僕は生きる!」「僕は生きたい!」「僕が生きるんだ!」など一語一語変えて何度も何度も、イントネーションも変えたりして何度も何度も繰り返した。
そして、その時は突然訪れた。それは、その世界でパンチの事を"トラック"と言う異世界に転生した時の事である。僕はそれを聞いた瞬間「パンチで殺されるのか」と茫然自失になりながら、その瞬間に放つ言葉を考えていた。そして、チンピラに絡まれる。異世界に転生して1時間後の事である。僕は最後の言葉と覚悟も決めた。案の定、身の覚えのない因縁をつけられ、殴りかかってくる。僕は少し冷静な自分を自覚しながら言葉を放った。
「僕は..........シェン!」
終わりの言葉を発したと同時にチンピラの"トラック"が炸裂する。気を失った、が、命はまだあった。そして、今回に限ってはパンチによって記憶が飛んだとかそういう事もない。しっかりとその時叫んだ言葉を覚えている。僕は歓喜した。この終わりのない運命を終わらせたのだ。その後は、好きな時に、この世界に飽きた時にあえて言葉を発さずに異世界転生を繰り返しているだけだ。
そして、僕は最高の世界にたどり着いた。この世界は今までのどの世界よりも美しく楽しく、何と言っても僕自身が超絶イケメンのチート能力完備のモテモテハーレムだったからである。そして、いつものように"トラック"が僕を殺しにやってくる。しかし、僕はある一言を発するだけだ。
そう
「僕は死にましぇん!」