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悪魔がたり  作者: 寛喜堂秀介
ユビサキー鍋島直樹と障り神の巫女ー
51/58

ユビサキ05



 多久美咲は、城東の上流家庭に生まれた。

 父は一流企業の管理職で母は専業主婦。祖父母は三軒挟んだ古民家に住んでおり、両者健康。同じ屋根の下にはいないものの、行き来は頻繁だ。


 子供は、美咲一人。

 温良な家族の愛情を、美咲は一身に浴びて育ってきた。

 評価には、おっとりとした、という形容を使われることが多い。

 良い友人、良い家庭に恵まれ育ってきた美咲は、自然とそうなっていた。


 天然、という形容は、しかし彼女にはふさわしくない。

 相手の言葉をゆっくりと噛みしめる癖があるため、反応は常に遅いが、頭はむしろいい方だろう。ただし運動に関しては壊滅的であるが。


 ほとんどストレスもなく育ってきた美咲だが、彼女にはひとつの趣味があった。

 オカルトだ。かつてそれが高じて悪魔を召喚し、直樹たちクラスメイトを死のゲームに巻き込んでしまったことがある。

 今やそれを知っているのは鍋島直樹、龍造寺円、宝琳院庵の三人のみであり、美咲自身それを忘れているが、彼女の性質は、だからこそ直らなかったと言っていい。


 だから。

 己の背後にある“背後様”を“悪魔さま”と名付け、それが実態を持つほどに――信仰してしまった。


 自然と人が集まった。

“背後様”を信じている人は多く、しかし実際に力を持つ“背後様”がいる人間など存在しなかった。

 信仰の中心として、象徴として、祭り上げられないわけがない。


 しかし。より人を集めるものがいた。

 それが“神がかりの巫女”小城元子。“背後様”の教えを、最初に受けた少女だ。


 彼女は長い間、塀で囲まれた施設に居た。

 それでありながら、密かに教えを広めていき、たちまち教えは塀を越え、広がっていった。

 多久美咲は彼女に会い、知った。自分が、彼女が出所するまでの代わりでしかなかったことに。

 背後に“ヒゼンさま”を持つ彼女は、圧倒的なカリスマを持って人を集め、美咲は彼女の後塵を拝すことになった。


 美咲はそれでもよかった。

“悪魔さま”は確実に、自分の背後に居る。

 それだけで、美咲は強くなれた気がしたし、実際、鍋島直樹と想いを通じることもできた。

 元子と一緒に巫女をやって、直樹と一緒に居られれば満足だった。


 だが、あの日。

“悪魔さま”に願い、諌早直に罰を与えたことを元子に伝えると、彼女は美咲に、廃ビルから出ないように言いつけた。

“背後様”のことを――正確にはそれが力を持つことを知り、邪な心を持って美咲と接触を図る人間から切り離すために。


 つらかった。

 家族に会えないこともそうだが、それ以上に、やっと想いを通じあえた鍋島直樹と会えなくなることが。

 このままいつまでも、廃ビルの中で仲間と過ごすしかないのだろうか。そんな考えが浮かび始めた、矢先。美咲は直樹が廃ビルに捕えられたことを知った。


 何故かはわからない。

 ひょっとして、自分を探してこの場所に乗り込んでくれたのかもしれない。そう思えば、美咲の胸はときめく。


 小城元子は会ってもいいと言ってくれた。

 でも、会ってどうしよう、という迷いがある。

 直樹と一緒にここで過ごす。それはひとつの理想だけど、やっぱり、直樹は帰りたいだろう。自分と同じように。


