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織り髪姫  作者: 佐伯寿和
母は子を産む
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緑色の子宮

大人になって思い出す、絵本を読んでいるような感覚がこの作品の原動力です。

ボンヤリとした背景を歩く浮遊感を持った作品になればと思います。

昔々、深い、深い森のただ中に、雲を衝くほどに大きな木が一本立っていました。

大きな木のある森はとても広く、木々の林冠りんかんは平らなので、空を飛ぶ鳥たちには緑色の海に見えたかもしれません。そんな森に立つたった一本の大きな木は、宇宙そらに散りばめられた星々を渡る巨人の片足のように、何人も近づけさせない威厳と違和感で満ちているのでした。


神様よりも長い時間を生きる大きな木にできないことは何一つありませんでした。

枝葉を揺らして星の並びを変えることも、根っこを動かして山を作ることも、吐息で天候を自在に操ることだってできました。

ですが大きな木は何もしませんでした。ただ、ただ雲の上からうかがえる世界を黙って見下ろしていました。

南極でヒグマとカエルが挙げた結婚式も、大空に浮かぶ蜂蜜の海も、七色の血を流すヒトの奇怪な一生も。 人間が、世界がうたう神様の名前が幾度となく変わる光景を、大きな木は静かに見下ろしていました。


何度、夜空を彩る星々が黒い宇宙そらの中に散っていったでしょうか。散っていく星々でさえ、忘れ去られる神様たちにでさえ、彼らのことを想う誰かが側にいました。

しかし、大きな木の側には誰もいません。大きな木のことを想う人も、大きな木のことを知る人も。


とても、とても広い森だというのに、そこには誰一人住む者はいませんでした。

人も、獣も、化け物も。

とても、とても大きな森だというのに、誰もこの大きな木のことを知りません。

人も、獣も、化け物も。


森の周囲を、槍のように長く鋭いとげをまとったいばらが城壁のように何重にも囲っているからです。

少し視線を上げればそこに大きな木は悠然と構えているというのに、誰も彼もが恐ろしい茨にばかり目を奪われて大きな木には気付かないのです。

それだけ森を囲う茨は命ある者たちにとって危険なものに思われていたのでした。


また、この茨はまるで鉄のように丈夫でした。剣や斧はこれを一本切り落とすだけでたちまち刃こぼれしてしまい、使い物にならなくなってしまいました。火を放っても全く燃え移りません。

ですから、領土を拡げたい王国の軍隊も、職をなくして町にいられなくなったサルやウサギも、羽虫や小鳥さえも、この森にはチラリと目をることもなく避けていってしまうのです。

豊かな風と陽光、雨すらも、この森に降り注ぐことを嫌がる始末。


ただ年に数回、宇宙そらを旅する流れ星たちが空高く伸びた大きな木の若葉の上に腰を下ろして長旅の疲れを落としていくのですが、流れ星は孤高の旅人。静かにやってきては静かに去っていくので大きな木は彼らがやって来たことなど知るよしもありません。

だというのに彼らの拭った汗は、大きな木の若葉をたちまち黄金色に染めてしまうのです。

だから次の日になって、1枚の若葉がキラキラときらめいていることに大きな木は不可思議な気持ちを覚えずにはいられませんでした。


誰にも知られぬまま、気付かれぬまま、何千、何万年以上もの時間が流れました。それでも大きな木はいつの日かやってくるであろう話し相手が現れる日を心から待ち焦がれていました。

空よりも高く育った木は、見えるもの全てを憶えました。いつの日か誰かが訪ねてきて話題に困らないように。何億とある若葉に憶えさせました。

それでも、やっぱり誰かが彼を訪ねてくる気配など微塵みじんもありませんでした。風が、太陽が、雨が、森の頭を撫でるばかり。


そうして大きな木は、たった一人永い時の流れの中にいることにようやく淋しさを覚え始めるでした。

それは平穏な時間でもありました。誰にも邪魔されない健やかな時間で満たされていました。ですが、やはりどこかで淋しさを覚えずにはいられません。

するとある日、大きな木はとてもとても心暖まる夢を見るのでした。


とある国の若い王様が、キツネの女の子をめとるとても幸せな夢でした。

世界中のあらゆる出来事を見てきた木にとって、それは何でもない日常の風景の一つのはずでした。

ですが、淋しさにうれえていた大きな木の心にその夢は深く刻まれるのでした。

それはまるで、大きな木が『孤独』の深みにはまるのを待ち構えていたかのようなのです。


夢から覚めると大きな木は、『夢』というこの世で最も妖艶ようえんな人差し指に導かれるように、一つの店に視線を向けるのでした。

そこはとある一国の城下町。その外れに人気のない、不思議な人形店がひっそりと建っているのでした。

気紛れな性分なので、連載にむらがあるかもしれませんが、頑張って続けますので最後までお付き合い頂ければと思います。

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