親愛なる君へ
泣いてしまった君へ。
君と僕が出会ったのは、ここの公園だったね。
最初の出会いは最悪だった。
僕は君の大事にしていた泥団子を割ってしまったんだ。
君は僕が何回謝っても大泣きし続けて許してくれなかった。
でもお花の頭飾りを作ったら笑ってくれたよね。
泣いてしまった君へ。
入学式、知ってる顔があると思ったら君だった。
びっくりしたよ。学校がどこだかわからなくて、べそかいてるんだ。
僕はなんだか手を握るのは幼心ながら恥ずかしくて、君の袖を引っ張って
学校へ連れて行った。一緒の学校だったことに驚いて、でも嬉しかったんだ。
泣いてしまった君へ。
僕が滑り台から落ちて右手を骨折したのを知って、
君は僕の三角巾をハンカチ代わりにして号泣したね。
正直、無理に動かされたからすっごく痛かったんだけど、
僕を心配してくれる君の姿で痛みなんて吹っ飛んでた。
気がついたら笑ってる僕がいたよ。
泣いてしまった君へ。
君は頭が良いもんだから、中学校を受験して入ったね。
僕も受験って響きかっこいいって思って、
受験したんだけどさ、まぁ不合格だったよね。
「あたしを騙したね!?」って君は僕を指差してボロ泣きしてたけど、
僕だってその中学校に行きたかったんだよ?
ほんとはかっこいいから受験したわけじゃないんだ。
君がそこに行くと聞いたのだから。
泣いてしまった君へ。
僕は初めて女の子に告白をされた。
僕には『好き』という感情がよくわからなかった。
でもその子を傷つけたくなかったし、断ることはしなかったよ。
それをさりげなく君に言ったら、散々僕に悪口言って涙を流したね。
その時、僕はすごくショックで後悔をしたんだ。
そういえば、このへんから君はオーバーに泣かなくなったよね。
まぁ泣き虫だってことには変わりはなかったけど。
泣いてしまった君へ。
それから時は流れて、僕はとっくのとうにその子と別れていた。
僕は週一で君に会えないと辛いような身体になっていたよ。
感動する映画に行きたがらない君が、大好きになっていった。
そして高校受験、今度こそ僕は君と同じ高校に入れることになったんだ。
合格の報告と同時に、僕は君に告白したね。
初めて嬉し泣きをする君が見れた。その姿を見て僕も涙腺が緩んでしまった。
泣いてしまった君へ。
僕の高校生活はあっという間に過ぎていったよ。
学校内で会いすぎて色んな噂をたてられたけど、僕ら毎日を笑ってすごした。
大学になってまた会えなくなるということをふとした時に考えて、また考えるのをやめた。
もう結婚したかった。それだけに僕は君のことを愛していたんだ。
でも君にはお花屋さんになりたいという夢があった。
お花屋さんって大学行って資格とらなきゃいけないのかな?
僕は何度も聞こうと思ったけど、いつもたわいもない会話にその思いはかき消されていくのだった。
泣いてしまった君へ。
結局僕らは大学へ通うことになった。
君と同じ大学が良かったんだけどお花の専門学校に、
興味がないのに行くのは少し酷だった。
だから僕は君と結婚したときに安定な暮らしができるように、
そこそこの給料がもらえそうな公務員を目指して無難な総合大学に入学をした。
道端に咲いている花を見ると、心なしか僕から彼女をとった友達のように見えてきて、
少し溜息をつきたくなった。
君がいないのは寂しいけど、しっかりしなくちゃね。
泣いてしまった君へ。
どうやら君のすぐ泣いてしまう癖が僕にうつってしまったようだ。
やりきれないよ、こんなところで事故に遭ってしまうなんて。
首から下はもう動かないんだってさ。あの予定をキャンセルしとけばよかったね。
せめて遅刻すればよかった。行きは自転車で行けばよかった。
すべて、すべてが遅すぎる。
イヤホンから流れるラブソングが遠くのほうで聞こえた。
泣いてしまった君へ。
病室に駆けつけた君は、声を上げて泣いていた。
君はせっかく泣かなくなってきたのに、
今までの積み重ねをどこかへ放って、僕を抱きしめた。
僕はその小さい背中を抱くことさえできなかった。
泣いてしまった君へ。
こんなこと君に口が裂けても言えないけど、
死んでしまいたいよ。こんな姿じゃ君を守れないよ。
大好きだけど、このままいたら君も不幸になってしまう。
それだけは避けたい。
泣いてしまった君へ。
だから僕は君に言ったんだ。
君に愛想をつかせたから別れてくれって。
本当のことを言ったらきっと君は僕のそばから離れないから。
君は昔のようにぐずって何回も僕から理由から聞き出そうとしていた。
泣いてしまった君へ。
でも僕は君への聞く耳を持たずに拒み続けた。
この日、君は面会時間に渋々帰っていった。
僕は叫び続けた。恨めしいほどに白いシーツを掴んだ。
これで合っているはずなんだ、時期に彼女は幸せになる。
信じている、だから僕は無理にでも笑うんだ。
泣いてしまった君へ。
また僕のところに君はきた。
僕は君の顔を見ることさえできなかった。
ふと自分の頭に何かがかかる。
それは妙に良い匂いのする花の頭飾りだった。
「あなたがあたしの夢をくれた。
だから今度はあたしがあなたに夢を与えるの」
そう言って笑う彼女の頬に、伝う透明の筋が光った。
僕は僕と一緒にいることがマイナスだとしか思えなかったのに。
その言葉は僕を捕らえて離さなかった。
泣き崩れる僕を、君は涙を瞳に溜めながらもう一度抱きしめたのだ。
泣いてしまった君へ。
僕ももう一度頑張るよ。
たとえ何があってもくじけないよ。
これからも色んな迷惑かけちゃうと思うけど。
嬉しさの涙が、悲しみの涙の比率に負けないように。
とりあえず手始めに僕はこんな文章を書いたよ。
宛先をなんて書こうか迷ったんだけど、
シンプルにこう書く事にした。
泣き虫な親愛なる君へ、これからもよろしくね。
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