 でも、逃がせるだろうか。

 あの“神がかりの巫女”を裏切って。

 迷いを引きずったまま、美咲は唾を飲み込み。一度、深く呼吸してから扉を開いた。









「直樹くん」



 入ってきた少女に、直樹は目を驚かせた。

 この数日、直樹があらゆる伝手を頼って探しまわり、それでも見つからなかった少女だからだ。



「多久、お前」


「美咲、って呼んでほしいな」



 呆然とつぶやいた直樹に対し、少女はすこし恥ずかしげに頬を掻いた。

 思わず見とれるようなしぐさだった。直樹は頭の中で首を振りながら、口を開く。



「ここに居たのか」


「うん。あれからずっと、ね」


「家族への連絡もなしに、どういうつもりだ」


「あたしも連絡は、したかったんだけど……駄目なの。“教義”で携帯は持ってちゃいけないし、しばらく帰らない方がいいって巫女様が」



 美咲の様子は、心底困ったようで、家族と教義の板挟みに会っているのがわかった。

 直樹は深く息を吐き出す。



「だったら俺の携帯使え。ポケットに入ってるから。親にくらいは無事だって連絡しとけ。無茶苦茶心配かけてるぞ」



 そういうと、美咲は決心したように縛られた直樹のポケットをさぐり出し、首をひねった。



「あれ? でも、直樹くん携帯ポケットに無いよ?」


「……くそ、当然盗られてるか」


「当然だろう? この状況で携帯を取り上げない間抜けは居ないよ」



 横から、急に声が割って入った。



「おねーさん」



 直樹は言って秀林寺寝子のほうを振り返る。

 美咲が小首をかしげた。



「おねーさん? この人直樹くんのおねーさんなの?」


「その通りさ」



 と、寝子は臆面もなく嘘をついた。

 だが、下手に直樹との関係を勘ぐられるよりは、それで納得してもらった方がよほど手っ取り早い。



 ――ひょっとしたら。



 直樹は思う。

 彼女が直樹に自分のことを「おねーさん」と呼ばせたのは、自分が直樹の姉だと美咲に誤解させるためだったではないか。

 だとしたら、秀林寺寝子。この悪魔のごとき少女は、あの“ユビツギ”の事件の折から、数か月後の今、この状況を予測していたのだというのか。


 ぞっとするような考えに至って。

 ふと、直樹は気づくことがあった。



「……美咲。おねーさんの――そうだな。あの分厚い厚底靴。あれのヒールのへんをちょっと調べてくれるか?」


「え? う、うん」



 美咲は靴を片手に首をひねりながらも、素直にヒールの辺りを探りだす。



「あ、ちょっと、いやだよいやらしい」



 美咲は案外遠慮がない。嫌がる寝子の靴を、無理やり奪ってしまった。

 美咲が靴をひねると分厚いヒール部分が外れ、中から携帯電話が出てきた。直樹のものだ。



「俺の、ってことは、いきなり当たりか」



 もうひとつのヒールには、秀林寺寝子の携帯が入っているに違いない。



「直樹、なんでわかったんだい?」



 靴を奪われた寝子が、恨めしげに眼を眇めてくる。

 直樹は涼しげな顔で視線を受け止めた。



「おねーさんは読めてたんだろ? 俺と一緒に誘拐されることを。だったら、あらかじめ大事なものは隠しておける。そう思って見たら、おねーさんのファッションで、すこし靴に違和感があったからな。これだと思った――美咲」


