プロローグ
「お父さん、これなぁに?」
少年の父親が仕事帰りの土産と言って少年に渡したものは、ペンダント。
「これは、ペンダントだよ。だけどただのペンダントじゃない」
父親はしゃがみ少年の目線と位置を合わせた。整えられた髭、澄んだ目、少年に向けて微笑んだ父親はタバコのニオイを纏っている。
「これは・・・このペンダントは、すごい力を持っているんだよ」
「すごい・・・力?」
”すごい力?”このペンダントに? どういう意味なのだろう?
到底理解はできなかった。
「理解はできないだろうけど、いつかはわかるさ。」
父親は少年の頭を撫でた。そして人差し指を少年の目の前で立てた。
「水都、一つ約束だ。このペンダントを必ず自分の周りに置く事。そうすれば、”すごい力”っていうのが何なのか分かる。どうだい守れるかい?」
「うん。わかった」
少年はその”すごい力”が何なのか興味が湧き、すぐに承諾してしまった。
「よし」と父親が言い、立ち上がる。
「さて水都、またお父さんは仕事に行かなくちゃならない。お母さんの話はちゃんと聞くんだぞ?」
「うん。わかった」
父親はここ最近、家に帰ってはまた仕事へ戻るということが多くなった。
ドアを開けた瞬間、父親は「あっ」と声を発した。
「水都、そのペンダントのデザインは模様じゃなく文字だ。何の文字か分るかな?」
少年はペンダントを手に取り、輪に吊り下がった部分に目をやる。
「ううん。わからない・・・・・・丸に・・・線が刺さってる・・・」
「それは、”ファイ”って言うんだよ」
「ファイ?何それ?」
「まあ、わからないのも無理はない。なんせ高校くらいから知る記号だからね」
「また帰ったら、教えてあげるよ」
「うん」
少年は返事をし、父親を見送った。
しかし、父親は七年経っても家に帰ることはなかった。どこに行ったかもわからず、父親名義で家にお金は送られてくるが、どこから送っているのかは分からなかった。
十六歳の高校生になった少年は、いまだにペンダントを持ち続けている。
そのペンダントが”すごい力”を少年の前で見せたことは一度もない・・・。