「はい?」



 解説のあと、急に声をかけたためか、美咲は一拍遅れて首をかしげた。



「とりあえず、それで家に電話しろ。話はそれからだ」


「でも……」



 少女はしばらくためらって、それから、口を開いた。



「……おとーさんに怒られる」


「怒られるようなことをしたんだから、当たり前だろ? つーか俺も怒ってる。でも一番怒る権利があるのは、一番心配した人間に決まってるだろう?」



 直樹はそう言って笑いかけた。

 美咲は、しばらく直樹の言葉を咀嚼するように目を伏せて。



「……うん」



 と、うなずき。

 美咲はためらいながら、家族に電話をかけた。

 彼女が声を出した途端、怒鳴り声が直樹まで届いた。

 それから、美咲はつっかえながら、涙を流して謝っていた。

 その涙は暖かなもので、見ている直樹もなんだか暖かい気持ちになった。


 電話を切った後、美咲はやけにすっきりとした顔で、直樹に微笑みかけてきた。



「直樹くん、逃がしてあげる」



 意外、ではない。

 多久美咲が、どうやら小城元子にたいしてそれほど好意を抱いていないことは、なんとなく察してとれた。

 しかし、直樹に執着していた彼女が、あっさり逃がしてくれるというのは、これはやはり、よい変化なのかもしれない。



「美咲。おねーさんは足が不自由なんだ。出来るか?」


「出来るよ。あたしだって“悪魔憑きの巫女”で、それなりに人望はあるんだから」



 強い意志を秘めた瞳で、多久美咲は部屋を出て行った。

 しばらくして、彼女は数人の男女を連れて帰ってきた。みな、中学生から高校生くらいか。一人だけ三十路過ぎと思しき男が混じっている。



「安心して。神がかりの巫女様より、あたしの言うことを聞いてくれる人たちだよ」



 彼女はそう説明した。


 直樹たちは、縄を打たれたまま数人がかりで担ぎ出された。

 通路は、薄暗い。所々、目印のように灯してある蝋燭がなければ、とても歩行はおぼつかない。


 蝋燭は不規則かつ必ず扉の向かい側に置かれている。

 人の気配がある。ひょっとして、そこに人がいるという目印なのかもしれない。

 だとしたら。少なくない数の人間――おそらく数十人が、この場所に滞在していることになる。


 辺りは異様な空気に包まれている。

 まるで、この場所に住まう人間の、狂気を映したかのよう。


 それは。

 美咲に従い、自分たちを担ぐ少年たちを見ながら、直樹は思う。

 それは、この少年たちや――美咲からも、確実に発せられている。


 階段に差し掛かったところで、人とすれ違った。

 まるですべてが眼中にないような、そんな瞳をした少女は、美咲の姿を見ると一礼し、そのまま、また何も見えないように過ぎ去っていった。


 その後、数人とすれ違ったが、やはり反応は同じ。

 驚きも感動もなく、ただ無表情。わずかに見て取れたのは、多久美咲に対する敬意と、若干の羨望。

 口を開く者がいたかと思えば、それは己の“背後様”に対する祈りの言葉でしかない。誰もが誰もを顧みない。



 ――こいつら、縛られてる俺たちにすら、かけらも興味がないってのか。



 寒気を覚えながら、直樹は思う。

 ここは、異界だ。すべての人間が、自分にしか興味がない。

 感情が凍てついたような。あるいは、狂気が凝ったような。尋常でない世界。


 間違いない。

 ここは、あの悪夢の夜と同じだ。

“ユビサシ”の、死のゲームが生み出した、狂気の空間と、同じ世界。



 ――多久……お前。



 美咲の後ろ姿は、この異空間に、哀しいほどに馴染んでいる。

 まるで、自分はこちら側の人間で――二度と、元の世界に戻ることはないとでも言うように。









 無事廃ビルを出た直樹たちは、大通り近くまでそのまま担がれてきた。

 もう深夜近い。車は多いが、人通りはほとんどない。路地際の異様な集団に注意を払う人間はいなかった。


 直樹と寝子は、そこでようやく縄目を解かれた。

 それほど無茶に縛られたわけではないが、それでも数時間縛られ立手首には、深く縄目が残っている。



「大丈夫?」



 ひりひりと痛む腕をさすっていると、美咲が心配そうに顔をのぞかせてきた。

 たいした事はないさ。と返しながら、手首足首をほぐす。

 長時間固定され、固まった直樹の関節が自由を取り戻した頃。

 その様子を、ほほを緩めて見ていた美咲が、ふいに口を開いた。



「それじゃあね、直樹くん。電話、貸してくれてありがとう」


「美咲」



 直樹は分かっていた。

 美咲が、自分と一緒に帰るつもりなどないと。

 だから、まるで永遠の別れのように言う彼女の表情は、想像通り、悲しみに満ちていた。



「ほんとはずっと一緒に居たかったけど、そうするつもりだったんだけど……やっぱり、わかったの。それをやったら、あたしの好きな直樹くんは、いなくなっちゃうんだって」



 言って美咲は笑顔を作った。

 作り笑いの奥に潜んだ寂しさと、悲しみが、隠し切れていない。



「美咲、お前、帰らないつもりか?」



 直樹は、あえて問いを発した。

 答えは分かっている。だけど、言わずにはいられない。



「お前は、本当にそこにいたいのか?」


「帰りたい」



 美咲の声は切なげで、絞り出すようだった。

 その、悲しみに。悲しみを強いたあらゆるものに、直樹は、怒りを覚えずにはいられない。



「――帰りたいよ。でもね、あたしを“悪魔憑きの巫女”と慕ってくれる人たちがいるの」


「だからどうした!」



 直樹は声を張り上げた。

 怒りをぶつけるように、めいっぱい言葉を叩きつけた。



「たしかにお前は“巫女様”なのかもしれない。それで救われてる人間がいるのかもしれない。だからってお前は“多久美咲”を捨てるのか!?」


「直樹くん……」


「捨てなくていいんだよ! 簡単にあきらめるなよ! 迷って涙流すくらい大切なもんなら、みんな抱え込んじまえよ! 手に余るんなら助けてやるよ! 俺だけじゃない! 家族にも、クラスメイトにも、もっと相談しろよ! もっと――勇気出せよ!」



 一息に吐き出して、直樹はじっと美咲を見据える。

 迷いは、彼女の視線に出ている。大通りに立つ直樹と、路地の陰に控えている仲間たちとの間を往復する彼女の視線は、そのまま美咲が何を悩んでいるか、察するに足る。



「……巫女様」



 ややあって。

 いままで居ないもののように控え、黙っていた男女。

 その中で最も年かさの、少壮の男が静かに口を開いた。



円城寺えんじょうじさん」


「巫女様――いえ、失礼ですがあえて多久さん、と呼ばせて頂きます。初めて出会った、あのときのように」



 男は言葉を続ける。



「私はあなたを信じた。憧れた。それは私たちが使えない超常の力を使えるからだけではありません。

 あなたの人柄が、依るに足るものだったから。多久美咲を慕う気持ちがあったから、あなたのもとに集ったのです。同じ教えを信じる……仲間として」



 男が、静かに語る言葉。

 それに同調するように、周りの男女も粛として、美咲にただ視線を送っている。



「円城寺さん……みんな」


「“背後様”の教えを、自らが頭に立つことに利用した“神がかりの巫女”を、私はけっして信頼してはおりません。あれは教えを私曲する者です。だからこそ、わたしはあなたに本拠から離れて欲しい。少なくともここに居る人間は、みなそう思っております」



 男の言葉に、彼の仲間たちはみな同意を示した。

 彼らの言葉を、戸惑いながら受け止めて。

 美咲は深く、うなずいた。



「……分かりました」



 言葉とともに、彼女は歩を進めた。

 つま先は大通り、直樹の側に向かう。

 少女の顔に、街灯の冷めた光が触れる。

 もう一度、少女は振り返り、仲間に向かって宣言した。



「あたしは、“神がかりの巫女”から離れます。みんなは自分が。自分と、それぞれの“背後様”に恥じないよう、それぞれ考えてやりたいようにしてください。じゃあ、また。こんどは同じ教えを信じる人として、会いましょう。最初に出会った、その時みたいに」


「ええ。美咲さん。では、また」



 気がつけば。

 あの、廃ビルの中で見た狂の色が、ここにいる人達から消えている。


 きっかけは、直樹の言葉だったかもしれない。

 だが、自分で払わなくては、狂気はけっして拭えはしないのだ。

 みなが大通りに出て、それぞれの方向に歩いていく。その表情には、どこか強い芯を感じた。


 それを見送ってから、多久美咲と鍋島直樹は笑顔を合わせる。



「行くか、美咲」


「ええ、直樹くん」



 大通りと路地裏。光と闇の間堺を越えて直樹が差し出した手を、多久美咲はしっかりと握った。









「しかし、うまいことやったもんだね」



 タクシーを拾い、美咲を送った帰り。

 それまでずっと大人しく座っていた秀林寺寝子は、不意にそう言ってきた。

 城東から直樹の住む旧城下町への途中、薄暗いタクシーの中。助手席に座る彼女の顔は、よく見えない。



「上手いこと?」


「当面の問題をぶつけることで地雷要素を彼女の意識から逸らして、図式を単純なものにさせた。これが上策だったってことさ」



 運転手をはばかって小声で返したが、少女のほうは遠慮するつもりがなさそうだ。

 不審全開な話題だったが、壮年の運転手は少年少女の会話を邪魔するつもりはないらしい。知らぬ顔をして聞き流している。

 それに感謝しながら、寝子の言葉を咀嚼して、直樹は首をかしげた。



「地雷要素……何のことだ?」


「多久美咲の、鍋島直樹への恋愛感情。これが実は大地雷。下手打つと拉致監禁~ふたりは永久に~エンドまであったんだ」


「あ」



 指摘され、直樹はようやくその事実に思い至った。



「完全に忘れてた……」


「天然とか。展開と関係ないところでおねーさんの予測を裏切って欲しくないんだけど」


「それくらい読めとけよ」


「なんでもかんでも勘任なきみの動きって、本当に読みにくいんだよね」


「おい、人をなんにも考えてないみたいに言うなよ。けっこう悩んでるんだぞ?」


「まあ、おねーさん的にはちょっと得した気分になったからいいんだけどね」



 抗議に耳を貸す様子はないらしい。

 直樹はあらためて、思い出してしまった問題に頭を抱える。



「はぁ。マジで美咲、なんで俺のこと好きなんだよ……」


「教えないよ。レディのプライベートだからね。でも、そうだね。別にたいした理由はないよ。いつの間にか好きになっていた。それで不足かい?」


「いや、でも俺なんて」


「直樹の自分への過小評価は脇に置くとして。きみは勘に頼るくせに行動に理由を求めすぎだよ。好きになるのに理由なんていらないだろう?」


「理由なんて、要らない……宝琳院が憤死しそうな台詞だな」


「いや、直樹がどう思ってるか知らないけど、彼女はもっとおおらかな人間だよ。人を理で読み解くのはただの趣味で、それに収まらない理不尽も、彼女は立派に許容している」



 そんなもんかね。と直樹はつぶやいて。

 そうだよ、と少女は振り返り、片眼を瞑ってみせた。


 タクシーは直樹を御城手前駅に下ろすと、夜の闇の中に消えていった。

 去り際に寝子は何も言わなかった。彼女がその可能性に気づいていなかったはずがないから、やはり直樹の敵である少女は、そこまで言う義理などないと思っていたのだろう。



「さて、帰って……円たちへは、メールだけしとくか」



 諌早直を障った“悪魔さま”の正体があの“ヒゼンさま”と同質である以上、すでにネタは割れている。

 あとは宝琳院庵に仕組みを解いてもらい、円に処置を任せれば、諌早直も回復する。すべては元通りになるのだ。



「そうだな、そしたら俺も……」



 直樹のつぶやきは、夜風に流れてすぐに消えた。









「“悪魔憑きの巫女”が袂を分かった」



 悪魔の住処のごとき廃ビルの一室。

 カーテンと絨毯で赤く彩られた部屋で、小城元子は椅子にもたれかかりながら口の端をわずかに上げ、一人語落る。



「たしかに損失かもしれないけど、それって予測のうちなんだよ。鍋島直樹さん」


「白音ちゃんをわたしのものにする、その手筈はもう整っている。それにまだ気づいていないのなら……あの女の買いかぶりだったのかしら? だとしたら、至極愉快だわ」


「――ねえ? “ヒゼンさま”?」



 元子は静かに、背後の影に語りかけた。





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